何故か姫と戦うことになりました。(3)
あれ。おかしいな。
俺の目には姫の持っていた剣が飛んだのが映っている。
だがそれはありえないはずだ。
何故なら、まだ姫の剣は俺の目で全然追える速度だった。
それに、俺程度の斬撃で手が緩むはずがない。
だが、わざと負けたというのは考えられないだろう。
多くの見物人がいる上にあの性格、そして負けたらなんでもするとか言ってたくらいの自信だ。
だとしたらこの状況はどういうことだ。
姫が地面に倒れそうになっていて、その剣は宙を舞っている。
そして俺は剣をしっかり持っていて、無事に立っている。
くるん、くるんとゆっくり宙を舞う姫の剣を見て考える。
……ゆっくり……?
姫は倒れていない。まだバランスを崩しているままだ。
剣も落ちていない。まだ宙を舞っているままだ。
まるで周りの世界の時間の流れが遅くなったような。
いや違う。
俺が速くなっているのか!?
そう気が付いた瞬間、周りの時の流れが突然元に戻る。
先程までゆっくり空を舞っていた剣は一瞬で地に刺さり、バランスを崩していた姫はすぐ倒れた。
「なっ…………」
周りの人が言葉を失っている。
「今の一瞬で一体何が!?」
一瞬……?
ふんっ!!!
姫と戦った時の様に集中し、戦闘態勢に入る。
次の瞬間、周りの世界の時の流れが急に遅くなった。
周りにいる貴族、俺たちを見て唖然としている王、倒れた姫、固まっているシエラとエッシェル。
シエラとエッシェルに関してはどうせ固まっているだろうから分からないが、周りの時間が確実に遅くなっている。
というかほぼ動いていない。
何故だ。前に俺が魔物と戦った時はこんなこと起きなかったはず……
…………
そうか。分かったぞ。
きっとこれが俺のスキルにある"速度アップ"なんだ。
認知速度まで上げることが可能なのだ。
3倍の2倍の5倍の2.5倍の4倍。
よく考えたら俺は今通常の速度の300倍になっているんだ。
おそらく時間そのものが300倍速になるわけではないのだろうが、相当速くなるのに間違いはない。
……うむ。バフの重ねがけ、恐ろしい。
俺が考えに一区切りつけたところで周りの時間が元に戻る。
「………………」
姫が倒れたまま動かない。
あれ。これやばくね。
「大丈夫か……?」
ゆっくり姫に近づき、顔を覗く。
姫は汗を流しながら息を切らしていた。
「何よ……あの……速さ……」
息を切らしながら姫が俺に言う。
「やっぱ速かったか?」
「何……言ってるのよ……異常よ……」
ゆっくりと体を起こし、地に座る。
「私の速度を3倍にする技能と、体力を消費する代わりにさらに速くする技能を使ったのになんで貴方の方が速いのよ……」
なるほど。途中でいきなり速さが上がったのはそれを使ったからか。
「ま、まあいろいろあってな」
「あ、そういえば戦う前に負けたらなんでもするとか言ってなかったか?」
「あ」
どうやら覚えていたようだ。
だが別にそんな軽い口約束を真面目に受ける必要はないしな。普通に気にするなとだけ言っておくか。
「そのことなんだがーー」
「そんなこと言ってないわよ!!この馬鹿っ!!!!」
失われていた体力が戻ったのか、急に元気になり顔を赤くして走ってどこかへ行った。
「行っちゃった……」
俺が全力で走る姫の後ろ姿を眺めていると、後ろからパチパチと手を叩く音が聞こえる。
その音はだんだんと増えて大きくなり、拍手になった。
「お見事!!」
「凄いです!」
兵士や貴族、そして王までもが俺達の戦いに拍手をしていた。
もう姫はいないが。
「いやあ、まさかタケル殿がここまで強かったとはのう!!」
王が俺のところまで歩いて言う。
「ま、まあ剣も使えるんで……」
「先の試合、凄かったぞ!お主ら100回くらい打ち合っておったのう?」
あんまり数えていなかったが、全部の斬撃を数えたらそのぐらいなのだろうか。
「お言葉ですが、246回です」
王の後ろから、エメラルドグリーンの髪を持った騎士が話しかけてくる。
「むぅ?お主は何者だ?」
「失礼しました、私はノールドという、先程遠征から帰還した者でございます」
「はっはっは!そうでおったか!」
「そちらがタケル様でございますか」
「あ、ああ」
「先程の試合を見させていただきました。とても見事な剣術、感銘を受けました」
「いい試合だったなら良かった」
周りの人から見たらかなり短期決戦だっただろうがな。
その頃、ユティナ姫は。
「まったく何よ!!確かになんでもするって言ったのは私だけど!!」
イライラしながら廊下を歩いていた。
「もう!!なによあいつ!!!めっちゃ弱そうな感じしといて私より強かったじゃない!!!!」
バタァン!!!!!!
勢いよく自室に入り、扉を閉める。
「はぁ……」
扉に内側から寄りかかり、そのまま床に座る。
「…………私より強い人、初めて出会ったわ……」
部屋の天井を眺める。
「あの美しい剣捌き、あの速い切り返し、そして私の剣すら飛ばしたあの鋭い一撃……!!」
「タケル様、なんてお強いお方……」
その少女は、恋をしていた。




