何故か姫と戦うことになりました。(2)
俺は今、王城にある中庭にいる。
中庭に用意されている、ちょうど剣で模擬戦などをするのにいい感じのスペースに立っている。
そしてそこで俺は、自分の過去の言動に後悔し始めている。
「まさかタケル殿が剣まで使えたとはのう」
王が言う。
まさか王が試合をわざわざ見にくるとは思っていなかった。
なんか周りに貴族っぽい格好をした見物人とか集まってきてるし。
最初は適当に負けとくつもりだったけど、これわざと負けたりしたら殺されかねないな。
「ほう、ユティナ姫と戦うのか」
「へえ、見ものじゃないか」
なんか人が結構集まってきてる。
どうしよう。
横目ですこし離れた場所から見ているエッシェル達を見る。
二人共すごい期待の目を向けてきている。
やばいな。これやばいな。
俺軽く戦うとか言っちゃったけどこれ冗談でしたとか言ったら殺されるな。
「もちろん私が先程貴方に防がれた攻撃は本気じゃないわ。でも今度は本気でいかせてもらうわよ!!」
向かい側にいる姫が剣を抜き、剣先をこちらに向けてくる。
俺が攻撃を防いだ?一体何を言っているのだろうか。
なんかよくわからないけど本気でくるとか言ってるし、俺大ピンチだな。
期待の目を向けてくるエッシェル達、興味津々に見てくる王、なんか知らないけど集まってる貴族、王の隣から見てる兵士、そして姫。
俺の斜め上どころか垂直上方向に思ってたよりも真剣な勝負だった。
もうこれ真面目に戦うしかないな。多分真面目に戦った上なら負けてもなんとかなるだろ。
俺は前にシェスタから受け取った剣を抜く。
実はこの剣返すの忘れてたんだが、忘れててもなんとも言われなかったし俺のものってことでまあ大丈夫だろう。
何か言われたら返せばいいし。
「準備はいい?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
いざ戦うとなると緊張するな。
Sランクの超強い冒険者らしいし、剣での勝負な以上俺が勝てる可能性はおそらくゼロだろう。
でもせめてまともな戦いくらいはしたいからな。
……そうだ、相手はすごく素早いらしいし、速度アップのバフでもかけておくか。
ー音速剣士・超加速ー
150秒間速度が3倍。
ー歴戦の斧使い・速度強化ー
2分間速度が2倍。
ー時空戦士・時間圧縮ー
100秒間速度が5倍。
ー勇者・加速術ー
3分間速度が2.5倍。
ー疾風の双剣使い・疾風加速ー
2分間速度が4倍。
まあ適当に5個くらい使っておくか。
ちなみに、世界での速度アップは最大速度と認知速度が上がるというもので、集中すれば周囲の攻撃がスローに見えたり、自分の攻撃を一時的に速くしたりなどできる便利なものである。
さらにちなみに、タケルは周りがスローに見えることまでは気がついていない。
「いいぞ」
「分かったわ。じゃあそちらの方に開始の合図を任せようかしら」
姫が剣先で右にいた兵士を指す。
「承知しました!!」
姫がこっちに視線を戻す。
「それでは試合……開始!!」
兵士が手を上から下に振り下ろす。
兵士の掛け声とともに姫がこちらに走ってくる。
まだどんな攻撃を放ってくるかわからないから様子を見るか。
俺は動かず、どう動くか観察する。
「ふっ……!!」
近くまで来ると、余裕そうな表情で剣を右から左へと、俺の懐に振る。
いくら戦う前に防具をつけたとはいえ、おそらく受けたらひとたまりもない鋭さだ。
「はっ!!」
剣を回し、斬撃を防ぐ。
「!!」
姫が剣を弾かれ、何故か驚いた表情で少し後ろに下がる。
まだまだ全然目に見える速度だし、きっと最初は手加減してくれてるのだろう。
「はあああああっ!!」
今度は連続で剣を振って来る。
一発一発が的確に急所を狙った斬撃だったが、別に防げないわけでもない。
キュンキュンキュンキュンキュンキュン!!!
連続で斬撃を防ぐ。
「やあっ!!」
こんどは少し速度が上がった斬撃がくる。
キュン!!
しっかり防ぐ。
「やああああああっ!!!」
こんどはかなり速い斬撃が連続で来る。
キュキュキュキュキュキュキュン!!!!
剣から火花が散りそうな勢いの斬撃で、確かにすごく速いがまだ目に見える。
「やああっ!!!」
こんどはさらに鋭い一撃がくる。
キュゥン!!
剣を合わせて防ぐ。
「はああっ!!!」
今度は突きを混ぜた斬撃を連続で放ってきた。
今度の突きと斬撃は普通の斬撃よりもずっと速いが、別に見えないわけじゃない。
まず右肩に突きが来た。
体を時計回りに少し回転させて避ける。
次に胸元に突きが来た。
上半身を後ろに下げて避ける。
今度は右から左へ、頭への斬撃だ。
少し下にしゃがみ、避ける。
次は左上から左下の斬撃。
体を時計回りに大きく回転させ、避ける。
次は右上から左下の斬撃。
軽く後ろに跳び、避ける。
一歩前に出て、胴体に突きを撃ってきた。
体をねじらせ、避ける。
今度は上から下への斬撃。
右に跳び、避ける。
避けた瞬間剣を折り返し、左から右への斬撃。
うまく体を曲げて回転させ、ぎりぎりで避ける。
俺の体が宙に浮いた隙をついて跳躍し、突きを放つ。
姫の剣先を俺の剣の腹に当て、剣を滑らせて突きの軌道を曲げる。
そして突きが外れたところで剣を回し、姫の背中に斬撃を放つ。
姫は咄嗟に体を回転させ、片足を地面につけて剣を受ける。
そしてバランスを崩したところでもう一撃放つ。
すると姫は地面に剣をつけ、後ろに跳躍して距離を取る。
「はっ!!」
跳躍して距離をとった姫を追い、斬撃を放つ。
右上から左下。
左から右。
上から下。
右下から左上。
右上から右下。
下から右上。
右から左上。
左上から左下。
下から左。
次から次へと斬撃を重ねていく。
なんか姫は必死な表情で防いでいるが、俺の斬撃もそんな速くも感じないし別に本気というわけではないだろう。
左から右。
右から上。
右上から左。
左から下。
下から上。
上から右下。
右下から右上。
右上から左下。
左から右。
右から左。
左から右上。
上から下。
下から上。
左上から右下。
右下から右上。
右上から左下。
上から左下。
どんどんと斬撃を加えていくと、姫の剣を持つ手が緩くなってきた。
今度は力を入れて、左下から右上。
ガキュゥン!!!
姫が持っていた剣が飛んだ。




