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勇者と一緒に屋台を回りました。

「い、今勇者って言ったか?」


「うん。」


「も、もしかして聖剣とか持ってたりするのか?」


恐る恐る勇者と名乗る少女に聞いてみる。


「あるよ。これだね。」


少女が腰につけている剣を抜く。

鞘から抜かれた剣は光り輝いていた。


「ひえぇっ!!」


エッシェルが1メートルくらい下がり、尻もちをつく。


その後、すぐにエッシェルがこっちを見て地を這ってくる。


「どうしよタケル!!あれで斬られたら死んじゃうよ!!」


「まじか!まさか本物の勇者に会ってしまうとは…」


「君たち面白い人だね!別に君たちを斬ったりはしないよ!」


金髪の少女が笑いながら言う。


あ、そういえばエッシェルが魔王だって気づかれていないのか。


「もし私が魔王だったら斬っちゃうの!?」


「と、とにかく君たちは斬らないから安心してって!!」


涙目で訴えるエッシェルを少女が鎮める。


「お、落ち着けエッシェル!」


俺はエッシェルを勇者から引き離す。


「君たちってもしかして冒険者?」


少女が俺に言う。


「あ、ああ。よく分かったな。」


「なんとなくそんな気がしてね。君たちは今何してるの?」


「今ちょうど昼食を済ませるために屋台を見て回ろうとしてるところだ。」


「そうなんだ!ボクもちょうど屋台を回ろううとしてたんだ!せっかくだし一緒に回ろうよ!」


勇者と一緒に屋台を回るだと!?!?


「あ、えっと……」


ここはどう答えればいいんだ!?絶対に一緒に回るのは避けたいが不自然な断り方では逆に怪しまれる……


「どうしたの?何か一緒に回れない理由でもあるの?」


早速怪しまれている!!


「もし回れないなら……」


まずい!!殺される!!!


「回れる!!!回れるから!!!!!!」


咄嗟に答える。


もしかしたら人間でも勇者からの誘いを断れば死刑みたいなルールがこの世界に存在するかもだからな……

危ないところだった……


「え?あ、そう。それならいいんだけど。」


(別に用事があって回れないなら無理しなくていいって言おうとしてたんだけど……何か勘違いされちゃったのかな……?)


「ど、どうして誘いを受けちゃったの?」


エッシェルが小声で俺に言う。


「もし下手に断ったら剣の錆にされるかもしれないだろ!!」


小声で返す。


「なるほど!」


エッシェルが納得する。


「ん?どうかした?」


「いや!!なんでもない!!」


「別に用事があったら一緒に回らなくてもいいんだよ?」


「大丈夫だ!!用事なんてないから!!」


「それならよかったよ。あ、そういえばボクの名前知ってる?」


「いや、知らない」


「ボクはシエラ・アスティア。君たちは?」


「俺はタケル・ミズタニだ」


「私はエッシェル・アストラルだよ!」


「それじゃあ早速回ろっか!」


「ああ」


「う、うん!」


まさか勇者と一緒に屋台を回ることになってしまうとはな。




「ねえ、シエラってどうしてこの街に来てるの?」


エッシェルが質問する。


「この街の近くで魔物が大量発生してるらしくてね。ボクはその調査のために別の街のギルドからこの街まで来たんだ」


魔物が大量発生…もしかしてあの虎の魔物だったりするのだろうか。


「さっき森で狩りしてたら同じ種類の魔物ばかりに遭遇したんだが、もしかしたらその大量発生した魔物かもしれないな」


「そうなの!?大丈夫だった!?」


「別に大した強さじゃなかったぞ」


「タケルが素手でばーん!!って殴り飛ばしてた!!」


「そ、そうなんだ。流石にそんなに弱い魔物じゃないから二人が遭遇した魔物は違うと思うよ」


「そうか」


あの虎の魔物よりさらに大量に発生している魔物がいるのだろうか。


「ねえねえ、勇者なのにどうして一人で歩いてるの?」


エッシェルが聞く。


そういえば一人で歩いていたな。まだ仲間が一人も見つかってないのだろうか。


「あ、うん。今は仲間がいないからね」


「見つかるといいな」


「うん……」


「ねえねえ!あの屋台行こうよ!」


エッシェルがお好み焼きのようなものを作っている屋台を指差す。


「いいね!行こう!タケルはどうする?」


「二人が行くなら俺も行くぞ」


「わーい!!」


その後俺たちは数時間、たこ焼きのようなものや綿菓子のようなものなどをたくさん食べて回った。

エッシェルと楽しそうに話す姿、美味しそうに食べ物を食べる姿、元気に走る姿。

その時のシエラは勇者ではなく、一人の女の子そのものだった。

屋台には日本の祭りと同じような食品や、この世界特有のものだと思われる食品など、いろいろ置いてあった。

途中で酢を売っている屋台があったのは印象的だった。

いや、なんで酢だよ。




「ぷはー!!美味しかったー!!」


「楽しかったけどちょっと時間かけすぎちゃったね!!夕食が遅くなりそうだよ!」


「昼食食べたはずなのに日が沈もうとしてるな」


俺たちは最初に会った噴水の石垣に肩を並べて話す。

ただ、最初に会った時とは違いすっかり打ち解けていた。


「そういえばシエラって冒険者なんだよ」


「うん」


「何ランクなんだ?」


「Sランクだよ」


「まじか!?!?やっぱ勇者なだけあって強いんだな……」


「まあ、聖剣あってこそだけどね」


「Sランクの人がここに来るってことは、いっぱい出てきた魔物がすっごく強いってことだよね?」


エッシェルがシエラに聞く。


「いや、その魔物自体はそんなに強くないんだけどね、もしかしたら魔人が関係してるかもしれないんだ」


「魔人…?」


エッシェルが前に言っていたな。たしか魔物を従えてるんだったか。


「うん。魔人でもないとこんな一気に魔物を出すなんてできないからね。それに魔人の中でもかなり強い魔人だと思う」


「まあSランクが呼ばれるくらいだからな」


確かSランクは最高ランクってギルドに書いてあった気がする。


「タケルたちは何ランクなの?」


「実は今ちょうど俺たちFランクに上がる試験を受けてるんだ」


「私たち確か午後6時までに……」


「「あ」」


俺とエッシェルが向き合う。


「午後6時までに戻らなきゃいけないんだった!!!」


「屋台に夢中になって試験の最中ってことわすれてたよ!!!!」


俺とエッシェルが同時に立ち上がる。


今は何時だ……?


俺は意識を集中させる。


現在時刻:17時58分17秒


「あと2分切ったぞ!!!」


「え!?ほんと!?早くもどらなきゃ!!」


「悪いシエラ!!俺たちすぐに試験会場戻んなきゃいけないんだ!今日はありがとな!!」


「シエラ、ありがとね!!」


「え?あ、うん。こちらこそありがとう」


「じゃあな!」


「じゃあね!」


俺とエッシェルが冒険者ギルドの方に向けて駆けてゆく。


シエラはそんな二人の後ろ姿を見た後、夕焼け空に視線を移す。


「なんだかあの二人、ボクの昔の仲間に似てるな……」

10000PV突破しました!!ありがとうございます!!

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