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矢を放ったら的が消えました。

「今何が……」


シェスタが俺がかざした剣を見て、戸惑う。


「あいつら魔法だけじゃねえのかよ!!」


「ギルド長に剣で勝つなんて!!!」


冒険者達がざわめく。


「隙をついた私が何故……」


シェスタが俺を見る。


「お前が攻撃してくる隙を作ったのはわざとだ。見事に突っ込んでくれて助かったぞ」


本当は思いっきり負けたと思ったがな!!


「魔法だけでなく剣術まで……貴方達一体何者ですか?」


流石に転生者と魔王ですとは言えないよな。


「ただの旅人だよ」


そう言いながら冒険者達が居るところに戻る。


「……あのー、ギルド長?」


しばらく固まって動かなかったシェスタに冒険者が言う。


「あっ、ごめんなさいね!それでは最後に弓の試験を行います!」


シェスタが気をとりなおして言う。


「弓が使える冒険者は並んで下さい!」


シェスタがそう言うと、今度は半分くらいの冒険者達が立ち上がった。


まあ弓の撃ち方なら一応知ってるし、受けるだけ受けてみるか。


俺が立ち上がると、すぐにエッシェルも立ち上がった。


「お前も弓できるのか?」


「うん!お父さんに習ったから!!」


魔王は弓も使ったのか…


「それじゃあ順番に隣に置いてある弓を使って、この的を射て下さい」


シェスタが弓用の小さめな的を、もともと藁の的があったところに置く。


「矢は一人につき3本です!」


シェスタが裏から矢を数本持ってくる。


「3発撃ったら矢を回収して次の冒険者に渡して下さいね」


そう言いながらシェスタが一番前に並んだ冒険者に矢を3本渡す。


「はい!それじゃあ行きます!!」


最初の冒険者が弓を引く。


「やあっ!!」


放たれた矢は、綺麗に的の横の何もないところに飛んで行った。


「まだまだっ!」


もう一発撃つが、ギリギリ当たらない。


「はあっ!」


最後の矢は、なんとか的の端に刺さった。


「すげぇー」


「的に当たったぜー」


冒険者達の声が聞こえる。


的に刺さるだけでも凄いのか。まあ確かに結構遠めの位置だし的も小さいからな。

弓の撃ち方を知ってるだけの俺じゃあ流石に当たらなさそうだ。


「やったー!当たった!!」


先ほど的を射た冒険者が撃った矢を回収する。


「次!」


ちょうど矢を次の冒険者に渡した時、シェスタが言う。


「はい!!」


冒険者が元気に返事する。


10人程度の冒険者達が弓で的を射ようとしたものの、結局3人程度しか的に矢を当てれた者はいなかった。


「次は私だねー!」


エッシェルの番が回ってくる。


「貴方達弓もできるのね……」


シェスタがエッシェルとその後ろに並んでいる俺を見て、呆れた声で言う。


「簡単だよ!!」


エッシェルが誇らしげに言う。


「それじゃあ早速行くね!!」


弓と矢を受け取ったエッシェルが早速的に向けて弓を引く。


パシュン!!


エッシェルが矢を放つと、その矢は的に一直線で飛んでゆき、ど真ん中に突き刺さった。


「おおおおおお!!」


「すげえええ!!」


冒険者達から拍手が巻き起こる。


「あら、凄いわね。1発で終わりにすることもできるけれど、どうするかしら?」


シェスタがエッシェルに提案する。


「なんでこんなんで終わっちゃうの?まだまだここからじゃん。」


「え?」


バシュン!!!!


エッシェルが先程よりもさらに強い威力で的を射る。


「な……」


「えっ……」


冒険者、そしてシェスタが言葉を失う。


エッシェルが射た的には的のど真ん中に突き刺さった矢、そしてその矢のど真ん中に突き刺さった矢があったのだ。


「ええええええ!?!?」


あまりの凄技にシェスタが思わず驚く。

正直俺もかなり驚いている。


「まだまだぁっ!!」


バシュンッ!!!!!!


皆が言葉を失う中、エッシェルが3発目の矢を一番強い力で撃つ。


その矢は、的のど真ん中に刺さった矢のど真ん中に刺さった矢の、そのさらにど真ん中に刺さっていた。


「ええええええええええええええ!?!?!?!?!?!?!?」


冒険者達がさらに驚く。


「貴方本当にヒューマンなの!?」


シェスタがエッシェルに言う。


実は魔王なんですけどね。とは口が裂けても言えまい。


「影手!」


エッシェルが唱えると、壁の影の形が黒い手のようなものに変わり、矢を回収する。


「あっ、2本壊しちゃってごめんなさい!」


エッシェルが割れた2本の矢をシェスタに渡す。


「え、ええ。どうぞ」


シェスタが予備の矢を2本エッシェルに渡す。


「ほら!次はタケルの番だよ!!」


俺はエッシェルから矢と弓を受け取る。


「あ、魔法は禁止ですからね?」


シェスタが俺の魔法を警戒したのか、俺に言う。


「安心しろ。魔法は使わない」


俺は弓を構え、そして引く。


そうだ、もしかしたら弓系のスキルとかもあるんじゃないのか?


俺は思考を研ぎ澄ませる。


ー白銀の射手・閃風矢ー


あった!!


「まあ弓なら魔法とか剣とかとは違って出来る限界がありますし、いくらタケルさんでも……」


自分に言い聞かせるように言うシェスタの真横に一陣の風が吹く。


「うぉあああああっ!?!?」


「何!?!?!?」


冒険者達、そしてシェスタが凄まじい風に苛まれた。


そう、俺が放った矢が凄まじい風を起こしながら的に向けて飛んでいったのだ。


「タケルこんなことも出来るんだ!すごーい!」


暴風をものともせず、エッシェルが目を輝かせる。


「俺はお前の方が凄いと思うがな」


「一体何が…!!」


シェスタが暴風が収まった後、的の方を見る。


しかしそこには的などなく、元々的だったと思われる木の破片と強化魔法がかかっているはずの壁に開いた穴があった。


「魔法使わないって言いませんでした!?!?」


シェスタが俺の方に迫る。


「あれ魔法じゃないと思うよ?」


すかさずエッシェルが言う。

魔力が見えるエッシェルは魔法かどうか判別できるのか。


「魔法じゃないとあんなことができるわけが…」


シェスタがふと気がついたように言うのを止める。


「そういえばあの矢には魔法をかけられないようにしておいたはず……」


シェスタが小声で言う。


そんなこともしていたのか。まあ試験だし不正は見逃せないからな。


「ということは技能……?」


技能?


「技能ってなんだ?」


「タケルさん知らないんですか?神から授かった職業には皆技能がついてるんですよ。自動で発動する技能と手動で発動する技能のうちの後者にならあの矢が放てる技能があってもおかしくはないのですが…タケルさんの職業って魔術師ですよね?それにもしこんな技能があったとしても弓系の上位職くらいしかないと思うのですが…」


シェスタが言う。


技能はスキルみたいなものか。きっと自動発動のがパッシブスキルで、手動のがアクティブスキルといったところだろう。


「ま、まあ俺特殊な魔術師なんで……」


なんとかゴリ押しで誤魔化そう。


「それなら試験が終わったらじっくり聞かせてくださいね」


先延ばしになっただけだった。

みなさん評価、そしてブックマークありがとうございます!!


ちなみにシェスタさんの口調が試験が始まってから敬語になってるのは試験官モードに切り替えたからなんです。

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