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夏と海

夏と海

作者: 綾凪 海月

月の見えない夜だった。母さんの言葉に堪らず家を飛び出してきたけれど、行くあてなんてない。家から遠ざかるように歩く。「ボクは悪くない」声に出してみる。今日家に帰ると「あの子とは関わらないようにしなさい」と母さんは言った。アイツは先週の始めに転校してきた。無口でよく分からないヤツだ。


アイツとは前の日曜日に近所の公園で初めて会った。高台にあるその場所からは海がよく見えた。ボクはその眺めが好きで暇があれば通っていた。その日は珍しく先客がいた。自分と同じくらいの背丈なのに学校では見たことが無かった。そいつはボクに気が付いてこう言った。「オレの家ってどれだと思う?」


「えっと、どういうこと?」

「オレさ、昨日引っ越してきたばかりで散歩してたら迷って家に帰れなくなった」

「それはボクに聞いても分からないと思うんだけど…。公園にはどうやって来たの?」

「迷って歩いてたらココが見えてさ。高いとこから家を探そうと思って来たんだ」

「それで、屋根の色は?」


「んー覚えてない、こっち来たばっかだし」

「君の名前は?ボクは晴夏、よく女の子と間違われるんだ」

「オレは晴海、オレもよく間違われるぜ」

「そうなの?ボクと同じだね」

ボクらは笑い合った。結局そこかしこを歩き回って何とか晴海の家を見つけた。その頃にはお互いに打ち解けた仲になっていた。


月曜日、朝のホームルームで転校生が来ると先生が言った。教室のドアが静かに開くと、そこには晴海がいた。昨日とは違う無表情な転校生。「よろしくおねがいします」お辞儀を一言だけ挨拶すると先生に促された席に着いた。昨日と全く違う様子にボクは驚いていた。どうしてそんな態度を取るんだろう。


授業が終わり休憩時間になると、晴海の周りにをクラスメイトが囲んでいた。どこからきたの?どの授業が好き?水曜日のドラマは見てる?と質問責めにあっていた。アイツは言葉少なに答えると、トイレに行くと言って席を立った。教室を出る前に晴海の目がボクを捉えた。ボクは彼を追いかけることにした。


教室を出ると晴海はトイレを通り過ぎて階段に向かっていた。屋上の踊り場まで行くと晴海は照れ臭そうにこちらを振り返った。「俺、ああいうの苦手なんだ」「そうみたいだね」「今日一緒に帰ろうぜ」「じゃあ裏門から帰ろう、校舎の左側にもう1つ門があるんだ」「ホームルームが終わったらダッシュな」


「じゃあ気をつけて帰るように、解散」担任の一言を合図にクラスは空っぽになった。少し遅れて裏門に向かうと、晴海はもう待っていた。「帰ろうぜ」「うん」いつもと違う景色の道はわくわくした。晴海は遠くを見ていた。「どうしたの?」「晴夏は俺の友だちになってくれる?」「うん、友だちになる」


「やった!」晴海は飛び跳ねて言った。「今日は俺んちで晩飯食べてけよ」「え、急に大丈夫なの?」「いいっていいって」友達の家には何度も行っているけど、今日は少し緊張した。「うちは母ちゃんしかいない」と言われたからだ。お母さんは優しい人で、家に電話をかけてくれた。ご飯は美味しかった。


それから少ししてクラス内である噂が立った。晴海と母親の事だった。その頃から晴海は学校に来なくなった。ボクが重い足どりで家に帰るなり母さんが言った。「あの子とはもう関わっちゃダメよ」「何でだよ!」ボクは叫ぶと来た道を走った。無意識に公園に向かって走っていた。高台に行くと晴海がいた。


「晴海くん!」「よぉ晴夏、何も言わずに学校休んで悪ぃ」「うん、元気みたいでよかった」「噂、聞いただろ。俺また転校すると思うわ」「何でなのさ!」「母ちゃんが心配しててさ」「せっかく友だちになったのに…ボクは晴海の味方だよ!」「それ、絶対か?」「うん!だからボクを置いてかないでよ」

-終-


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