【オンライン】180話:イベント騒ぎは大騒ぎ
大規模なイベントとは銘打って宣伝されていたらしいけれど、それがボスを倒せばクリアーというような事柄は一切書かれていない。
イベント事態も自分達で見つけなければならないし、クエストの攻略だって白紙の状態から自分達で見つけていかなければならないような感じだった。ヒントとしてあったのはアニメーションとイラスト絵だけが公式から発表されていた。
〈勘違いするのは無理ないと思うけど、ボスを倒せば終わりじゃないよ?〉
「はぁ? 何言ってんだお前?」
ネグのイライラしている表情が更に険しくなっていく。
彼の迫力に一歩下がりそうになるけれど、そこは男の意地かグッと堪えた。
〈エーコーさんからも聞いたんだけどね。森を守ることがイベントクリアーの条件であって、森に住み着いた鬼達を一掃しても、森を守れないと依頼は失敗扱いだと思うよ〉
「なっ⁉ う、嘘だ!」
目を見開いて僕に突き立てている両手剣がカタカタと震え始めている。
〈森の泉を管理しているエーコーさんから聞いたんですから、間違いないよ〉
ジャンシーズの人達が無理やりに鬼達の陣地に攻め入ったせいで、彼等が築いた場所から一直線の道は森がボロボロになってしまっている。
「だとしても、お前の言っている事が全部本当に合っているかなんて分かんねぇだろう」
それを言われてしまうと、何も言い返せない。
「ほらな、何も言えねぇんだろう。そこを退けよ」
「女の子にそんな風に迫るなんて、最低だぞ~」
「うるせぇ! 黙ってろチビ」
「なんだと~‼」
シュネーが僕を守ろうと口喧嘩を仕掛けたが、完全にあっちのペースに飲まれている。
勝負ごとに女だ男だというのは、ちょっとどうかと思うけどね。
とりあえず、僕はシュネーがこれ以上にネグを煽ったりしないように抱き抱える。
〈さて此処で提案なんですけど。この場で退治されるか、捕らえられた仲間と共に僕等の村に協力すると、どっちが良いですか?〉
「は? お前何言ってんだ?」
ネグが口をぽかんと開けて見てくる。
大鬼もこちらに顔を向けて首を傾げている。
やっぱり言葉は通じないのかな。
アイテムにある出来るだけ大きな書き物に、鬼の顔を描きその隣に村の絵を描いた。
〈コレが大鬼さん。こっちが僕の村ね〉
しっかりと絵を意識させて、絵と大鬼さんを指さして次に自分を指さす。
〈住む場所を用意してあげるし、色々とお互いに助け合っていくの。どうかな?〉
果物の絵や食べ物を書いて、労働力っぽい感じの絵を指さしながら交互に指さす。
「ガゥアゥ~」
目をパチパチとさせて、何度も僕の書いた絵と顔を交互に見ながら、何やら声を発した。
「そんな事をしてもコイツ等に理解出来る訳がねぇだろう」
バカにするようにネグが僕の後ろから言ってくるが、今は無視して真剣な目で大鬼さんの目をジッと見つめて、握手でもする感じで手を差し出した。
〈どうかな? 一緒に楽しい暮らしを目指してみない〉
僕の言っている事は分からなくても、伝えようとしている事は理解出来ると僕は思っている。半部くらいは賭けだけど、此処で大鬼を倒してしまうよりは良い気がした。
しばらく大鬼さんは目を閉じて、考え込むように俯いたいたが、人差し指を此方に向かって伸ばしてきた。僕の手の平に軽く合わせる様にして触れてくれる。
その光景を周りの人達は黙って見ていてくれた。
僕と触れた部分から光が指して、大鬼と僕から伸びた光のリボンが結ばれていく。
《アナタは【ドラコス】の軍大将と同盟を結びました。彼に名前を授けて下さい》
〈ティフォ~、何か鬼のボスと同盟を結べたんだけど。なんか良い名前ない〉
「……な、はぁ~そうだな……ズナミとかどうだ? 本当はズィナミっていう力って意味のギリシャ語なんだけどさ」
〈じゃあ、君の名前は『ズナミ』って事でよろしくね〉
《グランスコートに【ドラコス】軍勢が加わりました。これにより都市国家【ラコス】への道が開かれた事をプレイヤーの皆様にお伝えします》
ゲーム内のシステム音声が世界全体に流されていく。
「は? はぁ⁉」
ネグが驚愕のあまり顎が外れそうな程に口を開いていく。
今まで膝をついて水に浸かっていた大鬼がゆっくりと立ち上がる。
僕とシュネーは大鬼さんに支えられていたが、急に動いて支えもないネグはバランスを崩し、まだ流れの速い川に落ちて行った。
「おい! ヴォルマイン奴等も居んだろう。アイツ等は敵側に寝返ったんだ。今のうちに潰しておかないと手に負えなくなるぞ! 一緒に潰そうぜ」
少しだけ流された様だけれど、すぐに陸に上がって周りの人達に叫び出した。




