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ズィミウルギア  作者: 風月七泉


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【オフ】117話:イベント騒ぎは大騒ぎ




〈出だしとしては順調だよね〉

「あぁ、良いんじゃないか? 特に問題も起きなかったしな」


 黙々とお昼ご飯を食べながら、やはり気になってしまうゲームの進行。


「もう、二人とも私の料理を味わって食べてよ」

「そうね、せっかく小鳥ちゃん達が手伝ってくれたお料理なんだから」

「私も手伝った?」

「二人で盛り付けたもんね~」


 唐揚げにサラダとバランスの考えられた食事を改めて見る。


〈ちゃんと美味しいよ?〉


 初めに口にした時にはちゃんと感想を伝えたはずなのだ。

なのに、何故か不満そうな顔でオレの事をジト目で見てくる。

 樹一も一緒になって呆れた表情をされる意味がサッパリ分からない。


「はぁ、琥珀の方が色々と理解が深そう」

「乙女心はダメダメ?」

「鈍感さんはお仕置きが必要だよね~」


「どうせ、ゲームの中では口調も戻っちゃってそうだし、今だって脚を広げて座ってる。確かに皆の言う通りに再教育が必要そうね」


 何故だ、別に怒らせる様なことはしてないはずなのに、なぜ皆はそんな目で見てくる。

〈オレ――〉


 書いてから慌てて消そうとしたが時遅く。


「あ~男口調?」

 ヌッと影か見えたかと思ったら、葉月ちゃんの横顔がオレの手元を覗いていた。

「許してボクだって言ったのに~」

 しまったと思った時には遅く、横から気配なく覗かれたせいで反応できなかった。

 逆サイドから桜花ちゃんが大きめの声で言ってしまう為に皆にバレた。


「半分くらい冗談だったけど、残念ねぇ~」

〈か、母さん。顔が怖いです〉

「翡翠、アウト?」

「アウトだな。すまない、俺は助けられないだ」


 相変わらずオレの母さんには弱いな。


〈助けてよ樹一⁉〉

「明日は一緒にお買い物に行こうね」


 母さんが肩に手を置いてくる。ちょっと強めに押さえつけられている。

 言い方の物腰も柔らかいのに、圧だけはかなり感じる。


「ん? 小鳥の携帯鳴ってないか?」


 微かに聞こえた振動とメロディーを樹一がいち早く気付いた。


「あ、ホントだ」


 パパッと取り出して携帯電話の画面を見て小鳥ちゃんが固まった。

 舌打ちが聞こえた気がしたが、気のせいだろう。

 メールとかではなく電話のようだったが、無言で通話を切ってしまう。


〈えっと、良いの?〉

「うん、気にしないでよ」


 すぐにまた電話を掛けてきたようだ。


「……出で上げればどうだ?」


 二回、三回と繰り返してきたため、樹一がそう切り出す。


「兄ぃ、本当に良いのね?」

「なんで俺に同意が必要なんだよ」


 半目で睨みながら小鳥ちゃんため息一つ。


「知らないんだから」

 小鳥ちゃんは席を立ってオレ……僕達から離れた位置で電話に出る。


「なんの御用ですか?」


 その声は普段の声よりも数段低く、不機嫌な感じが滲み出している。


「うわぁ~すっごいテンション下がってるね」

「よっぽどの相手?」


 双子ちゃん達が耳元で喋るので、すっごく擽ったい。


〈あのね、君達は何でお……僕に引っ付いて話すのさ、こそばゆいんだけど〉


 何か相手が言っているようで、チラッと樹一を睨む。


「ふ~ん……こちらも後で条件を付けますが、それを約束してくれるならアナタに手を貸すこと自体はやぶさかではありませんよ」


 小鳥ちゃんの一帯だけが温度が下がっている気がする。


「あぁ、そのは心配しないでください。兄ぃに関する事ではないんで」


 何で自分の話しが出てくるんだと、樹一が首を傾げていると急にニコニコと笑いだす。


「えぇ、それで構いません。分かってくれているのなら良いんです。では変わります」


 通話を切る事無く、携帯電話を樹一の元まで持ってきた。


「はい、兄ぃ。代わってってさ」

「お、俺にか?」


 戸惑いながらも、しっかりと小鳥ちゃんの携帯電話を受け取ってしまう。


「ここじゃあアレだから、外で話してきた方が良いよ。どうせまだ休憩時間でゲームにはイン出来ないんだからさ。女の子の部屋に居座るのは流石にどうかと思うしね」


「えあぁ、わかった」


 グイグイと背中を押されて、玄関まで運ばれていく。


「後で返してくれればいいよ。きっと話は長くなるだろうし、ご飯は家に持ってくから」

「お前、なにいって」


 樹一がそこまで言って、何か引っかかりを感じて抵抗をしようとするけれど、もう遅い。


「兄ぃが出ろって言ったの、私は関係ないの、オーケー? バイバイ」

 最後に可愛らしい声で、可愛く手を振って、ドアを閉じた。



   ▽▼▼【樹一視点】▲▲△



「お、おい、開けてくれ!」


 いくら叩いても重く閉められてしまった扉は開かない。

 イヤな予感しかしない携帯の通話相手。


「も、もしもし」

『はい、もしもし』


 聞き覚えのある声だ。

 ゾワリと俺の背筋から冷たい感覚が走っていく。


『長らく、ご無沙汰でしたね』

「い、委員長。こんにちは」


 名前は西願寺杏という一つ下の後輩。

 未だ会えていない悪友である、最後の一人の妹。


 ある一点をの性格を覗けば、しっかり者でクラスの纏め役として頼りにされている。


 色々と残念な中身をしているのだが、外見と猫かぶりで周りからは綺麗な子で、男女問わずにファンも多く居ると聞く。


『はい、こんにちは……素っ気無いですね』

「いやいや、そんな事はないですよ」

『そうですか? 色々とお忙しかったのは知ってます。落ち着いたなら連絡の一つでもくれれば、良かったのですけど。あぁ、そうそう、前に話していたゲームなんですけどね、実は私もやっているんですよ』


「え? はぁ……えぇ⁉」


 なんか矢継ぎ早に切り出されて、一瞬だが何を言われているのか理解が追い付いていないせいで反応が遅れてしまっていた。


『樹一先輩が『一緒にやろうか?』って誘ってくれたのに、ずっと待ってたんですけどね、余りにも楽しそうで先に始めちゃってたんですけど。そこで樹一先輩を見かけたんで連絡をしようと思ったんですけど、私ってそういえば樹一先輩の連絡先は知らないので、妹さんの小鳥に連絡をしたんですよね』


「ま、待ってくれ」


 俺を見たって?

 というか、そんな約束してたっけか?

 色々と分からない事が多い。


『待つ? ずっと待っていたと言いましたよね』

「い、いや、だからな。話を理解する暇をくれ」

『う~ん、どうせ話し合う内容は変わらないので後で考えて下さいよ』

「お前なぁ」

『それよりも、ゲームの中の樹一先輩。随分と可愛らしい格好をしているんですね』


 その言葉が俺の時間を凍り付かせた。

 頭の中が真っ白に染まったが、なんとか思考を再起動させる。

 ゲームとはいえど、俺の姿を見てピンポイントで連絡を取って来たんだ。


『あぁ、私もね、テイマーがメイン職なんで色々とアドバイスが出来ると思うんです。今はちょうど大型のイベントじゃあないですか、一緒にプレイしませんか?』


「お、俺一人でやってる訳じゃあないからな、ちょっと――」


『大丈夫です。私は別に何処にも所属してない放浪プレイヤーでしたから、樹一先輩が一緒にプレイしている人の邪魔にはなりませんよ。なんなら樹一先輩が所属している所に入っちゃおうかなって考えてますから、少しですけどテイマー仲間を連れて行きますよ』


 人手が増えるのは確かにありがたい。

 しかし、委員長は俺の天敵とも言える苦手な子の一人なのだ。


 何しろこの子。


「おまえ、なんで俺だって気付けた」


『あははは、何言ってるんです? 気付くに決まってるじゃないですか。樹一君をお姉様にするのが私の生きがいだったんですから。あんな私の理想的な人が樹一君以外に居る訳ないじゃないですか、ようやく分かってくれたって嬉しくなっちゃって、もういても――』


 止まらないマシンガントークが、俺の心を木端微塵に打ち抜いてくる。

 ゾワゾワとさっきから寒気が止まらずに襲って来るのだ。


「ま、また今度にしよう、な」


「な~に言ってんですか。逃がす訳、ないじゃないですか~。どれだけ待ってたと思ってるんです? それに、約束を一度破ったんです、いや、忘れてたんですから、その償いくらいはして貰わないと、割にあわないじゃないですか、ねぇ、せ・ん・ぱ・い」



 清楚っぽくも色っぽい声が混じっているのに、端々に威圧される感覚がある。



 俺はただ、その場で両膝を折って両手を地面に落とすしかなかった。




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