【オンライン】111話:イベント騒ぎは大騒ぎ(初日・樹一視点)
ティフォナス(樹一視点)
木の上や蔭に隠れ、敵の自陣から離れて行動しているゴブリン達の動きを盗み見ながら、相棒のスパイクにヘイトが向く様に礫で攻撃し、気付いた数匹のゴブリンを俺達とは別方向へスパイクが連れて行く。
「俺はレンジャーじゃないんだけどな」
木の上から俺達に気付く事はなかった。
そのままスパイクを追って行くゴブリンを見つめながら、小さなため息が漏れてしまう。
「あぁ~、スパイクが心配だ」
俺よりもヤル気十分といった感じで、しかも嬉しそうにして任せろという意思表示みたいに胸を張って俺の太ももをポンポン叩くのだ。
あんな姿を見せられたら、やらなくて良いよとは言えなって。
「まぁまぁ、スノー姫の作戦は確かに有効でござるよ。それにスパイク嬢のスピードなら追い付かれないんだな」
「スパイクちゃんで雑魚の群れを誘導しつつ、攻撃部隊の少数精鋭ウサギちゃん達による囲い込みで各個撃破。私達はリーダー格から上位者を捕まえて捕虜にするか、仲間に引きずり込む。確かに今できる最善の手ね」
スノーとシュネー、それからダイチ爺ちゃんにハーナ婆がウサギ達と後方でトラップを設置している……らしい。
水を引く別動隊はエーコーさんが率いている。
彼女は彼女で、
「何故じゃ、童も暴れたいっ!」
なんて顔を膨らませながら終始ぶー垂れていた。
〈大丈夫だよ、無防備なゴーレムやウサギさん達に襲い掛かってくるから〉
そう言いながらも微笑みの中には「多分ね」って、言葉が最後についてそうだ。
〈守りながら戦う姿なんて見せた日には、きっと皆から尊敬されるよ。ね、ニンフィ〉
スノーに何を言われているのかは、きっと理解してないだろうと思う。ただ気持ちよさそうに撫でられたニンフィが可愛い声を上げながら頷いて見えた。
「ふむ、それもそうじゃな」
付き合いが長いせいか、得意げに乗せられているエーコーを横目にスノーを見ると、「存外に操りやすい性格だな」とか思ってるのが見て取れる。
その横でシュネーもエーコーに似た感じで暴れたそうにしていたが、スノーが人形を抱える様にして口を塞ぎ抑え込んでいた。
何事もなく戻って来たスパイクに、もう一度同じように敵を釣って行かせる。
「こういう時にテイマーは便利よね」
「一度でも飼い主が攻撃、もしくはアクティブに絡まれると狙われるでござるが、戦闘処理後のテイムモンスターは敵からの攻撃対象として認識されないのは強みなんだな」
その上、どれだけ離れていようともしっかりと自分の元まで戻って来るのだ。
トテトテと一生懸命に自分の元へと駆け込んでくる姿がまた可愛らしい。
「はぁ~、何故にティフォナ妃は男なんだな」
ガウは心底残念そうに深くため息を吐きながら俺をジト目で見てきやがる。
「やめろその顔、問答無用で殴りたくなるだろうが」
ヒラヒラするスカートのせいで思う様に動けないから、今は殴りに行けない。
「はいはい、じゃれ合いはその辺にして頂戴ね。リーダー含めて三匹になったんだから行くわよ。取り巻き護衛の二匹は私が相手をするから頑張りなさいよ」
「了解」
「了解でござる」
ケリアさんが一番に飛びだし、飛び出していた護衛二匹を挑発して誘い出した。
「やっぱり、上手いんだな」
ガウがケリアさんの動きをジッと見ながら呟いた。
「そりゃあ、ベータテストからの上位プレイヤーだからだろ?」
「時間という意味ではなく、プレイヤースキルの方なんだな。戦士や盗賊の【挑発】と違ってモンクの【挑発】は範囲効果なんだな。つまり距離によって成功確率や効果の効き目が変わる、それを敵リーダーは巻き込まない様にしつつ、手前の二体を確実に引き込んだんな」
確かにその説明を聞いた後に改めて考えると、思わず称賛したくなるガウの気持ちも解る。
俺にはケリアさんが簡単に、ただ挑発をして二匹を釣った様にしか見えなかった。
「二人で周囲を警戒しつつ、スパイク嬢が戻って来るまで無理せずジリジリ作戦ポイントまで後退でござるよ。特にティフォナ妃は気を抜けば一撃で死に戻りでござるからな」
「分かってるっての。支援は任せとけっよ、と」
石つぶて数発、ゴブリンリーダーにお見舞いすると、すぐに此方に向かってきた。
「まだまだヒヨコなれど騎士の端くれ【シールドバッシュ】でござる」
俺に向かって振りかぶった大剣をガウが間に入って、楯で弾き飛ばす。
弾かれた剣を無理やり力で押し留まり、次の攻撃に移る前に俺が邪魔をしてやる。
「【ニードルラッシュ】っと」
踏ん張っている足に向かってモンスターマジックを唱える。
仲間にしたモンスターの特技を使える、テイマー専用魔法がモンスターマジック。
正直、使いにくい魔法の一つでもある。リキャストは特技扱いの為に長いし、魔法詠唱なので不意打ちには不向き、連続した詠唱も出来やしない。
魔法なら、火から水へ、そしてまた炎の魔法へとシフトチェンジしながら連続魔法が打てるのに、モンスターの特技ランクに応じて魔法の再演唱が伸びるのだ。
まぁ、その分の威力は割高だけどな。
無理な体制で押し留まったぶん、簡単に敵が横倒れになる。
「流石にアタッカーが居ないパーティーは辛いでござるな~」
俺のレベルも低いから、仕方ないとは言えどもライフがちょっぴりしか減ってない。
さすがイベントモンスターの小隊リーダー格。
それだけが理由じゃないけどね。
「しょうがないっての、昔っから俺らの周りには攻撃タイプのキャラを選ぶヤツなんて居なかったんだからさ。み~んな搦め手やらサポート役やらロマン職を選ぶヤツばっかじゃん」
「そう考えると、ケリア嬢が居てくれるのが救いでござるな」
「あの人も前衛には入らないと思うんだけど……おっと」
立ち上がったゴブリンリーダーが怒り任せに振り下ろした攻撃を躱してながら防御する。
「確かに、武闘家とよりも裁縫クラフターでござるな、危ないんだなもう」
地面に刺さった大剣を持ち上げる隙を狙って、俺達が攻撃してすぐに後退する。
そうやってスノー達の居る場所まで少しずつ誘導していく。
少しでも初動が遅れれば包囲網が……的な展開はないのはイージーですなぁ( 一一)




