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バルバロイ・ダンス!~最強主人の奴隷様~  作者: 切子QBィ
一章 ダンシングブレイド
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ダンシングブレイド3

「がああああっ! おおおっ!」


 引き絞られる筋肉と脈動する皮膚。口角に泡を吹きながら、両手首から血をしたたせ、両の乳房が揺れ、汗を振りまき、少女――ヒートはもがく。もがき続ける。

 優雅さなど、年相応の恥じらいもない、生まれたままの姿でひたすらにあがく。

 「自由になる」という断言から三分経過。いまだに自由はない。彼女の全力にも以前繋がれた鎖には変化は見えない。

 困惑した表情のまま、彼女を取り囲む筋骨隆々たる下男三人。一応有事に備えていつでも取り押さえられるようにしているが、果たして意味はあるのか。


「なにかといえばこんなものか。もはや猿なのか犬なのかもわからん醜態だな」


 一人ごちながら紳士は煙を吐く。そろそろ葉巻も吸い終わる頃合いだ。


「面白いことを抜かすから、これが吸い終わるまで待ってやろうと情けをかけてやればこの有り様か。」


「おおおおおおっっ!」


「へへ、あれは巨人族用の拘束に使う鎖ですからねぇ……そう簡単に千切れたり壊れたりするもんじゃあありやせんぜ」


「なるほど、それは重畳。ところで主人よ一つ聞く」


 紳士のステッキが掲げられ、ピタリと――天井を指した。


「へ、へぇ、なんですか旦那?」


「あれ」


 先には小さな亀裂――天井にある鎖を固定するフック、その周囲に走るヒビ。

 ヒートが渾身の力をかけてもがく度に、ゆっくりと大きくなる。


「鎖が頑丈なのは理解した。よぉく理解したよ――で、設置基部のほうは強化したのかな?」


「あ」


「う、お、お、お、お、お、お、っ、っ ! !  ! 」


 最後の絶叫と共に、勢いよく天井を破壊して基部が落下した。


「え、あ、お、お前ら!」


 ヒートの動きとラズロの声は同時だった。

 吹き上がる破片と煙の空間を轟音を上げて尖った鉄の塊――鎖の設置基部、尖った部分は天井に固定するための埋没式アンカー――が走る。

 一瞬で下男の一人が吹き飛ばされた。鈍い音と共に壁にぶつかりバウンド、床に叩きつけられる。

 呆然とするもうひとりの下男。次の瞬間には崩れ落ちた。

 舞い散る粉塵を切り裂くように、裸足が掲げられている。バレリーナのような柔軟性で秘部が見えることも厭わずに大きく開脚されたヒートの左脚。しなやかなかつ優美、人体により形作られた凶器。痛烈な前蹴りにより鳩尾を一撃されての失神。


「あ、ああ」


 三人目、瞬く間に無力化された仲間を前に声が出ない。

 ヒートの視線が彼を捉える。


「どけよ、邪魔だ」


 マグマのような怒りと、鋼のような執念と、荒れ狂う暴力衝動が男を見ていた。


「――ひっ!」


 本能的な恐怖に気圧され、それでもかろうじて職業意識に体は動いたのか、体躯的には格下の少女に決死のタックルを仕掛ける。

 が、その前に彼の遙か頭上より鎖が落下する。

 風切り音を立て、連結された鋼の環が乱舞。勢いよく踊りかかる。


「邪魔だっていってんだろ!」


 鎖に叩き潰され、派手に転倒。鈍い叫びを上げて動きが止まる。

 すでに鎖はヒートを拘束する道具ではなく、彼女の武器となっていた。鎖によってもたらされるリーチは両腕の拘束を補って余りある。


「なるほど、一応は有限実行達成か。なかなか芸をするじゃないか」


 乾いた拍手。紳士が吸い終えた葉巻を投げ捨てながらゆっくりと歩く。ヒートとの距離を詰める。

 紳士の背後には出入り口のドアがある。しかし、彼は引く様子も道を譲る構えもない。

 ただ、少女を目指す。


「だがやはり躾がなっちゃいないな。服も着ないで外に出て、靴も履かずに街を歩くつもりか野蛮人バルバロイめ? それとも犬のモノマネでもしてるのか? おあつらえ向きにチェーンが付いたからな。それを引っ張ってもらって散歩でも行きたいのか主人殺しいわくつき?」


 またも流れるように罵詈雑言。歩みと同じように止まることはない。


「あ、アブねぇです旦那! そいつはダメだ! 鎖に繋がれてないそいつに近寄っちゃいけねぇ! 殺されますぜ! 今応援を呼びますから……」


「ラズロ、お前は伏せていろ。そこを動くな。応援も必要ない」


 紳士は振り返らない。塵と殺意の充満する部屋の中で、ただ彼女と相対する。心なしか、少しだけ嬉しそうに見えた。不愉快という感情を煮染めたような男にも、心躍る瞬間があるのだろうか。


「野蛮人、か」


 薄く笑いながら、正直な話、ヒートは納得していた。自分は野蛮人だろう、そういう自覚がある。原始的なシンプルさが本質的に好きだった。自らの感情に突き動かされるまま生きてきた。暴力に暴力で答えることを疑問には思わない。

 野蛮であろうと、己が生きるということはそういうものだと理解していた。


「うるっせぇな、クモヒゲ」


 だからきっとこの先も、自分らしく戦って、己らしくもがいて、野蛮人らしく生きて、

 彼女は彼女のままで、死んでいく。それでいいと思う。後悔無く、死んでいけるなら。

 リブラを守れなかった自分には、上等過ぎる生き方だ。


「じゃあせめてもうちょい文明人レディーらしく――正面玄関から堂々と出て行くことにする。さっき言ったように、お前ジェントルマンをブチ殺してからな。」


 薄い笑みが、獰猛な肉食獣の表情に変わる。


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