第六話
四人でかたまって走る。まったく振り返らない。そういう気持ち的な余裕もなかった。
どのくらい走ったのだろうか。
「もうここまで来れば大丈夫だろう」
瞬が息を切らせて言う。四人があたりを見回すと、いつの間にかヤマタノオロチの姿は消えていた。しかし安心するのも束の間。明たちは蛇穴から明らかに離れた場所にいたのだ。
「あれ、これってもしかしたら帰れなくなったってことじゃない?」
瞳が四人の不安を代弁するようにして口に出す。瞬も美奈も、顔から血の気が引いている。明も背筋に悪寒が走った。
「美奈、お前のせいだぞ」
「何よそれ、瞬がこっちに先導したんじゃない」
「元はといえば、お前が一緒に戻らずに変な所にいるから悪いんじゃないか」
美奈が黙り込む。しかし、その顔からは、あまり反省している様子は伺えない。瞬もつられて口をつぐむ。
「あのさ」
「ねぇ、とりあえず歩きましょ。こんなところでじっとしていても仕方ないし」
二人の間に気まずいものが流れ始めたのを察して明が言いかけると、瞳がその先を続けた。そうだな、と瞬。美奈は、まだ不服そうな顔だったが、三人が歩き始めると、小走りで後についてきた。
そのときだ。落とし穴のようなものに四人は、はまってしまった。
「うわぁ、落ちるー」
明の間抜けな声が穴いっぱいに響く。どこまでも四人は落ちていく。
「あ、止まった」
美奈が言う。安心したような声だ。まだ安心するのは早いような気がするけど、明は心の中で逆に不安になった。なんといっても、まず真っ暗なのだ。
「気をつけろ。何か来るぞ」
瞬の小さく押し殺した声がする。明の不安が、的中してしまったようだ。本当に、何者かの気配がする。
光る二つの玉。明の背に悪寒が走る。四人の中に緊張が走る。
「あれ、もしかしてツチノコじゃない?」
次第に暗闇にも目が慣れてきたあたりで、美奈が言った。どこか嬉しそうな声だった。
ずんぐりむっくりした体。つぶらな瞳。そして、蛇のような頭と尻尾。どこをどう見てもツチノコだ。