第四話
「あっ」
突然視界から光が消えた。四人を恐慌が襲う。懐中電灯の電池が切れたのだ。
「みんな、落ち着け。とりあえず手をつないで、壁に触りながらゆっくり歩こう」
瞬がとっさの機転で提案した。三人もその意見に従う。やがて、前方に光が見えてきた。
「多分、あそこが出口だ」
瞬に言われるまでもない。おそらく、誰もがそう思っていただろう。四人は安心のあまり、力の抜けた気持ちで歩き続ける。
しかし彼らの前に現れた光景は信じられないものだった。そこには、いるはずのない伝説上の生き物たちがたくさんいたのだ。ぺガスス、ユニコーン、フェニックス等等。
「夢じゃ、ないよね」
瞳が呆然とした声でつぶやく。瞬はまじめな顔をして自分の頬をひっぱたいている。美奈は口をぽっかりと開けたまま、その場に立ち尽くしている。そして、明はそんな三人を眺めながら、目の前に広がる光景を割りとあっさり受け入れられたことに驚いている。
「やっぱり、夢じゃないみたいだ」
瞬があきれたように声を漏らした。誰もその声に答えない。生き物たちの声だけが、彼らの中に存在するほとんど唯一の音だ。沈黙が四人を支配する。
と、瞬が口を開きかけたときだった。
「ねえ、せっかくだからもう少し奥に行ってみない?」
美奈が明るい声で言った。その声にも誰一人として反応しない。
「みんな、どうしたのよ。こんなの、絶対に学校じゃ経験できないよ」
当たり前じゃないか、ここは僕たちの住んでいる世界とは違うんだから、明の中の誰かが言った。彼だけにはその声がはっきりと聞こえる。
「ねぇ、行こうよ」
まるで、駄々をこねる赤ん坊だ。美奈は執拗に三人に迫る。
「おまえ、頭狂ったんじゃないのか?こんな変な所、さっさと出るのがいいに決まってんじゃねえか」
ついに瞬が美奈に鉄槌を下した。必要以上に高い声だった。明も瞳も、瞬の意見に賛成する態度をそれとなく示す。
「帰るぞ」
瞬はそう言うと、そのまま歩き出した。元の洞窟の中に戻る。明たちも慌ててその後を追う。しかし、まだ三人とも一人足りないことに気づいていなかった。というより、洞窟、つまり蛇穴は真っ暗だった。そのため、互いの顔すら確認できない。
「全員いる?」
瞬の声がする。