第三話
こうして明たちは美奈を先頭に、ツチノコ探しの旅に出た。旅といっても近所にそびえる石巻山に行くだけだが。しかし、これが危険極まりない冒険になろうなんて、この四人のうちの誰一人として予想できていなかった。
「この写真、どの辺だと思う?」
自転車をこぎながら、美奈が誰にともなく話しかける。
「蛇穴の周辺じゃないかな」
写真の風景に見覚えのあった明が答えた。
蛇穴というのは、一種の小さな洞窟だ。それもまったく光の入らない洞窟だ。瞬、美奈、瞳の顔にかすかだが動揺の色が走った。
「懐中電灯とか俺、持ってないよ」
「わたしも」
まず瞬が懸念を口にし、続けて女子二人が同調した。
「大丈夫、念のため僕が持ってきたから」
明が胸を張って言う。他の三人は意外そうな顔をした。
「珍しく準備がいいじゃん」
一同を代表して瞬が感心の声を上げた。珍しくは余計だって、明は心の中でぼやいたが、やはり顔には出さない。口にも出さない。曖昧に笑っただけ。
「ここからは歩こう」
山のふもとに着くと、美奈が言った。そこで四人は自転車を降りて歩き始める。
「なんか探検隊みたいだね」
「みたいじゃなくて、実際そうなの」
瞳と美奈の会話だ。明と瞬は黙々と歩いている。
水の音が聞こえる。近くを川が流れているのだ。明はなんとなくドキドキしてきた。本当にツチノコがいるような気がする。
「本当にツチノコいるかもね」
思わず口に出していた。
「そう思うでしょ。さすが明君。誰かさんとはぜんぜん違うわ」
美奈はそう言って、嫌味満点の目つきで瞬をちらりと見た。その皮肉に気づいたのか、瞬は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「この辺じゃない?」
瞳が言った。三人はその声につられて周囲を見回す。緊張が四人を包む。
「本当だ。ここ、ここ。絶対ここだよ」
写真と景色をじっと見比べていた美奈が、突然うれしそうに叫んだ。まるで目的のツチノコを見つけたような言い方だが、実際には何もいない。閑散としている。
「でも、どこをどう探せばいいんだよ」
瞬が、ぼそっとつぶやく。
「多分、あの蛇穴の中にいるんじゃない?」
明が答える。確信はなかった。しかし、なんとなくそんな気がした。
そこで一行は蛇穴の中に入ることになった。
中は真っ暗だった。光がまったく入ってこない。明の懐中電灯が大いに役立った。これがなければ、入っても一歩も進むことができなかっただろう。
ピチャッ。ピチャッ。
天井から水が滴り落ちている。静寂の中、水の音だけが響いている。明は背中に冷たいものが走るのを感じた。