第二話
三日後の日曜日。約束の日がやってきた。明と瞬は並んで自転車をこいでいる。
「明はさ、ツチノコなんていると思う?」
「いないような気がするけど、どうなんだろう。分からんね」
「いや、絶対にいないって」
瞬の言い方はかなり断定的だ。明は、そこまで断定してしまっていいのだろうか、と疑問を感じた。というより、意見を聞くつもりがないなら初めから訊くなよ、と思った。しかし、相変わらずその気持ちは顔に出さない。ポーカーフェイスを保ち続けた。
二人の間で言葉が途切れた。そして、公園が見えてきた。
「二人とも遅い!もう私たちは三十分も待ってるのに」
美奈が叫んでいる。明と瞬は顔を見合わせた。美奈の言い分がおかしいことは考えるまでもない。明たちが公園に到着したのは九時前だったからだ。
「どうせ瞬は行きたくないからわざと遅れたんでしょ」
明には瞬が必死に怒りをこらえていることが手に取るように分かった。その額には青筋が浮かんでいる。
「中島さん、そういう言い方はないんじゃないのかな」
このままいくと、本当にやばいことになりそうだと感じた明が口を挟んだ。しかしその努力は美奈にあっさりと無視されてしまった。
「それに、別に遅刻したわけじゃないしさ。むしろ、中島さんたちが早く来すぎたのがよくないんじゃない?」
明はあきらめない。さらに食い下がる。しかし、暖簾に腕押しとはこのようなことを言うのだろうか、美奈はまったく意に介した素振りを見せない。
「美奈ちゃん、早く行こう。瞬君と明君も」
鶴の一声だった。それまで黙っていた瞳が口を開くと、美奈も瞬もはっとしたような表情をした。そして、ツチノコを探しに行くという目的を思い出したのだろうか、険悪な空気は一変、そばからでも彼らの怒りが消えていくのが分かった。
明は心の中で首をかしげる。どうして、僕が言うと何も聴いてくれないのに、西谷さんが言うと丸く収まるのだろう、と。
「そうだったね。ごめんね瞬。また絡んじゃったね」
「もういいよ」
瞬と美奈の間に正式な和解が成り立った。明の心の中の疑問もあっさりとしぼんでしまった。
「ツチノコ探しにしゅっぱーつ!」
「おー!」
美奈の掛け声に合わせて三人はこぶしを天に向かって振り上げた。豊橋の町で青春を謳歌する彼ら四人を石巻山がやさしく見つめている。