第十五話
雷がツチノコの上に落ちた。まるでスローモーションを見ているような光景だった。
激しく大地が震える。煙が巻き起こる。やがて、煙とともに轟音も消え、雨の単調な音だけの世界に変わった。
「ツチノコは?」
美奈が叫ぶ。なるほど、ツチノコの姿はどこにも見当たらない。非常にゆっくりと時間だけが流れた。
声だけが聞こえてきた。ツチノコの声だ。誰かと話している。
「ですから、…様、彼らには帰らなければならない場所があります。待っている人がいます。切り開かなくてはならない未来があります。どうか見逃してあげてください」
「だめだ。お前はここまで余に従っておきながら、裏切ると申すのか?」
「いえ、決してそのような大それたことは致しません」
「ならば、そこをどけ。余自ら、ここに迷い込んだ不届き者を始末してくれん」
「どうか、そこを思い・・・」
「うるさい。裏切り者!」
会話はそこで途切れた。同時に、何かが爆発する音が聞こえた。
雲の中から、ずんぐりしたものが落ちてくる。それがツチノコであることに気づくまで、大した時間を要しなかった。ツチノコは傷だらけの姿で、明たちの足元にばたりと落ちた。
「ひどい。誰がこんなことを・・・」
美奈がつぶやく。
「たぶん、さっきこいつと話してた奴だろうな。気をつけろ。そいつの狙いは俺たちだ」
瞬が冷静に分析して警告する。
「ツチノコを連れて逃げましょう」
「そうそう。早く逃げよう。戦ったって、勝てっこないんだからさ」
瞳と明が口々に逃げることを提案する。しかし、状況はあまりに切迫しすぎていた。
「もう遅い。逃げられない」
いつものような断定口調で、瞬は諦めを口にする。
雲の中から、巨大な竜が出現した。雷を伴っている。