第十四話
完全な静寂の中を四人と一匹は歩く。黙々と歩く。自分は寡黙だが、誰も何も言わない環境が大の苦手である明にとっては、非常に苦痛な時間だ。だからといって、適当な話題も浮かばないのでなおさらだ。
「疲れましたか?」
ツチノコが哀れむような口調で、振り返って言う。見ると、誰の顔にも疲労の色が見え始めていた。
それもそのはず。彼らは雪男の脅威を脱してから、すでに一時間近くも歩き通しなのだから。
「そろそろ休憩にしますか?」
ツチノコは一方的に語る。しかし、誰も答えない。答える気力もなくしているのかもしれない。休憩にしましょう、そう言うとツチノコは先に進むのをやめてしまった。
「疲れた」
瞬が腰を下ろして、ぼそりとつぶやく。他の三人もつられて座り込む。
遠くから、黒雲が流されてくる。不穏な空気を発している。明は独特の勘で、それを察した。
「なんか、やばそうな気がするんだけど」
明は、隣に座っている瞳に、声を落として話し掛ける。
「なにが?」
「あの雲」
そう言って、明は問題の黒雲をあごでしゃくる。
「でもさ、ツチノコはちっとも離れる気配がないから大丈夫だよ。きっと」
瞳はさも安心しきったように言う。言われてみれば、その通りだ。前の二回もツチノコが離れたときに、まるで合わせるようにして怪物が明確に彼らを目掛けて襲ってきたのだった。
「そうだね」
瞳の言葉を聞き、明もすっかり安心してしまった。
黒雲はもの凄い速さで彼らの許へ向かってくる。どうやら、雷を伴っているようだ。
「おい、あそこに非難したほうがいいんじゃないか?」
瞬がみすぼらしい小屋を指差しながら言う。
「そうね、私もそう思う」
珍しく、美奈と瞬の意見が一致した。雨でも降りそうだな、と笑いながら明が考えていると、本当に雨が降ってきた。みるみるうちに土砂降りに変わっていく。
明たちは小屋へ駆け込む。しかし、ツチノコだけは雨の中に残っている。いくら促しても、そこから動こうとしなかったのだ。
「変なやつ」
瞬がぼやいている。
「さっき明君が言ってたことって、このことだったのね」
「このことって?」
「雨が降りそうだから、やばいんじゃないかってこと」
瞳は非常に感心したような様子だ。しかし、別に明は具体的にどうなると考えていたわけではない。ただ、何か良くないことが起こるのではないか、と漠然と思っていただけなのだ。
「あ、うん。まあね・・・」
いまさら本当のことも言えず、明は曖昧に答えることしかできなかった。