第十三話
「雪男です」
「そう言われてみれば、そんな感じもしたような・・・。って、何であんたがここにいるの?」
美奈が驚くのも無理はない。そこにいないはずのツチノコがいたのだから。
「失礼な。いてはいけないんですか?」
ツチノコは珍しく、むっとしたような声で答える。
「だってあんたは遠くに行ってたのに、なんで今私たちと一緒にいるのかな、と思っただけよ。誰もあんたがいちゃいけないなんて言ってません」
なぜか、美奈は初めから喧嘩腰だ。両者の間に鋭い緊張が走る。
「はいはい、二人とももうこれくらいにしたら?」
瞳がいつものようにすばやく間に入る。今回は相手の片方が違うが。瞬は茫然自失と表現すればよいような顔をして、その様子を眺めている。これで少しは美奈との摩擦が小さくなればいいんだけど、明は思った。
なんとか、美奈とツチノコの間の緊張もほぐれ、一行はツチノコにせかされるままに次の地へ向かうことになった。
「ねえ、これっていつまで続くの?」
美奈が口を尖らせて言う。ちょうど明も気になっていたことだ。
「次で終わりです」
ツチノコの声は微かに震えている。
「おまえ、ちょっと変じゃないか?どうした?」
瞬が心配そうに尋ねる。もちろん相手はツチノコだ。確かにいらいらとしてみたり、声が震えてみたり、雪男に遭遇して以降のツチノコは持ち前の冷静沈着さを失っているように思われる。明も息を呑む思いでツチノコを見やる。女二人も、何も言わないがその表情からは不安を読み取ることができる。
「別にどうもしていません」
言葉とは裏腹に、その声は上ずっていた。
「そうか。ならいいけど」
納得しているような言葉を言うが、瞬の顔は納得していない。しかし、それ以上は何も追及しなかった。
口火を切って尋ねた瞬がそうだから、他の三人もそれ以上のことを聞き出すことをあきらめざるを得なかった。