第十二話
「いると私は聞いています」
「誰に?」
と美奈。
「私を遣わした方に」
ツチノコが当然のことを言うように答える。しかし、それが誰であるのか、また何がいるのかまでは教えてくれなかった。
「とりあえず、この辺で休憩にしない?」
瞳が提案する。三人はそれに賛成した。ツチノコは偵察と称して遠くにはっていく。
「ねえ、そういえば湖でもツチノコがいなくなったら急に半魚人が襲ってきたよね」
突然、美奈が言う。不安げな声だった。
「ということは・・・」
明がそこまで言いかけた時、再び奇妙な地響きがした。
「何かがこっちに来るぞ」
瞬が皆の注意を促す。彼の指の先には、巨大な影がひとつ。
「早く、逃げよう」
美奈が震える声で言う。徐々に後ずさりする。明たちも一緒になって、ゆっくりと後退していく。その場にとどまっていては危険だと、誰もが本能的に察知したのだ。
「まずい、こっちに気づいたのかもしれないぞ」
瞬が一同を焦らせるようなことを口走る。しかし、脅しでもなんでもない。事実だ。
「走れ」
叫ぶ瞬。走る四人。みんな一緒に、雪に躓きながら逃げる。思うように走ることができない。
影は、みるみるうちに明たちに追いすがる。もうダメだ。明の頭を観念の思いが走り抜ける。
「うわぁ」
四人は落とし穴にはまった。かなり深い穴だ。影はそのまま穴の上を通り過ぎていく。体が大きすぎて、穴には入らないほどだったのだろう。
「何とか助かったね」
瞳がため息をつく。
「今のは何だったのかな?」
美奈が言う。しかし、それに答えられる者はいなかった。