第十一話
「ねえ、何か寒くない?」
瞳が最初に沈黙を破った。
「そういわれてみれば、確かに何か肌寒いような」
明も話題を受験勉強からそらす。
「着きました」
ツチノコは相変わらず、ふてぶてしいほどの落ち着いた言い方をする。
そこは、一面の雪野原だった。いや、傾斜があり頂上もあるから、雪山だ。今は夏だよな、明の中をそんな疑問がよぎる。
「うわぁ、きれい」
美奈の能天気な声がする。
「感心してる場合じゃないだろう」
瞬が言う。そして、ツチノコに向き直り、これからやるべきことを尋ねた。
「とりあえず、歩きましょう」
ツチノコも暢気なものだ。本当に大丈夫かな、明は少し不安になった。しかし、その気持ちも出さないように気をつける。ここで、ツチノコにつむじを曲げられては、ますます帰れなくなるかもしれない。
「あれ、地震?」
明が言う。地響きがしている。
「いや、地震というより、雪崩じゃないか?」
瞬だ。そう言われてみれば、雪崩の可能性のほうが高い。明は何気なく美奈の顔を見た。思ったとおりだ。美奈の表情に恐怖が走っている。
「逃げろ」
瞬がとっさに叫ぶ。雪の波は轟音とともに明たちに迫ってくる。
「皆さん、こっちです」
ツチノコが言う。四人は少し横にそれた場所にある穴へ駆け込んだ。危機一髪だった。雪は彼らを素通りしていく。
「助かった」
明が安心の声を上げる。他の三人にも安堵の表情が浮かんでいる。再び静寂があたりを支配する。
「まだ安心するのは早いですよ。皆さんはこれから大変になるのですから」
妙に暗示的なことをツチノコは言う。わざと不安を煽っているとしか思えない。
ツチノコは穴から出て、また山を登り始めた。四人も慌ててそれについていく。
景色の変化もなく、会話もなく、誰もが押し黙ったままの行進だ。明も、なんとなく何も話す気になれなかった。
「もうじき頂上です」
十五分ほど歩いたころだろうか、ツチノコがおもむろに口を開いた。
「頂上に着いたら、また変なのが出てくるのか?」
「おそらく」
「今度は何だ?」
「さあ、そこまでは私も分かりません」
瞬とツチノコの会話が途切れたところで、彼らは頂上にたどり着いた。見たところ、何もない。雪の白さだけが、まぶしく光っている。
「本当に何かいるの?」
美奈が怪訝そうな声で言う。