第十話
「皆さんをお待ちしておりました」
澄ました声がする。誰かと思えば、ツチノコだ。明は煮えくり返るような思いで、ツチノコを見つめる。誰も何も言わないが、おそらく、そこにいる他の三人も同じ思いだろう。
「さあ、次はこっちです」
まるで何事もなかったかのような言い方だ。
「え、次ってどういうこと?まだあるの?」
「もちろんです」
美奈の言葉に、ツチノコはぴしゃりと言った。というよりも、当然のような言い方をした、といったほうが適切かもしれない。
「わたし、もう嫌だ。早く帰りたい」
美奈の我儘が炸裂。いつもなら、それをたしなめて一触即発の空気を招く瞬も、このときばかりは何も言わない。美奈に賛成しているのだろう。なんといっても、はじめからこのツチノコ探しには反対だった人間だ。
「無理です。あなたたちがここに来たのには意味があるのです」
「意味って?」
瞬が聞く。
「役目があるということです」
要領を得ない説明だ。そういうことじゃないと思うけど、明は心の中でつぶやく。はたして、瞬の表情に苛立ちが浮かんだ。
「どんな役目かは、私にもよく分かりません」
ツチノコは先回りして言った。
「でも、私についてきてください。そうすれば、役目を果たすことができますから」
「なんか矛盾してるね」
瞳が困惑したように言う。
「ですから、私はある方から遣わされたのです。だから、行き場所だけは、はっきりしているのです」
「ある方って?」
すかさず、瞬が尋ねる。ツチノコは、そこで押し黙ってしまった。釈然としないものが四人を支配する。
「なんで、こんなことしてるんだろ・・・。私もそろそろ真面目に受験勉強をしないとやばいのに」
美奈がため息交じりに言う。そうだよな、明も思う。このままだと、何日も家に帰ることができないかもしれない、という不安が彼を襲う。
「もとはと言えば、お前がツチノコ探しなんていう、くだらない提案をするから悪いんじゃないか。それを今さら、勉強しないとやばいなんて・・・。ふざけるなっ」
遂に瞬が美奈に対して声を荒げた。
気まずい沈黙が一同に流れる。