条件と提案
「リトルボーイ!」
しかし俺の手からは何も発生しない。
「やっぱり三回で消えるみたいね。あんたのスキル」
少し遠くで観ていたレインがそう言ってきた。
一晩寝て、体力を回復させた俺は庭でスキルの確認を行っているのだが、どうやら俺のスキルは回数限度付きだったらしい。
「あと知っといたほうがいいのはそのスキル、奪われた方がスキルを使えるのかっていう点よ」
「確かに」
本当に奪えてるのかどうかでだいぶ使い方に差が出てきそうだな。
「ちなみに私は実験台なんかにならないわよ。スキルが返ってくるかもわからないんだから」
「そりゃそうか」
「ならっ、私で試してください!」
レインの隣で手をピンと伸ばしているのは身長がやけに小さいヤミだ。
「ありがたいけど、いいのか?」
「むしろ使ってください! タイガー様に私のスキルが使われるということはつまり一つになるということでそれは」
「で、お前の能力何?」
「鎖です。見ててください。『プリズンチェーン』」
するとヤミの手にはじゃらじゃらと鎖が現れた。そして彼女はおずおずとそれを俺に差し出して、
「ど、どうぞ」
そう言ってきた。
な、なんか逆にやりづらいな……。
「よし、盗賊王!」
とりあえず叫んでみる。このスキル見た目に変化がないから出来てんのかいまいちわかんないんだよな……。
とりあえずあそこら辺の岩に向けてやってみるか。
「プリズンチェーン!」
しかし何も起きない。
「あり?」
「どうやら条件が足りないみたいね。あんたがあの爆発するスキルを奪った時、どうしてた?」
条件……。あの時は確かまず今みたいに叫んだけど何も起きなかったんだよな。で、確かダメ元でもう一回叫んだら出来たんだっけ。
でもあの時と今違うことと言えばあいつのスキルをギリギリで避けたくらいだけど……それか?
「ヤミ、一回俺に向かってスキルで攻撃してくれ」
「えっ、そ、そんなことできませんよっ」
「それが条件かもしれないんだ、頼む」
「わ、わかりました。プリズンチェーン!」
数メートル先から直線を描いて飛んできた鎖をギリギリで避けつつ、
「盗賊王!」
俺はとりあえずそう言って、体勢を立て直した。
「よし、やってみっか。プリズンチェーン!」
やっぱり何も起きない。
これでもダメなら、後は。
「ヤミ、もう一回今の頼む」
「は、はい。プリズンチェーン!」
俺は向かってくる鎖に対して、少しだけ横にずれてかわしながら、ヤミの懐めがけて走っていった。
「ふえっ!?」
そして俺はヤミの肩にタッチして、
「盗賊王」
三度目の正直だ。頼むぜ。
「プリズンチェーン!」
すると俺の手からはヤミのよりひとまわり太い鎖が現れ、岩を砕いた。
「や、やりましたね!」
「ヤミ、お前スキル使えるか?」
「えと、プリズンチェーン……あれ、出てこないです」
なるほど。俺が使ってる最中は使えないのか。じゃあとりあえずあと二回使ってみて、と。
俺は二回プリズンチェーンを発動させた。
「これでどうだ。ヤミ使えるか」
「プリズンチェーン! あ、出ましたね」
使い終わったらスキルは元に戻ると。なるほど、だいたい理解した。
そのあと、体に触れずに至近距離で盗賊王を試したが成功しなかったので、どうやら条件は『相手がスキルを使っている時に体の一部に触れること』らしい。
「条件も分かったようだし、休憩しましょ」
レインのその一言で俺たちは部屋に戻った。
「なぁ疑問があるんだが」
「何よ」
俺はソファに座りながらレインに訊いた。
「お前こんな金持ちなのになんで奴隷なんかになってたんだ?」
するとレインはいつもの天真爛漫な雰囲気をおさめて、わりかし真剣な表情になった。
「人を探してたの。奴隷になったら近づけるとも思ったんだけど、無理だったわね」
「そんな理由で奴隷になったのか」
最悪死ぬかもしれないってのによくやるぜ。
「だってあんなに過酷なとこに送られるなんて思ってなかったもの。私の美しさがあれば普通買いたくなるでしょう?」
なんか前にもそんなこと言ってたなこいつ。で、結局うるさいから売れなかったってわけか。
「それよりあんたこそ何して奴隷になったのよ」
「強いていうなら……全裸で叫んだ」
「はぁ?」
レインは紙くずを見るような目で俺を見ている。いやだってこれしか言いようがないんだから仕方ねえだろが。
「あんた露出狂だったの?」
「いや……そういうわけでもないんだがな」
「まぁいいわ。それで、あんたはこれからどうするの?」
これから。これから……?
やべ、何も考えてなかった。そうだよな、こいつがいつまでも泊めてくれるわけでもないんだし、ここからは自分でなんとかしなくちゃいけないのか。
「特に決めてないなら頼みたいことがあるんだけど」
「なんだ」
「砂漠の街ハサラって知ってる?」