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始まる無双

 

「勝負?」


 あんたと俺とがか? おいおい、面倒ごとはごめんだぜ。ただでさえ奴隷だってのに。


「そうだ。貴様のようなゴミにそんなスキルがあるはずがない。勝負して確かめてやる!」

「そんな事して俺になんの得があるってんだ」

「ありえない話だが、もし俺に勝てたらこの作業場から出してやる」

「お、おいっ、お前そんな事勝手に決めるきか!?」


 別の監視兵が思わず話しかけていた。それに対して奴はニヤリと笑うと、


「奴隷の一人くらい消えてもわけないさ」


 マジでか。それが本当ならやる価値はあるな。

 けど勝てるのか? 俺のスキルってのが奴らの言うように伝説のなんちゃらなら恐らく凄い力を発揮できるんだろうが、保証はないしな……。


「ふん、もとより貴様ら奴隷に拒否権はない。さっさとやるぞ。せめて剣は使わないでやる」


 どうやらやる気満々のご様子だ。仕方ない、やるか。


「ふっ!」

「うわっ」


 あぶねっ。いきなり殴ってきやがった。ぎりぎり顔の横だぜおい。


「ほらほらほら」

「ちっ」


 奴が次々と攻撃を繰り出してくる。

 俺はそれを避けたり手で受け流していた。


 それより、今確信した。俺はこの世界にきてから飛躍的に身体能力が上がっている。

 奴隷作業の段階で思ってはいた、今までなら一回運んだだけで動けなくなるような重い石を何度も運ぶことができたからな。


「お前のスキルを見せてみろ!」


 見せろっつったって、どうやって使うんだよ! 全然わかんねーぞ!


「見せないのならこっちからいくぞ。『リトルボーイ』」


 リトルボーイ? いきなりなんだ?

 奴は重心を低くし、手を握りしめた。

 あの構え、いかにも手に何か仕込んでますって感じだな。


 さっきと同じように殴ってきた、けど少しゆっくりか? 受け流せるけど……避けておくか。


 避けたために奴は重心をずらし、よろけて手を地面につけた。瞬間、爆発が起きる。


「なっ!?」


 なんだ今の!? 爆発だと? なんで急に爆発なんかしやがったんだ。


 いや、これがスキルってやつか。だとしたら発動条件は……おそらく『リトルボーイ』、あれだ。なら俺も名前を言えばいいのか。


盗賊王とうぞくおう!」

「ついに発動したか……ん?」

「あれ?」


 特に、なにも起きない。

 お、おいおいおい。嘘だろ? まさか何にも起きないなんて。


「はっ、ははは! なにも起きやしねえ! やはり奴隷ごときが扱えるはずねえもんな!」

 

 奴は憎たらしいほどに高らかに笑いやがる。


「じゃあ大人しく喰らえや。リトルボーイ!」


 そのまま奴は殴ってくる。まずいな、避けられるとはいえいずれは当たる。

 さっきの爆発の威力をみるに、食らったら指くらいなら吹っ飛びそうだぞ。


 とにかく俺もスキルが使えないと……。

 なんか他に発動条件があるのかもしれないし、とにかくやるしかないな。


「盗賊王!」

「だから無駄だって言ってんだろ!」


 奴の攻撃をすれすれでかわしつつ、二撃目を避けるため、殴ってきた右手側の肘を掴み、逃げようとした、のだが。


「ぐあああ!」


 叫んだのは俺ではなく、奴だ。

 何が起こったのか。一瞬俺にもわからなかった。目を凝らす。


 奴の右ひじから血が滴り、焦げていた。そして腕は曲がるはずのない方向を向いている。


 まさか……爆発した? なんで俺の右手が爆発したんだ。奴のスキルの暴発?


「て、てめえ! 何しやがった! それは、それは俺のスキルだ! なんでてめえが俺のスキルを使えるんだ! てめえ盗むんじゃねえ!」


 盗む? 盗む。盗。盗賊王。

 まさか……『そういう』スキルか?


「それに明らかに俺のスキルより威力が高かったぞ! 何をしやがった!」


 威力は確かに上がってた。

 相手のスキルを盗み、グレードアップして使えるようになるってことか?

 まぁ本当にせよ嘘にせよ、今のこの状況……『使える』な。


「おい、見た通り俺のスキルは、お前のスキルをより強くして使える。お前は右腕もう使えないだろう。全身が使えなくなる前に降参したらどうだ」

「ぐ……くっそおおお! ぐぅ……こ、降参だ」



 こうして俺は初のスキルを使った戦いに勝利した。笑いが止まらんね。

 盗賊王、くく、俺向きのスキルもあったもんだぜ。

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