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幻想、虚構、現実、絶望


 二回戦に入る前に俺たちは20分間の休憩が設けられた。なので俺は一人で城のトイレを探していたのだが……。


「広くてどこにあるかわからん……」


 そう、この城馬鹿みたいに広いのでトイレがどこにあるかもよくわからないのだ。

 そんな時、


「そこの方、お手洗いでしたらあちらですよ」


 そう、誰かに話しかけられた。振り返るとやけに煌びやかな服を着た女性がいた。

 綺麗な金色の長髪に整った顔立ち。

 まぁここにいるようなひとはだいたい派手な服なのだが。


「あ、ありがとうございます」


 そう言って俺はトイレに入っていった。

 なんか、雰囲気が他の王族の人と違かったな…。特にあの目、何かを見通してるみたいな……。


 トイレから出た俺は驚いた。なぜなら出た先に先ほどの女性が立っていたからだ。


「あ、あの……何か?」

「貴方は……異世界の方ですね」

「っ!?」


 今……なんて言った?

 いや、俺はしっかりと聞いていたはずだ。

 そう、異世界と言った!


「あんたいったい何者だ?」


 俺は少し怯みながらもそう聞いた。すると、彼女は少し笑みを浮かべてこう言った。


「この国の、第一王女です」


 第一王女? だとするとリル王女のお姉さんか……確かエリザベスとか言ったか。


「それは失礼しました王女様。それで、先ほどの発言はどういう意味ですか?」

「そのままの、意味ですよ。貴方、この世界の者ではないでしょう」


 こいつ……明らかに何かを知ってやがる。

 どうするか、俺は別に元の世界に戻りたい訳でもないからな……。すっとぼけよう。


「ははは、お戯れを。別の世界などあるわけないではありませんか」

「戯れかどうかは貴方が一番わかっているでしょう? 『絶望人間』さん?」

「なっ⁉︎」


 彼女が言った絶望人間というフレーズは、馴染みがあった。何故ならそれは、俺がネットで使っていたハンドルネームだからだ。

 なんでこいつがそれを……?


「ふふ、まだ気づきませんか? 私の名前はエリザベス。『エリザベス女王』ですよ?」


 そうだ、あの時。俺に怪しいサイトを教えてくれたネットの仲間のハンドルネームは、エリザベス女王……。


「まさか……あの時の?」

「そうですよ。貴方に異世界転生備忘録のサイトを教えたのは私です」

「馬鹿な。だ、だとしたら何故あんたは俺なんかを?」

「それは別に誰でも良かったのです。たまたま貴方だっただけ。私は探してたんですよ、元の世界に帰る方法を」

「何を、言ってる……?」


 いったい何を言ってるんだこの女は。

 元の世界に帰る方法だと? って事は何か? こいつも元は地球にいたってのか?


「長かったですよここまで。私の絶望は今のあなたにはまだ計り知れないでしょう」

「訳が分からない。なにが言いたいんだ?」

「私は転生者だという事です。今より二十七年前、不慮の事故により私はここに転生した」


 二十七年前? そんな昔に……。


「俺以外にも転生した奴がいたのか!」

「ええ、でも貴方と決定的に違う点があります。貴方は来たくてこの世界に来たようですが私は違う。元の世界では欲しいものは全て持っていました。今でも姫などという豪華な地位にはいますが、やはりこの世界のレベルでは私の欲求は満たされない。私は帰りたいんですよ。元の世界にね。貴方、サイトでこの世界に飛ぶ前に警告されませんでした?」


 警告? ああ、確か今より大変でも転生しますか? みたいな感じだったか?


「今より大変になるみたいな警告の事か?」

「そうです。でも貴方、そうなっていますか? 逆に前より良くなっているのでは?」

「それは……そうだけど。それがどうしたっていうんだ」

「つまり、今まではただの準備期間に過ぎなかった、というわけです。貴方が最も絶望する為のね」


 俺が最も絶望する為の……?

 いったいどういう?


「今から始まるのです。あなたの絶望を糧にした最高のショーがね」

「え?」


 彼女が不気味な笑みを浮かべながらそう言うと、会場の方からは轟音と悲鳴が聞こえた。明らかに様子がおかしい。

 俺はすぐに走り出し、会場の方へと向かった。そこには、信じられない光景が広がっていた。


 鉄の枝のようなものが地面から生えていて、それが多くの人間を貫いている。

 その貫かれている中にはなんとクラウドとオイラー博士もいた。

 わけもわからず俺は彼らの元へと走る。


「オイラーさん! それにレインの兄貴も! 一体何がどうなって……」


 俺がそう言うと、二人は枝に貫かれた状態のままこちらを向いた。二人の腹からは血が滴り落ちている。


「や、やはりこうなったか。しかし、早すぎる……!」

「お兄ちゃん!」

「レ、レイン……」


 どこからかレインたちが走ってきた。良かった、こいつらは刺されていないらしい。


「逃げろレイン! このままだと全員死ぬぞ!」

「ど、どういうこと? それより早くお兄ちゃんをそこから降ろさないと……」

「俺はもう駄目だ! 血が足りない。それより…………きやがった」


 クラウドの視線の先にはエリザベス王女がいた。彼女の後ろには一人の男が付いている。

 彼女が来るなりリル王女は走り出し、彼女の前へと躍り出た。もちろんシェパードもそれに従う。


「お、お姉さま! 大変です! 何者かの襲撃を受けています! 早くお父様に知らせないと……」

「私はあなたのそういう鈍感なところが虫酸が走るほど嫌いでした。キッド!」

「はっ。アストロウッド」

「なっ?」

「えっ」


 キッドと呼ばれたその人物が何かを呟いた途端、地面から鉄の枝が生えてきた。

 シェパードが異変に気付いたが、もはや手遅れで、何をするわけでもなく二人とも串刺しになってしまった。


 響くレインたちの悲鳴。俺は唖然としていた。リル王女は明らかに身体に力が入っておらず、事切れていた。

 奪われていく命。それがあまりにも一瞬すぎて、俺は現実感がなかった。


「き、貴様ら。こんな事して許されると……」


 シェパードだった。シェパードが血を流しながら発言をしたのにも関わらず、リル王女たちは興味がなさげだった。


 リル王女たちはシェパードを素通りし、俺たちすら横切ると、クラウドと、オイラーさんが刺さっている元へと歩いた。

 オイラーさんは、口から血を吐きながらも、彼女たちを見て何か得心がいったような顔をした。


「き、キッドか。なるほど。やはり君たちは手を組んでいたのか」

「まぁそうです。彼も私も転生者ですから」


 彼も。ということはキッドという奴も俺と同じ転生者というわけだ。

 二人とも転生者だからこそ、これを行なったのか?


「転生者、やはりか」

「お気づきかもしれないですけどあなたの祖先の初代【天上貴族】も転生者ですよ。ま、彼らは帰る選択肢を放棄したわけですけど」

「……君たちは、二度目の転生を人工的に行おうとしている」

「ご明察です。では御託はやめて、始めましょう。キッド!」

「はっ。アストロウッド」


 頭の中で、今の会話を整理しようともがいてみても、無理だった。そして、自分の真下の地面が盛り上がってきたと確認できた時にはもう遅かった。


 鉄の枝が俺とレイン、ヤミ、グレープさんを貫いた。腹の部分に熱い焼き切れるような痛みを感じる。

 ああ、自分が刺されたんだと認識できた時には何もかも遅い。ふとレインたちを見ると、自分たちの状況を理解していないのか、呆然と虚空を見つめていた。


「仕上げに入ります」


 リル王女が懐から取り出したのは真紅の球だった。そして俺はそれを最近見たことがある。


「そ、それはレッドオーシャン。な、なんでお前が」

「なんでって、殺して奪ったのです。助かりました、王女の私じゃカジノに行けないですから」


 殺した? 誰を。いや、俺はもう分かっている。こいつはクリスたちを殺したのだ。

 そしてやっと彼女がさっき言っていた意味がわかり始める。絶望とはこのことなのだろうか。


「じゃあ終わりにします。キッド、やりなさい」

「はっ。アストロウッド」


 キッドが発動させた鉄の枝は、なんとリル王女とキッド自身をも貫いた。

 そして彼女は苦しみながらもおもむろにレッドオーシャンを空高くかざすと、球が光り始める。


「や、やはり、成功した! さぁ、佐藤大河、約束を果たしてもらう時です」

「な、何を言ってる」

「あなたは、何も守る事が出来なかった。現世でも、こっちでも。しかしあなたの苦しみはここから始まる」


 何を言っているのかわからなかった。

 ただ、会場にいた死んでいる人も含めて全員の身体が少しずつ光り始めていた。

 頭がズキズキする。これは、こっちにやって来る時に感じた感覚と一緒だ。


「私に見せてください。あなたのもがきを。それが退屈な人生を楽しむ唯一の方法」


 リル王女は、笑っていた。血で口元を真っ赤にしながらも俺を見て確かに笑っている。

 俺たちを包む光が強くなっていた。辺りが光の粒子で徐々に見えなくなっていく。

 その時、か細い声がした。レインの声だ。そちらを見ると、どこか寂しそうな顔をしたレインがいた。


「必ず、見つけて」


 そう言った。奥にいるヤミやグレープさんも泣きながら何かを期待するような目で俺を見て、微笑んでいた。


「ははははははは」


 もはや光の粒子であたりは何も見えなくなっていたが、リル王女の高笑いだけは聞こえていた。

 その勝ち誇ったような声を聞きながら、俺の意識は徐々に遠のいていった。


 ―――

 ――

 ―


 かすかに残る頭の痛み。そんな気だるさと、どこか懐かしい匂いを感じながら、俺は目を覚ました。


 そこは俺の部屋だった。


「夢……?」


 俺は立ち上がる。腹のあたりを触ってみたが、貫かれた後など微塵もなかった。

 ふと起動したままのパソコン見る。そこは確かに異世界転生備忘録のサイトだった。

 しかし、そこには転生した時に使ったページは無く、文章が書かれていた。


『虚構を持ったまま、絶望を受け入れろ』


 そう書かれていた。意味がわからない。その文章の下にはリンクが二つ貼ってあった。そこに飛んでみると、そこはあるニュースの記事が書かれていた。


 それは五年ぶりに行方不明者が見つかったというものだった。問題はその行方不明者の顔だった。リル王女そのものだ。


 どうやらさっきまでの事は虚構じゃないらしい。急速に現実に引き戻されていく。

 俺はページを閉じ、もう一つのリンクへと飛ぶ。それもニュースが書いてあった。それは、謎の言語を話す見たこともない素材でできた甲冑と剣を身につけた男と、女を保護したというものだった。公開されていた写真はレインとシェパードのものだった。


 その記事の最後には、アメリカで見つかった手から鎖を出せる少女との言語関連性が疑われていると書かれていた。

 彼女たちが見つかった時期は一緒ではなく、一年前や三年前とも書かれている。


 他にも全世界でこの謎の言語を話す人々が見つかっていて、宇宙人じゃないかなどの疑いがかけられているという。


 噂では極秘の人体実験をされていたりすると囁かれている。数年前に流出したとされる動画が原因で言われている噂らしい。

 その動画を見てみたがそこには手術台の上のようなところに目隠しされ裸で寝かされた女の子が、電気ショックや解剖など、拷問にしか思えない事をされていた。俺は最後まで見れなかった。


 ふと、俺は拳を握り締める。九年前は、母さんも父さんも由紀も守れなかった。俺だけが生き残ってしまった。

 何度死のうと思ったことか。けど、今回は救いたい。


『必ず、見つけて』


 レインの声が聞こえる。

 服を着なおし、身だしなみを整えると、俺は家から出た。



『虚構を持ったまま、絶望を受け入れろ』



 彼女に言われたセリフが背後から重くのしかかってくる。しかし俺は、出来るという自信に溢れていた。

 ここは幻想ファンタジーじゃなく、現実世界だというのに。

すみません。大幅にずれてバッドエンドになってしまいました。途中から精神がやられました。こんなバッドエンド投稿するか迷いましたが完結はさせるのが責任かと思いまして、投稿しました。


キャラクターが自滅したがっていたというのは言い訳になりますが、本当に申し訳ないです。

次作品、もう書いていますが、そちらでは逃げません(たぶん)のでよろしくです。

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