戦闘準備
「じゃあ二日後に城で待ってますわ」
「ばっくれちゃおうぜ」
「わかっているとは思いますが、来なかったりしたら大変な事になりますので悪しからず。ほほほ」
ち、しっかり釘を刺しやがって。
それにしても面倒な事に巻き込まれたもんだ。休む暇もねーな。
「仕方ないから貴様を参加させてやるが、本来ならばあり得ない事だということを意識しろ」
ロン毛はこんな感じで是が非でも俺のこと認めない気だし。
「なーに格好つけてるんですか。あんだけタイガー様の前で気取っといて普通にピンチになってたじゃないですか」
ヤミはヤミですぐ煽るし。
「なんだと! 僕のどこがピンチになったというんだ! あのままやってたら僕が圧勝していたさ」
「ふふーん。他の人は騙せても私は騙せませんよぅ。あなたタイガー様の攻撃を剣で受けた時の衝撃、まだ手に残っているんでしょ。今頃手は痺れてるんじゃないですかぁ?」
「な、何を馬鹿な事を……」
「ほぉらっ」
不意にヤミがロン毛の手をはたいた。
瞬間、奴の顔が苦痛の顔に歪む。
「ぐ、ぐあああっ!」
「ほら、痛いんじゃないですか。そんなんで本当にタイガー様に勝てたんですかぁ?」
なんだ、あいつ割とダメージ受けてたのか。
ぷぷ、ダサいな。
「ぐ、ぐぐ……こ、これは先ほどの戦いでのダメージではない! 他の……そう、魔物にやられたものだ!」
なんちゅう無理矢理感ある言い訳だよ。
そこまでして俺を認めたくないのか。
「ま、良いですよ。どちらにせよこれであなたにもタイガー様の偉大さがわかった事でしょう」
「……くそっ」
よくわからんがヤミが口喧嘩では勝ったようだ。
「あんたらのくだらない言い争いも終わったみたいだし、さっさと行くわよ」
レインのその一言で、話は終結し、俺たちはその場を後にした。
今日は宿屋に泊まる事になった。部屋に入った俺は、とりあえずシャワーを浴びて、寝巻きに着替える。
夜も更けてきたが、まだ眠くもないのでグレープさんから貸してもらった恋戦の一巻を読む事にする。
「なんですかっ? それ」
隣で寝っ転がっていたヤミがずいっと覗き込んできた。
「小説だよ」
「小説! タイガー様は字も読めるんですねっ。凄いです!」
やっぱり文字が読めることは凄いことなのか。
その後もヤミがちょくちょくちょっかいを出してきたがテキトーに相槌を打っていたら飽きたのか、寝始めた。
小説のストーリーはなかなか面白かった。主人公である女の子は、最初こそ純情で素直な子なのだが、イケメンの男の取り合いが過激化するにつれて、どんどん闇深くなっていくのだ。
一巻はそんな彼女たちの熾烈な争いから主人公が一歩リードし、イケメンとキスをするところで終わった。
意外というか不思議だったのは恋愛小説のはずなのに、スキルという概念があるためどこかファンタジーめいているところだ。
「ふぁあ……一気に読んじまったな」
気づけばだいぶ時間が経ってしまった。
そうして俺は眠くなったので寝た。
次の日。俺たちは宿のロビーで朝食をとりつつ相談をしていた。
「で、王族対抗戦とやらまでには時間あるけど、どうすんだ?」
「できるだけ準備はしておいた方が良いわね。時にヤミ、あんたって強いの?」
「わ、私ですかっ? も、もちろんですよう」
とっさに答えたヤミではあったが、いかにも頼りない。
確かにヤミの戦闘は見たことないけど、ぱっと見弱そうだしなこいつ。
「怪しいわね。わかったわ、ヤミはグレープと二人で特訓しててちょうだい。グレープもいいわよね?」
「はい」
「えーっ……まぁでも役立たずは嫌ですし……わかりましたよぅ」
グレープさんと特訓か、どんな感じなんだろうな。つーかそもそもヤミが俺以外の人と二人でいるとかどんな感じなんだろう。
「で、俺は?」
「あんたは私と武器を買いに行くわよ」
「武器?」
「ええ。私やヤミは武器を具現化するスキルだからいいけどあんたは武器持っとかないとダメでしょ」
なるほど。それもそうか。
剣と魔法の世界で確かに剣は必須だからな。
「わかった。その様子だとどこで買うかは決まってるみたいだな」
「ええ。王都には知り合いの武器屋がいるからそこに行くわよ」
「ちょーっと待ったーっ! レインさん! それってタイガー様とデートしたいだけなんじゃないんですか!」
こんな時にヤミが突っかかってきた。
うーむ、レインは全く気にしてなさそうだが。
「はぁ? 私がこんな奴とデートなんてしたいわけないでしょ。自惚れるのもいい加減にしなさいよね、大河」
「いや俺何も言ってねーだろが」
「わかってるとは思いますけど、タイガー様に色目使ったりしたら私が許さないですよっ」
「へぇ、面白いじゃない? どう許さないのか見せて欲しいわね」
なんか雲行きが怪しくなってきたな。喧嘩しそうな勢いだぞ。
「レイン様もヤミ様もその辺で。今はそのような事をしている時ではありません」
そう思っていたらグレープさんが制止をかけてくれた。
それを聞いて二人は冷静になったみたいだ。
「そうですね、すみませんでしたレインさん」
「いえ、いいわ。そうよ、こんなことしてる場合じゃないわね。行くわよ大河!」
「へいへい」
たかが武器屋に行くだけなのにこのグダグダ感。俺たち大丈夫か?




