国家転覆
金色の髪に整った顔。レインとはさほど似てないその男がクラウドとかいう兄だというのだからおかしな話だ。
「お兄ちゃん!」
レインはクラウドを見るや否や、普段からは考えられないような幼い顔を見せた。
それに対して彼の方は、こちら側に無言で歩いてくる。
何をされても対処できるように準備しとかねーとな……。あと三歩、二歩、一歩……!
「レインーっ!」
「へっ?」
クラウドは甲高い声を出してレインへと抱きついた。
あまりの意味不明さに俺は一瞬思考回路が停止する。
な、何が起きたんだ?
「な……何すんのよ!」
「おっとごめんな。感動しちゃってつい」
「か、感動って何よ」
「愛しい妹に会えたんだ。これ以上の感動はないさ。いやぁ、久々だな。元気にしてたか?」
「う、うん…………じゃなくて! 私はお兄ちゃんを正気に戻すためにここまで来たのよ!」
クラウドのペースに乗せられていたレインだったが自力で抱擁から脱出し、そう言い放った。
「正気に戻す? ははは、何を言ってるんだレインは? 俺が正気じゃないと言ってるようだぞ?」
クラウドは本当に、心の底からそう思っているようだ。笑みを浮かべた顔に偽りは見えない。だけど、どこか不気味だ。
「だ、だって、お兄ちゃんはエニグマ事件を引き起こして……」
「それは誤解だよレイン! あれは皆死ぬはずだった死刑囚。彼らは俺に吸収される事を自ら望んだんだ」
「どういうこと?」
エニグマ事件は死刑囚が自ら望んで起きたものだと? そんなことがあり得るのか?
「十年前、俺が学校に院生として通っていた時、俺は異種族間歴史の研究である発見をした」
「発見?」
「なぜこの国には魔族がいないのか。教科書ではどう教わった?」
「……数百年前の戦争で魔族側に侵略されて、逃げて来た人たちの集まりがこの国で、その経緯から他種族に排他的って教わったけど?」
ほうなるほど。人魚族とかの魔族はそんな理由でこの国にいないのか。できるなら見てみたかったが。
「学校ではそう教わるはずだ。けど真実は違う。この国があった場所には元々住んでいた種族がいたんだ」
「まさか……」
「そう、それはもちろん人族じゃない。エメラルド族と呼ばれるその種族は、俺たちウィルビカム人が滅ぼしたのさ」
要はこの国の人たちが先住民のエメラルド族とかいう人らを追い出したって事か。なかなか衝撃な事実だな。
「そんなの急に言われたって信じられないわよ」
「だろうな。それはそれで良い。だが俺は確信を持っている。俺が牢獄で死刑囚を吸収したのも情報を得るためだ」
「情報って何のよ?」
「もちろん歴史の真実さ。彼ら死刑囚は何をして死刑囚になったと思う? 知っちまったんだよ、隠された歴史をな。彼らは俺に全ての想いを託して吸収されてくれたよ」
なるほど……それなら死刑囚が自ら吸収されたって話も納得できるな。
「じゃあお兄ちゃんは今までずっと真実を追い続けてたの?」
「ああ。政府に見つかって捕まりそうにもなったがオイラーさんに助けてもらってな。それからずっと真実を追い続けてる」
「ふふふ、そういう事だ。僕も真実は知りたいからね」
オイラーさんは笑いながらそう言った。
けど、待て。おかしくないか? 何かおかしい。
そうだ、あの時グレープさんはこう言っていた。天上貴族はウィルビカム王国開国以前からいたと。
「えと、ちょっと良いですかね?」
「なんだい?」
「オイラー様って天上貴族ですよね。天上貴族ってのはウィルビカムが開国する前からいたんでしょ? って事はむしろ歴史の事実は知ってて、隠したい側なんじゃ?」
そう言うと、さっきまで俺に微塵も興味なさそうだったオイラーは値踏みするように俺を見始めた。
「ほう……君はなかなか頭が回るようだね。その通りだ。僕はある程度歴史が改変されている事を知っていたしそれは既にクラウド君に話してある。けどね、その情報は全てじゃない。僕は真実を全て知りたいんだ。そのためにこうやって協力してるのさ」
「なるほど。じゃあ真実を知ったその後はどうするつもりなんです?」
「さぁね。ただ他の天上貴族は黙ってないだろうなぁ。あと王国側も。彼らは民が真実を知って反旗をひるがえす事を恐れてるから」
「なるほど」
まぁだからこそ歴史を知っただけで死刑囚なんかにさせられるんだろうからな。
「じゃ、じゃあお兄ちゃんも真実が知りたいだけで他には目的はないって事なの?」
「いや、俺にはでかい目的があるよ」
「何する気?」
レインの問いかけに対してクラウドは不敵に笑い、
「国家転覆」
そう答えた。




