天上貴族
「王都?」
この国の中心って事だよな。そういえばここってなんていう国なんだろ?
「ええ、王都エルメリー。あそこで私が探してる人の目撃情報があったらしいの」
らしい、って事はこいつがシェパードに送った手紙はそれ関連の話だったって事か。
「ふーん。お前が探してるのって誰なんだ?」
「まぁあんたには話してもいいか。私が探してるのは『天上貴族』の一人よ」
「天上貴族……」
ってなんだ? また俺が知らない話をぶち込んでくるのはやめてくれ。
俺が知っている振りをしようかどうか迷っていると、グレープさんがそれを察してくれたのかフォローしてくれた。
「大河様も、もちろん知っているかと思われますが、天上貴族とは我々貴族階級の更に上、ここウィルビカム王国開国以前の時より存在していたとされる絶対的な存在です」
なるほど。かなり歴史ある貴族って事か。あとこの国ウィルビカムって言うのか。
それにしてもグレープさんグッジョブ。あんたは完璧なメイドさんだぜ。
「その天上貴族をなんでレインは探してんのさ」
「……その天上貴族がある犯罪者を奴隷として雇っているのよ。私はその奴隷に用があるの」
「犯罪者を雇うってとんでもねーな。寝首かかれるかもしんねーのに」
「それはありえないわね。大金で雇われているでしょうし、何よりそんなことをしようとしたらそいつは行動を起こす前にこの世に微塵も残らなくなるわ」
まぁ雇えるって事はそれだけ自信があるって事だしな。
「で、その犯罪者ってのは何したんだ?」
「誘拐よ。そういえばあんたこの国出身じゃないんだっけ。じゃあ『エニグマ事件』知らないわよね」
「お、おう」
この国出身じゃないってかこの世界出身じゃないんだが。
「エニグマ事件っていうのはこの国で十年前に起きた事件よ。当時ある一人の男がスキルを使って百人を超える死刑囚を誘拐したの」
「百人⁉︎ 警察、じゃなくて特警の奴らは何してたんだ?」
普通そこまで大規模な誘拐が行われてたら気づくだろ。
「それが全く犯人の手がかりが無かったの。後で判明したけど、犯人はスキルを使って自分の中に人間を取り込んでたのよ」
「人間を、取り込む……?」
「それが犯人の能力『エニグマ』。相手の体を解析して取り込み、自分の力にすることができる」
とんでもねえチート野郎が出てきやがった。それが本当だとしたらかなり強いんじゃねえの?
「なんでそんなおっかねえ奴に会いたがってんだよお前は」
「……そいつ、私の兄貴なのよ」
「へ?」
「犯人の名前はクラウド=ベルウェザー。正真正銘私の兄よ」
やべぇ、こんな時どんな顔すればいいんだ? 笑えばいいのか? 誰か笑えばいいと思うよって言ってくれ。
「流石のあんたでもびっくりしたみたいね」
「そりゃするわ……けどなんでその兄貴が今は天上貴族とやらの元にいるんだよ」
「そこらへんの経緯は私にもよくわからないのよ。ただ兄が牢獄に入れられる前に天上貴族に買われたって情報だけは手に入ったの」
「……なるほど。とりあえず状況は理解した」
「そう。じゃ、行くわよ!」
レインは立ち上がり、俺の手を引っ張って家から連れ出そうとした。慌てて俺は足でブレーキをかける。
「ちょ、ちょちょ! 待てい! 理解はしたが俺がついて行くだなんて一言も言ってないぞ!」
「うっさいわねー。つべこべ言わずに来なさい! 終わったらあんたの奴隷の身分も私がもみ消してあげるから!」
「……じゃあ行くか」
半ば強引にだが俺はレインに連れられて王都に行くことになった。
そういえばやけにヤミの奴が静かだなぁと思っていたが、ヤミはグレープさんの術中にまんまとハマり、手品を見せられてこっちの話などろくに聞いてなかったようだ。
相変わらず単純な奴である。
「ところでレイン。お前、兄貴に会ってどうするつもりだ?」
そう訊くと彼女は不敵な笑みを浮かべ、
「ぶん殴って目を覚まさせてやるのよ!」
そう言い放った。




