億千万の胸騒ぎ
「お、おい。もしかしてあのゴンゾウがやられたのか……?」
「たった一撃で? 馬鹿な……」
「しかし現にやられているぞ……」
「何者なんだ彼は?」
「へへーん、タイガー様はすごいでしょっ?」
観客席からはそんな声が聞こえてくる。なんか一人変なの混じってたけど。
他にも単純にふざけんな、全財産賭けたんだぞ、とか罵声も飛んできていた。知るか。
うーん、思ったよりも目立ってしまったようだ。でもこれであいつらはちゃんと侵入できたはず。俺はお役御免だ、さっさとここを出るとしよう。
俺は闘技場から出ようとして、黒服の男が選手入場口に立っている事に気付いた。
「あ、無理言って悪かったな。おかげでいい憂さ晴らしになったよ」
「いえいえ、こちらとしても最高のエンターテイメントでしたよ」
「じゃあ、俺は失礼させてもらう」
「いや、そういうわけにも……いかなくなってしまいました」
黒服は急に俺の前に立ちはだかってきた。
なんのつもりだ?
「あれだけ強い奴隷がいるとなると、欲しいと言われるお客様がたくさん出てきてしまうのですよ。この意味お分かりですよね?」
「俺を買いたい奴がいるって事か? やなこった、俺は帰らせてもらうぞ」
「私たちとしましても上客の皆様の声を無視するわけにもいきませんので……かなり強引な手段になってしまいますが?」
ニコニコと笑いながら黒服の男は指を鳴らした。すると奥からガタイのいいボディーガードのような男が二人現れた。
指鳴らして人が出てくるとか本当にあんだな。
「脅しってやつね。初めて見た」
「ならそのまま大人しくしていただきたい。今、観客席ではあなたのオークションが開始していますので」
俺のために争わないで! がリアルで起きてるのか。なんかシュールだな。
こいつらを相手取るのは流石に骨が折れそうだが……どうやらその心配もないみたいだな。
「ぐはっ!」
「おぉう……!」
「なんです! どうしたんですかあなたたち!」
ボディーガード二人は急に崩れ落ちた。それを見て黒服の男は慌てているが俺は何が起きたかわかっている。
出口の奥からやってきたのは、褐色の肌を持つ女、クリスだった。
「な、なんですかあなたは?」
「ハーイ、御機嫌よう。ターバン巻いてるからあたしってわからないのかしら。じゃあ取ってあげる」
クリスは顔を覆っていた布を取り始めた。
「あ、あなたは人気の踊り子の……」
「クリスよ、いえデレハと言った方がいいのかしら。よかった、知っててくれたみたいね。けど残念、あたしって踊り子は本業じゃないのよ」
「何を言って……」
するとクリスは懐から赤く光る宝石を取り出した。
「そ、それはレッドオーシャン⁉︎ 何故ここに。まさか」
「そう、あたしたちは盗賊なのよ。あたしの目的はこのレッドオーシャン。ちゃんといただいたわ」
「そ、それはあなたのような人が盗んではいいものではないっ!」
「知ったこっちゃないわ、じゃあね〜。行くわよ大河!」
「へいへい」
なんかクリス、俺のこと手下だと思ってないか? おいやめろ手下A、俺を気の毒そうな顔で見るな。肩を叩くな、仲間じゃないぞ。
俺たちは目立たないように途中でヤミを拾って外へと出た。そして町外れのやつらの隠れ場へと戻ってきた。
「やったわ! 手に入れた! やったのよ!」
ぴょんぴょんと跳ね、嬉しそうにしているクリス。子供か。
「はいはいよかったね。じゃあヤミのこれ取ってあげて」
「もうっ、つれないわね。いいわ、ガンタ。解除してあげなさい」
「へいっ」
ガンタと呼ばれる手下Bが手をかざすと、ヤミの首につけられた首輪が消え去った。
「なんともないか? ヤミ」
「はいっ」
「そうか。ところでヤミ。いつつっこもうかと思ってたんだが、そのでかいキャリーケース何?」
そう、カジノでヤミの元に戻った時、何故かこいつはこの黒いキャリーケースを持っていた。
「50億ですっ」
「へ?」
今なんて言った? 50億? 何が?
「ここには、現金1億ギルと49億ギルの小切手が入っているんですよっ」
よーし、全部ほっぽり出して隠居生活始めるか。




