目立つ方法
「あれ、タイガー様。次の試合の券買いに行かないんですか?」
「あぁ、面白い事思いついちまった」
「面白いこと?」
ヤミが首を傾げている。
俺はそのままさっきの黒服の男を探して見つけると、俺が考えている事を話した。最初は驚いていた黒服だったが、徐々に笑みを浮かべ、了承してくれた。
「そ、それ本当にやる気ですかタイガー様」
側で話を聞いていたヤミは口をアングリと開け、驚愕の表情を浮かべている。
「ああ、本気だ。大丈夫だと思うよ。さっきの試合を見た感じだとね」
「で、でも……」
「まぁ、任せとけって。ヤミは席で見てろ」
「ではこちらに」
俺は黒服の男に階段下に案内された。関係者以外入れない階段を降り扉を開くと、そこには曲線を描いた廊下が広がっていた。
「武器はお使いになりますか?」
「いいや、いらない」
黒服の問いにそう答えた俺は足音の響く廊下をただただ突き進む。
向かう先の出口からは実況者の声が聞こえて来た。
「観客にいる皆様! 突然ですが飛び入りの参加者がやってきましたぁ! 格闘家ゴンゾウと闘いたいという無謀をやろうとしている男の名は、タイガ!」
観客がどよめく声が漏れてくる。そう、俺は今選手用の廊下を渡っている。
俺が考えた作戦ってのは簡単に言えば選手になっちまおうってことだ。飛び入り参加の選手が最強の選手と良い勝負してたらかなり観客の目を惹きつけられるはず。
「しかもこの選手、なんと身分は奴隷とのことです!」
おい、そんなこと一言も教えてないぞ……なんで知ってんだ実況者。
「奴隷の身分で挑戦とはこれはかなりオッズは荒れそうだーっ! さぁ、では入場していただきましょう! 奴隷戦士、タイガ!」
誰が奴隷戦士だ。
出口を抜け、闘技場へと出ると、ゴンゾウとかいうノッポが俺を見て笑った。
「おいおいおい、俺に挑戦なんていうからどんなやつかと思えばなんだおめえ? とんだモヤシじゃねぇか!」
その言葉で観客もさらにどよめき始める。どうやら俺を見て勝てるはずがないと見込んでいるようだ。
オッズは今の段階で俺百倍。舐められてんな、いやそりゃそうか。
「おめえみてぇな雑魚なんて試合するまでもねえが、仕方ねえこれは仕事だからな。やってやんよ」
大男がだるそうにそう言ってきた。
まぁいい、俺の目的は果たした。すでに観客はイレギュラーなこの試合にかなり釘付けのようだ。
だから、俺は別にもう負けても良いんだが……。
「おめえ武器は持たなくて良いのかぁ? そんなんじゃ俺に万に一つも傷をつけられないぜ? まぁあったところで意味はねえがなぁ!」
なんかこいつには意地でも負けたくねえ!
でかいからって調子乗りやがってこの野郎。
「口数が多いやつはかませって相場は決まってんだよノッポ野郎」
「あんだとぉ? はっはっは! じゃあ見せてみろやおめえの実力!」
「ちょ、ちょまだ試合開始の合図が――」
実況者が開始を言う前に奴は突っ込んできた。そのまま思い切り殴ってきた。
速いが直線的だ。余裕で避けれる。
「へっ、良く避けたな。だがこれはどうだ! 『ビッグハンズ』」
奴の両手が急に巨大化した。能力者か。まぁそうだよな。大きくなって遅くなったかと思ったがそんなことはなくさらに速くなった拳で奴は殴ってきた。
俺はそれを奴の股をスライディングでくぐり抜け、足首を掴んでスキルを発動させた。
「盗賊王」
すると奴の手は急速に元の大きさに戻る。
「なっ、何をしやがっ」
「ビッグハンズ」
奴が狼狽えて正常な動きができていない間に俺はすかさずスキルを発動させ、奴の顎に叩き込んだ。
そのまま奴は上へ吹き飛び、落ちてくるときには意識はなくなっていた。
ま、あんだけ大振りの技ならそりゃ盗むぜ。
「悪く思うなよ。煽ってきたあんたが悪い」
あれだけうるさかった観客席はいつの間にやら静寂に包まれていた。
もしかして……やりすぎた?




