情熱的な踊り子
スリは俺たちが走ってくるのに気づくと、走る速度を速めた。
くそ、なかなか速いな。
街の角を度々曲がり、俺たちをなんとか撒こうとしているようだったが、身体能力の上がった俺ならこれくらいの追いかけっこはわけない。
「タイガー様! どんどん街の外側に向かってますよ!」
「このままだと街の外に出るぞ……?」
外は砂漠だ。無論隠れる場所などない筈。にも関わらず外に向かってるって事は、こいつは相当の馬鹿かそれとも何か理由があるのか?
走っていくと、街の外れの方に辿り着き、そこは砂漠の中には珍しい水が溜まった池と巨大な岩があった。
スリはその岩の隙間にできた洞穴のようなものの中に入り込んでいった。
どうする、俺たちも入るか? 罠かもしれないが……。いや、ここまで来ちまったからには罠だろうが行くしかねえ!
「入るぞヤミ!」
「はいっ」
中は大きな空洞となっていて、その先にはスリともう一人ガラの悪そうな男が待っていた。
「おいおい、おめぇ追いつかれてんじゃねぇか」
「はぁはぁ……ちっ、しぶとい奴らだ。だがここまで誘い込めばいいだろう?」
「そうだな、消しちまえばいい話だ」
すると二人はこちらへ向き直り、ニヤリと笑みを浮かべる。
消すとかいう物騒な単語が聞こえたのは俺の耳がおかしくなったからじゃなさそうだな。
俺は恐怖心をなんとか抑えつつ、奴らを精一杯睨みつけながら、
「お前ら何もんだ? ただのスリにしては穏やかじゃないみたいだな」
そう訊くと、奴らはくすくすと笑った。
「どうやらあんたはこの街には詳しくないみたいだな。あんたのいった通り、俺らはただのスリじゃねぇ!」
「そう、俺たちは!」
急に二人は何事かよくわからんくねくねした動きを始めると、最後にポーズを決めて、高らかに叫んだ。
「サバンナ盗賊団!」
急な静寂が俺らを襲う。なんだこれ、俺らに何を求めてるんだこいつらは。その期待するような目はなんだ、悪いがポーズから名前まで何一つかっこよくないぞ。
「おー」
ヤミが手をパチパチと叩いていた。素直に感心しているようだ。
その拍手を見て彼らはやけに得意げな顔になると俺らの方へ近寄ってきた。
「なかなか良さのわかるお嬢ちゃんじゃねぇか。あんたの娘か?」
「私は娘じゃないですーっ! タイガー様の奴隷なんですっ」
「え……お、お前この歳の女の子にそんなプレイを強要してるのか……!」
「……と、とんだ大悪党だぜ」
二人の盗賊が本気でドン引きしてるようだった。
よくわからんがあらぬ誤解を受けてるようだ。これは早急に誤解を解かねば。
「いや、こいつはだな――」
―――
――
―
「へぇ、なるほど……あんたら奴隷だったのか。なかなか苦労してんだなぁ」
「うっ、うっ。なんて辛え経験してやがんだ……」
意外な事にこれまでの経緯を話すと親身になって聞いてくれた。
なんだこの状況。なんで俺盗賊とこんな会話してしかも盗賊泣かせてんだ?
「いやぁ悪かった。この袋は返すよ」
「いいのか?」
いいのか、って訊くのも変な話だが。
「いいんだいいんだ。そんな話聞いちまったら盗めねえやこんなもん」
「そうさそうさ。こんなところをアネゴに見られたらおしまいだけどな」
そんな事を言いながら笑いあっている盗賊二人。その時だった。
「あらあら? あなたたち……何をしてるの?」
「あ、アネゴ!?」
「こ、これはその!」
褐色の肌、長い黒髪。そして露出の高い服。
アネゴと呼ばれるその人物は、先ほど情熱的に踊っていた人気の踊り子そのものだった。




