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森の中で ①



「よし…、これで全部かな」


太陽が真上を少し通り過ぎ、木漏れ日が差し込む森の中で、俺はトルネ茸を丁寧に皮袋にしまいながら呟く。依頼の品が書かれたメモ用紙にチェックを付け、もう一度採取忘れがないか確認し、全て取り終わっていることが分かれば大きく伸びをした。


「ふぅ…! さて、後は自分の採取に時間を使えるな」


メモ用紙をポケットにしまい、俺は森の奥へと歩みだす。

ハンターはクエストへ行く際、依頼の品をしまう皮袋とは別に、個人的な採取用の皮袋を持って行く。これにモンスターを狩った際に手に入る素材や、鉱石、木材などをしまいクエストカウンターへ持っていけば、工房へ回して貰い武器や防具を作ってもらったり、卸業者に回して貰い売ることが出来るのだ。


「鉱石をいくらか掘ってって、後は依頼の報酬金でなんとか粘液は買えそうだな…。 後はルミナ鉱石と、グリントベアの爪か…。爪の方は入荷するまで待つしかないかー? なんかで代用できたりしないかな」


身をかがめ貴重な素材が落ちていないか見渡しながら、生い茂る木の枝や草を払いのけ歩いていると、数メートル先の木の陰から何かが飛び出した。咄嗟により身を低くかがめ、その正体を観察する。

それはキャロットラビットだった。好戦的な草食獣で、鋭く生えた前歯での噛みつきを得意とするモンスターである。しかし悲しきかな物凄く弱く、初心者ハンターの1番最初の獲物として狩られることが多い。また毛皮は手触りがよく肉も美味いため、需要も多いやつなのだ。時刻はちょうど昼下がり、腹を満たすために一狩りいきたいところだが…。


「…………」


俺は息を殺し音を立てないように動かず、時間が過ぎるのをただ待った。やがてキャロットラビットはぴょんぴょんと森の奥へと消えていった。その後ろ姿にため息をつきながら、俺は昔を思い出した。




戦闘禁止。それが特例でEランクハンターになった俺に出された条件だった。

故郷の村からハンターになるためにサバ王国へとやってきた俺に、容赦の無い現実が待っていた。

クエストカウンターに隣接するギルドの本部。そこでハンターの登録するために、簡単な試験が行われる。試験と言っても合格不合格というものはなく、武器の扱う素質を診断されるのだ。

ギルドが用意した5つの種類の武器を順番に仮想敵に向けて使用する。すると仮想敵が威力や精度からその者の素質を判断し、ランク付けをするのだ。

あの日、多くのハンター見習いが自分の素質を知るためにワクワクとした表情で列を作る中で、例に漏れず、俺もまたワクワクしながら自分の順番を待っていた。前にいた同い年くらいの男に話しかけられ、ハンターになったら一緒に狩りに行こうなとか、今夜飲もうぜなどと話をしつつ、心から楽しんでいたことを今でも覚えている。そう、凄く楽しかったんだ、あの時までは。


「次、ノラ・ストラウス。君の番だ」


前の男性がグローブの適性をBと診断され、ホクホク顔で「じゃあ、酒場で待ってるぜ」と言って出ていった後、俺の名前が呼ばれた。

試験が行われる部屋に入ると背の高い銀髪の男性が笑顔を浮かべながら立っていた。


「やあ、こんにちは。時間がないからサクサク行くよ。まずは剣からだ」


彼は俺に剣を手渡すと仮想敵を指差した。微かに白く光るブヨブヨとした球体。これを切ればランクを診断される。


「すぅ…ふぅ…っ」


初めて持つ剣の重さ。どこかぎこちなく柄を握り締めながら、深呼吸して集中する。

できることなら剣の素質があって欲しい。かっこいいしかっこいいし何よりかっこいい。


「っ! うらぁっ!」


かっこよく剣を扱う自分を想像しながら、俺は思い切り、剣を球体へと振り下ろした。


「…ん?」


しかし剣は鋒が球体を掠めることも無く、俺の手からスポンと抜ければ、床にカラカラと音を立てて転がった。


「…緊張してるのかい? ほら、これで手汗を拭きなさい」


銀髪の男性が苦笑しながらタオルを手渡してくれる。俺は恥ずかしさで顔が真っ赤になるのを感じながら、手汗を念入りに拭き、剣を拾い上げた。


ぐうぅ…気負いすぎたか…ならばもう一度!


「おっ、らあああっ!」


今度は両手でしっかりと握りしめたまま、思い切り球体に向け剣を振るう。

振るった、はずだった。

しかしまたも剣は俺の手からすっぽ抜ければ、またも甲高い音を立てながら床を転がった。


「えっ…?」


思わず男性の方へと視線を向けてしまった。彼もまた、絶句してこちらを見つめていたが、ハッとして引きつった笑みを浮かべれば杖を手渡してきた。


「ま、まあすっぽ抜けることは誰だってある。今度は杖で魔法を撃ってみよう。これなら手から落ちる可能性はないだろう」


「そ、そうですよね! それじゃあ、魔法を…」


「うん。その杖ではファイアの魔法が使えるから」


ファイア。杖さえあれば誰でも使える基本的な魔法だ。俺は気を取り直し、杖を構えると大きな声で呪文を叫んだ。


「ファイア! …ファイアファイアファイアアアアア!」


しかし火花さえ出ることはなく、連続で叫んでもファイアのフ文字でさえ出ることはなかった。

それから他の武器も試したが、槍は剣と同じようにすっぽ抜け、弓矢は蔓が切れ、グローブははめることすらできなかった。


「…ノラ君。 申し訳ないが、君にハンターの資格を与えることは出来ない」


全ての武器を扱うことすらできず、呆然と立ち尽くしている俺に、銀髪の男性は1枚の紙を手渡した。そこには5つの武器の所に『ERROR』と書かれていた。


こうして俺は、ギルド史上初のハンター不合格の烙印を押された男になったのだった。





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