英雄の登場
ランドルト=ボーンクライン。
65歳の高齢にもかかわらず、サバ王国のハンターの中で、最強の位置から長い間揺らぐことなく君臨し続けている。
10代半ばにハンターとなって以来、数多くの
モンスターを討伐し、名を馳せた英雄であり、その功績から国王から爵位を与えられるほどである。
そして彼は当時の国王から、もう一つの称号を与えられた。
それは、『鬼神』という二つ名。
以降Sランクハンターにしか与えられることのない二つ名の始まりは、彼の闘いっぷりから名付けられた。
身の丈ほどの大剣を片手で軽々と振るい、モンスターの返り血を浴びながらも豪快に斬り裂いていくその姿は、まさしく鬼。
戦闘以外の姿もまた、人々を魅了した。明るく正義漢で、誰にも優しく、時に厳しく、理想の英雄として、彼は存在した。
そして彼は、俺を、武器を使えない俺を、ハンターとして認めてくれた、恩人なのだ。
「ダーグラ君」
「はっ、はいっ!」
ランドルトさんに話しかけられたダーグラは、俺から拳を離し気をつけの体勢になる。それを見たランドルトさんは笑いながらダーグラの肩に手を置く。
「おいおい、そんなに緊張することはないだろう」
「いえ、ランドルトさんは、憧れの人ですので!」
「そうなのか? ふむ、それじゃあ憧れの人からの忠告だ。どんな依頼であっても、しっかり丁寧にやりたまえ。依頼主と友好を深めることもハンターには必要なことだぞ」
「あっ…、わ、わかりました! 肝に命じます!」
「よろしい。君は僅かな期間でCランクに上がった有望なハンターだ。これからもより研鑽を積んでくれ」
そう言ってランドルトさんは軽くダーグラの肩を叩くと、次はナナカさんに歩み寄る。
「ナナカ君、君も誰かのために怒れる優しさは素敵なことだが、もう少し事を荒立てずに穏便に済ませるようにした方が良い。君は依頼主とハンターの架け橋という大事な役割を担っているのだから、ね?」
「…はい、今後は気をつけます」
ランドルトさんの言葉にナナカさんは素直に頭を下げた。どんなことがあっても一歩も引かないナナカさんも、彼の正面からの忠告はこたえたようで、その声は少し震えていた。
「そして、ノラ君。君は最後、自分が殴られて終わりでいいやと考えていただろう」
ランドルトさんの視線がナナカさんから俺へと移る。
うっわ、こええっ!さっきまで2人が怒られてるの冷静に見てたけど、この人目が笑ってない! 口調はにこやかなのに超怖い!
「それではいかん、いかんぞ。自己犠牲だけでは何も守れん。手を出すのならその場を収められるほどの強さを持った上で行動に移りなさい」
「はいっ! わかりましたっ!」
「うむ、よろしい。君の仕事ぶりはよくトトさんから聞いているよ。これからも頑張ってくれたまえ」
そこでようやくランドルトさんは目元も嬉しそうに曲げて、一件落着というように手を叩いた。
「それじゃあ、私は行こう。皆仲良くなっ」
大きな笑い声を残したままランドルトさんは高ランクのクエストが受けられる窓口へと歩いて行った。その後ろを小柄な少女が付いて行く。そういえば最近弟子をとって育てているという噂を聞いたが、彼女がそうなのだろう。羨ましい限りだ。
俺たち3人は説教された後味の悪さが抜けず、しばしその場で罰が悪そうに立ちすくんでいた。ようやくダーグラのパーティーの1人が彼に声をかけ、違うカウンターへと向かっていった。
「ふう…さて、俺も行こうかな」
「ええ、お気をつけて」
一呼吸置いて、そう言えばナナカさんは苦笑しながら答えてくれた。
「それじゃあ、キノコ料理をご馳走してくれる事を楽しみに、頑張ります」
「⁉︎ 聞こえてたんですか⁉︎」
「あっ、うん。なんとなくだけど」
「………はい、美味しい料理を作りますので頑張ってくださいね!」
パクパクと魚のように口を開いて俺の顔を凝視したナナカさんは、開き直ったように大きな声で笑顔で応援してくれた。
美人に応援されて、さらにはご飯の誘いもあっては頑張らないわけにはいかない。
「いってきます!」
彼女に負けないくらい大きな声で返事をし、仕事へ出発した。
場面ごとのタイトルは纏めた方が見やすいかなーと思ったので、次からはそういう風にします。