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ハンターとギルド

 


 ハンターという仕事がある。

 俺が拠点とするサバ王国には、国を囲うように円形の城壁が建てられており、それに守られるように人々は生活している。

 しかし一歩城壁より外に出れば、危険なモンスターが蔓延っているため、常に危険と隣り合わせなのである。

 ハンターはモンスターを狩猟し、そういった脅威を取り除くことや、外の貴重な素材を持ち帰り、依頼主に届けるなどの仕事を行うことで生計を立てている。

 命と隣り合わせな危険な仕事だか、実力さえあれば誰でも成り上がることができ、一攫千金も夢じゃないため多くの人がハンターを目指し、この王都へとやってくる。


 ハンターになるために必要なことが1つだけある。それは、『武器』を扱えること。

 はるか昔、人はモンスターに対抗する手段はなく、ただ蹂躙されるしかなかった。しかし神が祝福の施した武器を人に与えたことで、人はモンスターと対等の存在となった。この武器というものがなければ、どれだけ肉体を鍛えても、人は殴ったり蹴ったりではモンスターに十分なダメージを与えることはできない。なので、ハンターになるには、武器を扱えることが必須なのだ。

 武器は5つに分類される。剣、杖、弓矢、槍、グローブ。それらの武器を扱うためには素質というものか必要で、S〜Dの五段階で評価される。この素質が高ければ高いほど武器を上手く扱うことができるのだ。

 一般の人は1つの武器を扱える素質が最大でも、Bがあるかないぐらいだが、才能のある人は2つ以上の武器を扱える素質を持ち、かつAランクなんていう人もいる。

 これらの素質とランクを加味して、ハンターにも同じように五段階でランク付けされる。こっちのランク付けはクエストをこなすことなどにより上がってはいくが、現在ではBランクハンターが全体の4割を占めており、それ以上の高ランクハンターは100人にも満たないらしい。


 それで持って俺の素質とハンターランクなのだが…。


 素質は全ての武器がEランク。ハンターランクもEランク。

 とんでもない落ちこぼれハンターなのである。


「さーて、真面目にお仕事させていただきますかっ」


 トトさんから貰ったベーコンとモツを美味しくいただき、腹がいっぱいになったところで俺はクエストカウンターへと向かった。ここはその名の通り様々な依頼、つまりクエストを受諾することのできる建物で、ハンター達が日夜押し寄せる場所である。

 クエストには大きく分けて2種類ある。

 1つはフリークエスト。これはその日発生した緊急の依頼を、クエストを取り仕切るギルドがランクにあったレベルに振り分け、そのレベルに合うハンターなら誰でも受けることのできるクエスト。

 もう1つは指定クエスト。これは依頼者の方からハンターもしくはパーティーを指定して仕事を依頼するクエストである。

 今日はトトさんからの指定クエストがあるからいいが、フリークエストはランクさえ合えば誰でも受けれるという性質上競争が起こりやすい。しかしフリークエストをこなし指定クエストを出してくれるリピーターを増やさなければ、万年Eランクハンターの俺なんかは、到底生活が出来ない。

 俺は多くのハンターでごった返す中をすり抜けながら、1番隅っこのカウンターにたどり着いた。


「おはよう、ナナカさん」


「おはようございます、ノラさん。今日もお元気そうで何よりです」


 俺がいつもの調子で挨拶をすると、ナナカさんもまた、いつも通りクールな無表情で挨拶を返してくれた。

 彼女はナナカ・アルベールさん。カウンターの1番端っこが定位置で、主に収集に関するクエストの手続きを担当している。俺はランクの関係上、収集クエストしか受けることができないため、クエスト受諾の手続きはほとんど彼女にして貰っている。


「今日はどんなクエストがあるかな」


「そうですね…。…ふむ、お肉屋トトんさんから、香草とクムルの実、ヘゴ米を合わせて1kg収集する指定クエストが届いています。他には…残念ながら、ノラさんのランクに合ったフリークエストはございません」


 ナナカさんは台帳をめくりながらそう言った。ふむ…トトさんところの指定クエストひとつか…うむむ…。


「…なにか、入り用でもあるんですか?」


 悩んでいるのが顔に出たのだろう、ナナカさんが俺の顔を覗き込む様にしながら尋ねて来た。

 その仕草に思わずドキリとしてしまう。この人はたまにこういう風に、俺の童貞力を試す様なことをしてくる。やめて欲しい、惚れてしまう。


「…ベトンスライムの粘液が入荷したっていうのを今日のトレーニング中に見たんですよ。それを買いたくて」


「ベトンスライム…、ああ…。ノラさんの夢の武器を作るための素材ですか」


「そうなんだ。だから、売り切れる前になんとか欲しくて…。うーむ、生活費を切り詰めようか…くそ、これならトトさんに貰った肉を取っておけばよかったな」


 俺が腕を組んで、これからの生活を水と野草で過ごそうかと思案し始めれば、ナナカさんは少し何かを考えた後、台帳に何かを書き込んだ。


「それでは、私から指定クエストを依頼させていただきますね。トルネ茸を5本、集めてきてくださりますか?」


「…え? い、いいの? そんな簡単依頼を出して」


 依頼を出すのもロハではできない。依頼を達成したハンターに支払う報酬金の他に、ギルドにもお金を払わなくてはならない。だからキノコを5本取ってくるなんて簡単な依頼は、正直店で買う方が安くつくので、ナナカさんが損をするだけなのだ。


「はい。私も、ノラさんの武器が完成するところが見たいですから」


 それでもナナカさんは微かな笑みを湛えながら、そう返してくれた。


「ありがとうございます。最高級のトルネ茸を取ってきます!」


 俺は頭を下げながら、力強く宣言する。きっと、中央街に並ぶトルネ茸より上質のものを持ち帰ろうと。


「…それじゃあ、そのキノコ料理を今度ご馳走なんて…」


「おいおいっ そうやってハンター個人に入れ込むのはご法度なんじゃないのか? ナナカさんよぉ」


 ナナカさんが何かをごにょごにょと話し始めたところに割り込む様に、厳つい男の声が被さった。

 俺がその声の主を確かめるために後ろを振り向けば、ニヤニヤと笑みを浮かべた大柄の男が立っていた。




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