6
「今から夕食か?早すぎだろ」
料理長の言葉に思わずハッとしたクレアは項垂れ頭を抱えた
「持っていくって言っちゃったもん」
「ならこれでも持ってけ」
動物の形をした色とりどりのクッキーをクレアに渡した。
クレアとビクトリアが大好きな可愛いクッキーは食べると甘かったり酸っぱかったり見た目も味も最高なクッキーだ
「お上品に頼むぞクレアお嬢様」
「むう」
なぜお上品でないのが料理長にバレてしまったのか
うーんとうねりながらヘイリーのいる応接間に向かった
コンコンとしっかりと叩き部屋の中に響くように大きな声を出しながら
「クッキーお持ちしました!」
言いながら扉を開いた
ヘイリーは相変わらず無表情のまま視線を合わせず窓の外を立って見ていた
入口にいたフィンはニコっと微笑みそっとクッキーとお茶が乗ったワゴンをかわりに持ってくれた
「ヘイリー様、クレア様がクッキーを持ってきて下さいました」
ヘイリーは無表情のままチラリと目線をクッキーに移した
それと同時にクレアはクッキーに熱い視線を注いだ
それはもうギラギラと
レイブンはクレアの熱い視線を感じて同席するよう促した
「お茶をいれますね」
「いえ私が!」
「王都から珍しい茶葉を持ってきているので私がいれます、どうぞお座り下さい」
珍しい!と聞いて座らないクレアではない
スッと素早く着席した。それを見たヘイリーは微かに口角を上げてからゆっくりと着席した。
「こちらに読んでもいい本はある?」
ヘイリーは優雅で上品にお茶を飲みながらクレアに話しかけた
クレアは人差し指を顎にあてうーん考えて
「あるにはあります」
「見せて貰えるかな」
「はい!ヘイリー王太子様」
「・・・王太子様?」
ヘイリーは眉間に皺を寄せてからまたすぐに無表情に戻り
「ヘイリーでいい」
レイブンとフィンは目を見開いて顔だけ勢いよくヘイリーに向けた
その視線を気にせずヘイリーは無表情のままだ
「ではヘイリー様!私はクレアとお呼び下さい!」
お友達が出来た勢いよく軽くクレアは宣言をした
「愛称は?」
「え?愛称?特にはありませぬが」
「ならクーでいいね」
「え?お会いしたばかりです!愛称はまだ」
「食べ終わってからでいい、クー本の所へ案内して」
えーと何て事だ
ザラダイン王国では家族や夫婦、婚約者以外は愛称は呼び合わない風習がある
古い風習なので最近では守る者も少ないとセバスチャンは言っていたはずだ
だが幼なじみや親友ならまだしも会ったばかりのヘイリー様が愛称で呼ぶのは如何なものかと
でもまぁいっかっと軽く頷き考えるのを止めた
クレアはクッキーをキレイにお腹に収めてから父に承諾を得て本のある父の書斎へとヘイリーを案内した
書斎に入るとクレアが両手を広げた幅程度の書棚があり、そこに数冊の本があるが全て農業の本だった
クレアは動かないヘイリーを見て思わず
「ヘイリー様読まれるのはありましたか?」
「本はこれだけ?」
「はい、本は高いので買えません」
「そう」
王宮には図書館なるものがあると父に聞いた事を思い出しクレアはヘイリーの期待には全く答えられなかったと悟りしょんぼりとした
クレアは本棚の方へ顔を向けるとボロボロの植物図鑑が目に入った
そうだ!と目を輝かせクレアは植物図鑑を指さした
「ヘイリー様この図鑑読んで下さい」
「読むの?」
「はい!私字が読めないので父はよく読んでくれますが」
「字が読めないか・・・いいよ」
ヘイリーは植物図鑑を手に取りレイブンに敷物をと伝えると後ろに控えたレイブンはさっと豪華な厚手の布を床に置きそこにヘイリーは腰を落とした
隣をぽんぽんと叩いて
「クーここに」
いや、敷物が豪華過ぎて恐れ多い・・・だか座ってみたい
クレアはゆっくりと腰を落とした
座ったのを見計らってレイブンは2人の前にお茶を出した
「レイブン様!ありがとうございます!」
「クーと本を読むから2人は出て行って」
「へへへヘイリー様!!」
「ヘイリー様!?」
「ほ?」
思わず騎士からぬ声をあげたフィンは一呼吸おき優しくヘイリーに問いかける
「未婚の女性と2人きりとは如何なものかと、出来かねます」
「未婚も何も僕もクーも子供だよ、2人きりになると結婚しなければいけないの?」
「いえ、そういう理由では」
「なら問題はないね」
「・・・・・・くっ・・・はい・・・」
いやいやフィン様ダメです。
未婚の女性が異性と2人きりがいい訳ない、そんな事淑女教育の基礎中の基礎だ。
だがこの場にヘイリーに勝てる者は居らず期待していたレイブンは目も合わせず部屋を出ていった
「静かになったね読むよ」
と無表情のままヘイリーは本を開いた
徐々にヤンデレの頭角を現してきます