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ヘイリーは睨んだままティムに向かって静かに言い放った
「二人きりで部屋にいたのか?」
クレアは震えて目を潤ませ
ティムは溜息をついて繋いでいた手を離し、クレアの肩に回して口を開いた
「そうだよ、悪い?」
「手をどけろ、それ以上クーに触れたら...許せなくなる」
「何に?クレア?俺?」
「お前の他に誰がいる?俺はクーに怒ることなどない」
「へーそーなんだ、一緒だね。俺も...大事な人には怒れないよ」
「だからか?クーを巻き込むな」
クレアはヘイリーがクーと呼んだ、それだけで心が舞い上がり、涙が頬を伝い、顔を赤くした
バタバタと走る音が聞こえて、瞬く間に身なりのいい貴族が数人駆け寄ってきた
「もう遅いよ」
ティムがそういうと貴族の中にいた生誕な顔立ちで金糸の髪を揺らした壮年の男性が前に出てきた
「ティモシーどうした?何故クレア嬢と一緒にいる?」
「クレアとは友達なんだ」
ね?っとクレアに首を傾げながら同意を求めたティム
「クレアはヘイリー兄さんに振られて落ち込んでたんだ、でも俺が慰めてた...気持ちはよく分かるから」
「何考えてるんだ!!ヘイリーは振ってなど!」
「エヴァン待て、今は」
ヘイリーは壮年の男性の肩に手を当てて引き止めた
「クッ......ティモシー怒らないから...こちらへこい」
後ろに控えていた貴族達はヒソヒソと静かに話し始め、ヘイリー達の動向を探った
「ヘイリー兄さん!!エヴから手を離せ!!」
ティムはヘイリーを睨みつけた
黙って聞いていたクレアはハッとしてティムとヘイリーの顔を交互に見た、眉尻は下がり目を細めゆっくりとティムに視線を合わせて
「兄さんってえ?もしかしてティムはティモシー王子?」
「その通り!さすがクレアだ」
「ティムだと!?」
「ティモシーお前というやつは!」
ヘイリーは怒りを最高潮を迎え、エヴァンと呼ばれた男性は目を片手覆い天を仰いだ
「そんな!私...知らなくて...申し訳ございません!」
知らなかったとはいえ、王位継承権第二位であり現王の第二子、ティモシー王子を愛称で呼んでいた
クレアはティムから一歩下がり両手で口元を覆い勢いよく頭を下げた、顔は真っ青になっていた
「当然だよ、言ってなかったし」
ティムは人懐っこい笑顔で答えた
はーーっと溜息をついたエヴァン
「クレア嬢部屋まで送ろう、甥っ子達が迷惑をかけたようだ」
「へ?」
まさか!っと目を見開いた、エヴァンとは現王の弟のエヴァン公爵だった、言われてみれば髪質や顔立ちがヘイリーに似て、いなくもなく、肩へ手を回してきたエヴァンをクレアはヘイリーと重ねて今度は顔を真っ赤にした
パンッ
「いて!」
「?」
「触るな!ティモシーもエヴァンも、気安くクーに触るな!」
エヴァンのクレアの肩に回した手をヘイリーがたたき落とす音だった
「俺の気持ちわかってくれた?兄さんなら理解してくれると信じてるよ」
「理解してどうなる?お互い慰め合うのか?相変わらずバカだなティモシーは」
「あっ!」
クレアの手から勢いよく花を奪いティムに投げつけた
「あーあ、クレアの大事な思い出の花なのに」
「ティモシー!!お前がクレアの思い出を語るな!」
「俺は散々聞かされてきたんだ、これくらい我慢できないかな?嫌われるよ?クレアに」
「二人共!いい加減にしろ!!!こんな所で喧嘩するな!」
エヴァンの注意をものともせず、
クレアすぐ前まできて、顔を除き込むヘイリー
「綺麗になったねクー、王宮に来てくれてありがとう、ずっと楽しみにしていたんだ、さぁ部屋に送るよ」
ヘイリーは優しく微笑むとクレアの腰に回しエスコートした
昔と変わらないヘイリーにクレアは嬉しさやら緊張やら、言葉を発せないでいた
「まっまて!ヘイリー!今そんな事したら」
「黙ってくれないか!エヴァンがちゃんとティモシーを手懐けないからだ、そうだろ?」
「兄さんの言う通りだ、またね!クレア!エヴ、俺達も戻ろう」
「エヴァンだ!!愛称で呼ぶな!!全く!何て兄弟だ!」
怒りを露わにしたエヴァンはバタバタと音をたてながら貴族達の間を割って去っていき、追いかけるようにティムも貴族を引き連れて去って行った
ヘイリーとクレアは久しぶりに二人で並んで歩いた
「寂しい思いをしてた?」
「...はい...寂しかったです」
クレアは素直に自分の気持ちを伝えた
軽口が返ってくると予想していたヘイリーは驚き、まんべんの笑顔をみせた
「クー、俺に振られたと思ってたの?」
「分かっています。お話し出来ただけで身に余ります」
「何を分かってるって?」
「それは...」
まさか侍女に手を出しているヘイリーが、クレアには手を出しに来なかった、なんて言えないと黙ってしまった
「マッケンジー先生から聞いた?」
「?何故マッケンジー先生が出てくるのですか?」
「聞いてないか」
クレアの部屋の前まできた、ヘイリーが扉を開けると中までエスコートし、中に入ったままヘイリーは扉を閉めた
「ヘイリー様?同じ部屋にいるなど!いけません!」
言葉を遮るようにヘイリーはクレアの両手を取り優しく握った
「クー近いうちに迎えにくるから待ってて」
「近いうち、ですか?」
「そう約束、忘れないで?」
「わす...」
( 嘘だ、ヘイリー様は私の事忘れたのに、また縛られて動けなくなる。これが侍女に手を出すという事なのね、私が言わなくて誰が言うの、クレア覚悟を決めるのよ! )
「?」
「ヘイリー様、侍女にお手を出すのはおやめ下さい」
「は?」
「約束は、心でお決めになった、ただ一人の方とするべきです!厚かましいとは存じますが、このままではヘイリー様は臣下から反感をかう恐れがあります!ですからどうか!」
「全く、誰から聞いたか知らないけど、クーの口から聞くと本当に落ち込むよ」
ハーッと溜息をついたヘイリーは機嫌を悪くした
やっぱり余計な申し出だったとクレアは顔を青くした
「私は、どんな方だろうとヘイリー様がお決めになった方ならば、心よりお祝い申し上げます」
「クー、その口調は止めてくれ」
「すみません...ですが...」
「お祝いか、それにしても王宮はクーにとってよくない、今すぐ連れ出したいよ」
「......ッツ...」
( 王宮に居るのも嫌なのね...昔の思い出を引きずってヘイリー様に迷惑をかけるなんて... )
「申し出...ございません、二度と...ヘイリー様にご迷惑はかけません!」
クレアは必死に涙を堪えた
ヘイリーはクレアの涙に気が付き、言葉を間違えたと悟った
「違うクー、迷惑なんか掛けていない!クーは俺の事好き?」
「へ?あっえっ?」
クレアは堪えていた涙は驚きと共に頬を流れてしまった
ヘイリーの大きい手がクレアの顔に近づき、長い指で涙の跡を拭った
「まだ聞いてなかった」
愛おしいそうに微笑み、クレアの頬を撫でた
「そっそれは...ティム様にお聞き下さい!!」
目をつむり耳まで真っ赤にしてヘイリーから顔を背けた、クレアにとって精一杯の返事だ
「なんで...ティモシーが出てくるの?なんで...」
繋いでいた片方の手を強く握った
「いたい!ヘイリー様?」
「ごっこめん!」
握っていた手と頬を撫でていた手、両手を勢いよく離しクレアから離れ、ヘイリーは顔をしかめた
さっきまで和やかな空気はなくなり、ヘイリーの機嫌はとても悪いように感じた、どこで失敗したのか
「いつになったらクーは...」
クレア届かない呟きを放ったヘイリーは機嫌を悪くしままクレアに向き合った
「今少しゴタゴタしてて、すぐに片ずくから、それまではなるべく一人にならないで、それと仕事を辞めてマッケンジー先生の所に行ってくれ」
「仕事は辞めません、皆さんによくして頂いてるのに逃げ出したくありません」
「だめだ、すぐにサミュエルソン家に行くんだ」
「嫌です!何故辞めないといけないのです?もう出ていって下さい!」
「頼むからいうことを聞いてくれ!」
ガチャ
「どうぞお戻り下さい」
「クー......一人にならない、これだけは守ってくれ」
ヘイリーは帰って行った
クレアは急な展開に頭が回らず
ヘイリーの声を思い出して悶えて泣いた
疲れきったクレアはゆっくりと時間をかけてお風呂に入り就寝した




