何かにとらわれている
今日は午前中は川遊びをした。リュウのおかげで暑さ何て気にならなくなったのだよ。
「お母さん大丈夫か」
「ありがとうなケンタ。午後は昼寝をしているみたいだけれど。と言うより本人の能力を超えているんだよ。俺が起きる頃には洗濯も掃除も終わっているし。朝ご飯はサケの塩焼きに卵焼きだった」
「それって旅館の朝食じゃないかよ。俺なんて食パン一枚でハムもなしだぞ」
「夕食も完璧なんだよ。魚ばかりだけれど。あんまり続くのでたまには揚げ物が食べたいと言ったら、作ると言うから、唐揚げかと思って期待したのだけれどアジフライだった」
「塩焼き用に買っていたのだろうな」
「ところが付け合わせのキャベツの千切りが異常に細いんだよ。あんな能力はないはずだ」
「もう完全に憑代になっているな」
「リュウそれどういう意味?」
昼に帰ったらダイニングテーブルもテレビもソファーもなくなっていた。
「母ちゃん、どうしたんだよ」
「処分したのよ」
「テレビも捨てたのかよ」
「見たくないから押し入れにしまったの」
「どこでご飯をたべるんだよ」
「ちゃぶ台買ったから」
しかも着物を着ているし。もう俺は昭和にタイムスリップしたのかな。それも限りなく大正に近いような。
「あーお腹すいた。今日のお昼はなーに」
「おそうめんだよ。これからゆがくから」
ゴクリ。かなりトッピングがおいしそう。錦糸卵に細切りキュウリ、豚肉の煮しめにプチトマトか。
「だけど何でエアコンをつけないのだよ。暑いじゃないか。それに何でその古いシンクで調理しているの。それにその変な着物は何なのだよ」
住みながらリフォームをしようと思ったのだろうな、古いシンクが残っているのだよ。
「ここの方が落ち着くのだもの。これは浴衣よ夏は浴衣でしょ」
「去年の夏まつりの時の赤い蝶々の帯はどうしたんだよ」
「あんなの若い人がしめるものよ。これは貝ノ口という結び方なのよ」
妙に似合っているので何とも言えない。
「もうすぐ一雨振るから」
本当に雨は降った。「ほらね」と言って振り向いた母ちゃんは死ぬほどきれいだった。