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乙女の園の格闘王  作者: 海空大地
新学期の動乱
7/10

7話 鬼刀院家の秘密

四月五日の朝が来た。

昨日の夜は大変だった。

いや、妖魔との戦いも大変だったが、その後のお風呂が……。

結局皆でお風呂に入ったのだか、誰が光の背中を流すかで揉める揉める。

結局じゃんけんで勝った楓がその権利を得たのだ。

紗耶香とかぐやが横で明日こそ……とか言ってた様な気がするがきっと気のせいだよね、うん。

『おはようございます、光様。』

既に起きていた紗耶香が声を掛けてきた。

『おはよう、紗耶香。』

紗耶香の朝は早い。毎朝五時には起きて朝練をしている。

今は既に朝練を終え、シャワーを浴びてきた所だった。

昨日の夜は初めて息吹を使ったせいで、あんなに疲れてそうだったのに……。

既にいつもの紗耶香だった。

私が初めて息吹を使った時は寝込んだのに……、普段から鍛えてるとこんなに違うのね。

何度も使ってきたおかげで随分慣れてきたが、息吹を使うとかなり体力を使う。

鍛えなきゃ……。

『ねぇ、紗耶香。』

『はい、何でしょう?』

『明日から私も朝練に付き合わせて貰っても良いかな?』

『?!勿論です!是非ともお願いします。』

『それじゃ、宜しくね。』

『はい。』

紗耶香はやたら嬉しそうだった。

そんなに嬉しい事なのかな?まぁ、一人よりは皆でやる方が良いよね。

朝の支度を済ませた光達は妙子と楓を誘って食堂へ向かう。

テーブルにつく。

皆がサンドイッチやトーストを食べてるなかで、がっつりしょうが焼き定食を食べている妙子が口を開く。

『なんで、かぐやが一緒に食べてんのさ?』

『あら、親友と一緒に食事するのが何かおかしくて?』

光の隣でフレンチトーストを食べながら、かぐやが答える。

『いや、おかしくはないけどさ、今までかぐやと食事する事なんてなかったからさ。』

『今までは光が居なかったのですから当然ですわ。』

『当然なんだ……。』

『かぐや様は光様以外に友人がおりませんから、食事は基本的に私とだけ食べておられました。』

『望?!余計な事は言わなく宜しくてよ。』

光の口から出た一言に律儀に説明し始める望とそれに慌てるかぐや。

光とかぐやの目が合う。

恥ずかしそうに目をそらすかぐや。

『これからは一緒に食べましょう。親しい人と一緒に食べる方が、より美味しく感じるもの。』

『!えぇ。勿論ですわ。』

目を輝かせ答えるかぐや。親しい人と言われた事が嬉しかった。

『そういやさ、今日の部活はどうする?』

妙子が口にする。

『ふむ、普通なら毎日やるべきだろうが、昨日の夜の事も有るからな、光様如何されますか?』

『そうですね、疲れてる人は休んで良いと思うけど、私は試したいことが有るから道場に行きますよ。』

『ならば、私も同行します。』

『私も~~~、行きます~~~。』

光の発言に紗耶香、楓が続く。

『勿論あたしも行くよ。昨日何にもしてないしね。』

妙子も同意した事で今日の部活は決まった。

『あの、その部活なんですけれども、私達も見学しても宜しくて?』

かぐやがためらいがちに尋ねてきた。

『えぇ、構わないわよ。良いですよね?』

光が答えて周りの反応を伺う。

『良いけどさ、あたしが誘っても来た事無かったのに、どしたの?やっぱ光ちゃんと離れたくない?』

妙子が冷やかしながら問い返す。

『?!そう言うことでは、有りませんわ!ただ、泉流に興味が有りますの。あ、でも光の側に居たいと言うのも多少は……』

そう言って赤くなっていくかぐや。

なんだか可愛い。

『泉流に興味が有るの?』

光が問う。

『え、えぇ、元々私達は泉流について調べていたのです。先日その創始者の泉 光一郎さんに合う事になっていたのですが、亡くなられたものですから。』

かぐやの発言に残りの四人が顔を見合せる。

合う事になってた?そんな約束してたかな?確か……機動隊が来るっていうのは聞いてたけど……。

ん?梓は何て言ってたかな?確か……。

『お父さん、キドーインの人が会いたいっ言ってたよ。』

じゃなかったかな?ん?キドーイン?キトーイン……鬼刀院!

『あ、ああ、あぁ~~!』

光が声を上げる。

『約束……してた!梓がキドーインの人が来るって、言ってたわ。てっきり機動隊の人かと思ってたけど……。』

『えっと、どういう事ですの?』

かぐやが首を傾げながら聞いて来る。

『え、だから聞き間違えてたんだけど……。』

『いえ、そうではなくて……。』

光の答えにかぐやが困っている。

??どうしたなかな?

『何故、光様がその事を知ってらしたのかをお尋ねしたのです。』

望が答えた。

あ、そうか。この二人は光一郎と私の事知らないんだった。

『あの、実は……。』

『光様、此処で話されるより、道場に行きませんか?』

光が話し出そうとした時に紗耶香が提案してきた。

そっか、此処は人が多いもんね。なんだか此方の事にやたら聞き耳立ててる人も居るし……。

『そうね、道場に行きましょう。』

光の発言に皆が同意した。



(ワタリ) 翔子(ショウコ)は武術家である。

十一年前、第一回世界格闘技大会で光一郎の試合を見て以来、彼の熱烈なファンで有り、帰国後の光一郎に弟子入りしている。

それ以降ひた向きに武術の修練に励み、今や光一郎の一番弟子として名を馳せていた。

更に数日前に行われた第十一回世界格闘技大会で優勝し、二代目の格闘王として世界中に知れ渡っていた。

そして翔子のもう一つの顔が桜花女学院の教師で有り、武術部の顧問でもある。

去年桜花女学院に新任として赴任してきた時に、妙子に拝み倒されたのだ。

もっとも、顧問と言っても名ばかりで学院内の道場には殆んど顔を出していない。泉流の道場で門下生に稽古をつけているからだ。

そんな彼女が大会の為に学院を休んで、約一月振りに学院に帰って来ていた。

翔子はサイドボブにした髪を風に揺らしながら、ゆっくりと学院内を歩いている。

左腕と額に巻いた包帯が痛々しい。先日の世界格闘技大会での怪我のせいだ。

時折すれ違う生徒達が大会の優勝を祝ってくれている。

彼女達に笑顔で答えながら道場を目指す。

笑顔を見せてはいたが、生徒達と離れれば直ぐに無表情になる。

彼女は思う。

私は……何をしてるのだろう?

新学期が始まる前に一度は顔を出そうと思って来たけど……。

先日の格闘技大会で優勝し、表彰式が終わった直後、師である光一郎に報告の為に電話した時に、光一郎の死を聞かされた。

その後の予定を全てキャンセルして帰国したが、翔子が帰ってきた時は既に葬儀も終盤だった。

その後遺族や他の弟子達と後処理に終われ、今日になって漸く時間が取れたのだ。

光一郎の遺品の中に、自分宛の荷物が有った。

それは、光一郎が用意した優勝のお祝いだった。

光一郎が自分の優勝を知っていた事だけが、唯一の救いだった。

今も大事に身に付けている。

そんな時に学院に来ていた。春休みの内に一度は顔を出すと約束していたからだが、正直に言えばそんな場合ではない。

泉流の道場の事も有る。今後は光一郎の代わりにならなければならない。

もしかしたら、学院も辞める事になるかもしれない。

その事を妙子達に伝えなければならなかった。

目の前に道場が見えてきた。

入り口に生徒達が集まり中を覗いている。

?珍しい事も有るわね?普段はこんな事無いのに。

あ、そう言えば柳さんは生徒達に人気が有った。彼女が何かやってるのかもしれない。

生徒達の後ろから中を覗く。

中では光と紗耶香が対戦していた。



少し時間を遡る。

光達は朝食後に道場を訪れている。

面子は光、妙子、紗耶香、楓の武術部四人とかぐや、望の計六人だ。

道場の戸や窓を全て締め切り、中央部に集まって座っている。

光が皆を見回す。皆、真剣に光の言葉を待っている。

『かぐや、望。信じられないかも知れないけど、私は泉 光一郎の生まれ変わりなんです。』

『『へ?』』

かぐやと望がポカーンと口を開けて固まる。

う~ん、やっぱり信じられないよね?

『あの、つまり、泉 光一郎は光の前世だと言うことですの?』

かぐやがためらいがちに聞く。

『えぇ、そうよ。光一郎が他界した一日の午後四時頃に、私は光一郎の記憶に目覚めました。泉流を使える様になったのはそれからです。』

『?!それまでは泉流をやっていなかったのですか?』

望が驚きながら聞いてきた。

『えぇ、、それどころか、武術自体それまでは全くやってなかったの。』

『そんな事って、有るんですの……?』

いや、有るかもしれない。それなら、鬼刀院家の情報網に光の事が引っ掛からなかった事も理由がつく。

かぐやがそんな事を考えていると、

『やっぱり、信じられないよね?』

光が悲しそうにかぐやを見ながら話しかける。

『?!そ、そんな事有りませんわ!信じます。』

『私は元より信じております。』

『望?!』

『何でしょう?』

『貴女も驚いていたでは有りませんの!』

『驚いていただけで、疑ってはおりません。』

『わ、私も疑っては居ませんわ!』

『では、問題は無いのではないでしょうか?』

しれっと答える望に、問い詰めるかぐや。

仲が良いよね、この二人。

『……信じてくれるの?』

光がおずおずと確認する。

『勿論ですわ。光の言う事ですもの。』

そう言ってにっこりと笑うかぐや。

良かった……。信じてくれた。

『ありがとう、二人とも。』

うっすらと浮かんでいた涙を指で拭う光。

『光さん~~~、良かったですね~~~。』

楓が言いながら抱き付いて来た。

楓もまた涙ぐんでいる。

『うん、良かった。』

楓の頭を撫でる光。

ふと、気になった事を聞いてみる。

『そう言えば、かぐや。』

『はい、なんですの?』

『光一郎と連絡取りたかったのって、例の側近になれって事?』

『あぁ、そう言う訳では有りませんの。勿論協力を受けられれば、それに越した事は有りませんが……。』

『鬼刀院家では、泉流が鬼刀院流に似ていると言う話が出ているのです。』

『鬼刀院流の武術は代々当主の家系とその側近達にのみ、伝えられてますの。』

『泉 光一郎が何故、鬼刀院流に似た武術が使えるのか?もしかしたら、鬼刀院家と何かしら関係が有るのでは?と当主様は考えられた様です。』

かぐやと望が交互に説明始める。

何故?と言われても、正直困る。光一郎は世界中を旅して泉流を編み出しているのだから……。

気を使う所は似てるけど、鬼刀院流だって良くは知らないし。

光はその事を説明する。

『そうなんですの……。』

かぐやははっきりとした答えが分からず黙ってしまった。

『あ、それと、もしも家系的な事を調べているなら、何も分からないと思うわ。』

光が思い出した様に付け足す。

『何故ですの?』

『確かに泉家の家系を調べても、何も分かりませんでした。』

あ、もう調べてたんだ……。

『光一郎は泉家の養子です。それも養子になった五歳位迄の事は何も覚えていないの。』

『?!本当ですの?』

光の発言に予想外に飛び付くかぐや。

かぐやと望が顔を見合わせる。

『……つまり、三十年程前に五歳位の身元不明の記憶の無い子を、泉家は引き取ったのですね?』

かぐやが神妙な趣で確認する。

『え、えぇ、そうよ。』

光の肯定に考え込むかぐや。

『かぐや様、もうお話しした方が良いのではないでしょうか?』

望がかぐやに向き直り提案する。

『そう、ですわね……。光、私には兄が居ますの。』

『お兄さん?』

『えぇ、と、言っても私は有った事も有りませんが。生きていれば三十三歳になるはずです。』

『光一郎と同い年……。』

光が呟く。

『その方は五歳で気を使いこなし、邪気を祓うことが出来たと聞きます。』

『五歳で!』

望の発言に紗耶香が驚く。

『はい。伝承に有る、初代当主の生まれ変わりではないかと期待されていたそうですが、その一週間後に行方不明となったそうです。』

『行方不明……。』

『ちょっと待って!伝承って何さ?』

考え込む光をよそに、妙子が割って入る。

『そうですわね……。お教えしておきましょう。鬼刀院家の事についてはどの位ご存じですの?』

少し躊躇って、かぐやが光に尋ねる。

『え、と。この辺りの地主で山頂に有る鬼祭り神社の神主ですよね。後は鬼刀院流の武術は気を使う事と、邪気を祓って妖魔を倒してるって事位かな。』

光が皆を見渡しながら答える。

楓、紗耶香、妙子がウンウンと頷いている。

『そうですの。……では、お話しします。』

光の返答を聴いて、真面目な表情でかぐやが話し出す。


その昔、この辺り一帯は鬼の一族が治める妖怪の里だった。

だが、やがて少しずつ人が訪れる様になり人と妖怪の里となった。

初めは上手く共存出来ていた、鬼達は暴れる妖怪や妖魔、盗賊達から人々を守り、人は鬼達に人の世の技術を教えて暮らしていた。

十数も経つ頃には、鬼と人の種族を越えた結婚も行われるようになる。その一組が、鬼の党首で有り、後の鬼刀院家の初代当主だった。

やがて、子も生まれ平和な世が続くと思われた頃、悪鬼が現れた。邪気を取り込み強大な力を得た悪鬼は、人も鬼も関係無く襲い食らった。

幾百人の死者を出し、里の大半が燃え落ちる大戦となった。

鬼達も死力を尽くして戦ったが、悪鬼には遠く及ばず被害は広がるばかりだった。

最終的に当主とその仲間三人が、命懸けで悪鬼を封印する事に成功する。

当主も仲間の二人もその時の戦いで命を落としたが、最後に残った一人が予言を残した。

ーーー我らが封じし悪鬼、いつの世か甦らん。

されど、かの時我らの血を引く者から我らも又現れん。

その者蘇りし時こそ、悪鬼を倒す最大の好機也ーーー

それ以降、当主の子を神主として封印を守り、悪鬼の為に命を落とした人と鬼の為に鬼祭り神社が建立された。


『こうして、鬼刀院家は神社の封印を守り、いつの日か悪鬼を倒す為に力をつけてますの。』

かぐやが説明を終える。

皆、一様に黙ってしまった。

楓は人差し指を顎に当て、何か考え込んでいる。

『つまり、光一郎がその初代当主の生まれ変わりかもしれないって事?』

光が問う。

『えぇ、その可能性が有るので、連絡をとりたかったのですの。』

『先程の光様の発言で、益々可能性が高まったのですが、もしもそうなら、我々は悪鬼を倒す最大の好機を逃してしまったかも知れません。』

『……そう、ですわね。当主が蘇った時こそ好機だと言ってますし……。』

望が珍しく眉を寄せながら発言し、かぐやが表情を曇らせる。

おかしな話だと光は思う。

光一郎が鬼刀院の一族の可能性は確かに有る。

だが、光一郎は一度も妖魔や邪気を見た事がない。

五歳で邪気を祓った子が、その後邪気に気付かない事など有るのだろうか?

『かぐや様、そろそろお時間です。』

光が思案していると望が時計を見てかぐやに話し掛ける。

『あぁ、もうそんな時間ですの?』

かぐやも時計を見て、光に向き直る。

『光、私達はこれから神社に戻ります。昨日の妖魔の件の報告が有りますの。……それと、光一郎さんの事と……。』

かぐやが途中で言い淀む。

『私の事ね。構わないわよ。』

光が光一郎の生まれ変わりだと言う事も、話して良いか?そう聞きたかったであろうかぐやの想いを汲み取り答える。

『光様、良いのですか?』

紗耶香が割って入る。

光と光一郎の事が鬼刀院家に伝われば、今後も妖魔がらみの事に関わる事になる。紗耶香はその事を心配していた。

『えぇ、鬼刀院家が私の事を信じるかどうかは分からないけど、妖魔の存在を知り妖魔を倒す力も有るのに、かぐや達だけに押し付ける事は出来ないわ。』

きっぱりと答える光。

『出過ぎた事を言いました。それでこそ光様です。及ばすながら、私もお供します。』

紗耶香ご頭を下げる。が、光の答えは予想は出来ていた。

それでも確認して起きたかったのだ。

自分の主の想いを。

『そう言う事だから、今後も宜しくね。』

『光……。此方こそ宜しくお願いしますわ。』

目を潤ませて光の手を取るかぐや。

隣で望も深々と頭を下げる。

『では、行ってきますわ。』

『えぇ、いってらっしゃい』

皆に見送られて出ていこうとするかぐや。

入り口の戸を開けたところで固まっている。

何だろ?

気になって除き混む光。

そこには強大な熊のぬいぐるみが立っていた。

『えっ、ひょっとして……、サンタ、君?』

光が声を絞り出す。

『正解、さすが光お姉ちゃん。中に入れてくれる?』

片手を挙げて答えるサンタ君。

まだ何か言いたげなかぐやを望が引っ張って行き、代わりにサンタ君が中に入ってくる。

『あ~~~っ!サンタ君~~~~っ!』

走ってきた楓がサンタ君に飛び付く。

『サンタ君~~~っ、サンタ君~~~っ!』

抱き付いたまま、泣き出す楓。

うん、サンタ君だ。確かにサンタ君なんだけど……。

『なんかさ、こんなに大きかったっけ?』

妙子が呟く。

そうなのだ。以前のサンタ君は立っていても五~六十センチ位だったが、今目の前にいるサンタ君は一メートルは有る……。

『よく気付いたね。実はこのサンタ君は……サンタ君バージョン2なんだ!』

楓に解放されたサンタ君が胸を張って宣言する。

『なんだって~っ!』

あ、妙子さん、ノリ良いな。

『それで、以前と大きさ以外は何か違うのか?』

ノリ良く驚く妙子を余所に、紗耶香が問う。

『あ、うん。戦闘用なんだ、これ。』

え……、戦闘用……?

何やら不穏な言葉が聞こえた様な……。

『この間、強盗が居ただろ?それに妖魔何てのも出てきたし、作りかけてた戦闘用ロボをサンタ君に変えてみたんだ。』

『……とても、戦える様には見えないけど……。』

光が呟く。

『フッフッフッ。見掛けに騙されないで欲しいな。一見只のぬいぐるみだけど、中はギミック満載なんだよ。』

『ほぇ~~~。』

感心したのか楓がサンタ君をあちこちつついている。

『まぁ、ギミック多すぎて、百キロ越えたけど……。』

『百キロ?!』

楓を除く皆が驚く。

『あ、大丈夫だよ。重くなりすぎたから、ついでに試作品の重力制御装置も組み込んでるから。』

『重力制御装置っ?!』

なんか更に凄い言葉が出てきた。

『だから、サンタ君の体重は一キロ位になってるよ。』

『……光様、私はそろそろ話に付いていけないのですが……。』

紗耶香が呆然としながら光に話し掛ける。

そうだよね、私もだよ。

『大丈夫……。私も理解出来ないから……。』

サンタ君の話しはまだ続く。

『後はね、え~と、妙子お姉ちゃんちょっと良いかな?』

同じく、呆然としていた妙子にサンタ君が耳打ちする。

『え~っ!そんな事すんの?』

何やら妙子が声を上げる、何か頼まれた様だ。

『まぁ、良いけどさ……。』

頭を掻きながら、妙子が此方に向き直り両手を広げて立つ。

後ろにサンタ君が並ぶ。

妙子が大きく息を吸い込んだ。

『サンタ君っ、アーマードセット!』

叫ぶ妙子。やけくその様にも見える。

サンタ君の目が赤く光り、胴体と頭部、四肢が別れて妙子目掛けて飛んでいく。

一瞬、眩い光が辺りを照らす。

光が消えた時、そこにはサンタ君を身に纏った妙子が居た。

『……えっと、コスプレ?』

光が呟く。

妙子の格好はぬいぐるみの生地のビキニと手甲、足甲、背中にリュックの様な物、頭部にはサンタ君の顔のついたヘルメットの様な物を着けていた。

『?!違うよっ!サンタ君アーマードモードだよ。』

紅葉の声が響く。

『あれっ?!あたしの制服は?』

妙子が自分の格好を見て、疑問を口にする。

『あ、制服なら背中のバックパックに入ってるよ。』

『それで、その格好は何の意味が有るんだ?』

紗耶香が最もな質問をした。

『良い質問だね。全身の筋力アップは勿論、サンタ君の各種ギミックも使えるし、重力制御装置で少しなら空も飛べるよ。』

さらりと説明する紅葉。

今、とんでもない事言わなかった?

『え?飛べるの、これ?』

妙子が目を輝かせて体のあちこちを弄る。

すると、ふわりと妙子が宙に浮く。

『おぉ!浮いた浮いた!』

楽しそうな妙子が皆の目の前をふわふわと横切っていく。

『……飛んでる……。』

『ほぇ~~~、妙子さん~~~、凄いです~~~。』

『妙っ、大丈夫なのか?』

妙子を見ながら、皆が声を出す。

妙子が着地する。

そして、素早く道場の中を縦横無尽に駆け巡る。

『速い!』

紗耶香が驚嘆の声を上げる。

妙子が皆の前で停止する。

『いや~、これ気に入っちゃったよ!体が軽い軽い。』

満面の笑顔の妙子が興奮しながら口にする。

『これなら妙子お姉ちゃんも妖魔の相手出来るんじゃない?』

紅葉の声がした。

『うん、これならいけるよ!』

バシッと手を打つ妙子。

そうか、妙子さん昨日、自分が戦えなかったの気にしてたんだ。

ピーッ、ピーッ、ピーッ。

妙子の方からアラームの様な音がした。

『あ、バッテリー残り少なくなっちゃった。モード解除するね。』

紅葉が宣言すると同時に再び光に包まれる妙子。

光が収まると、そこには元に戻ったサンタ君と、素っ裸の妙子が居た。妙子の回りに制服と下着が散乱している。

『?!わーーーっ、見るなーーーっ!』

慌てて体を隠す妙子。

『あれっ?』

首を傾げるサンタ君。

『このっ、エロぐるみ~~っ!』

左手で胸を隠してサンタ君を殴り飛ばす妙子。

……妙子さん、下が丸見えです……。



『まぁ、こんな感じで後はギミックを使えれば、OKじゃないかな?』

何事も無かったように話し出すサンタ君。

横には服を着てブスッとした妙子が座っている。

『凄いもの作ったわね、紅葉君。』

『へへっ、ありがとう光お姉ちゃん。元々は趣味で作ってたんだけど、妖魔の事とか有ったからね。サンタ君に組み込んだんだ。』

『あれだけの動きなら妖魔にも通用するだろう。だが、攻撃はどうなんだ?』

紗耶香が気になっていた事を聞く。

『うん、妖魔にも電撃は効くんだよね。だから。』

サンタ君が右手を上げる。

腕の一部が開き、銀色の棒が二本出てくる。

バチッ!

棒の間に電気が走る。

『それで、こっちも。』

今度は左手だ、同じ様に一部が開き、一本の筒が出てくる。

ボッ!

筒の先端から勢い良く炎が出てくる。

『これで、何とかなるんじゃない?』

『凄いな……。』

紗耶香が感心している。

『と、そろそろ充電させてもらうね。』

そう言ってコンセントの所まで歩いていくサンタ君。

どうやらしっぽの所にプラグ有る様だ。

器用にプラグを引っ張りだしコンセントに差すとその場に座り込んで動かなくなった。

妙子はまだブチブチ言っているが、皆気にしない事にしたようだ。

『それじゃ、私も試したいことやって見ようかな?』

光が立ち上がり、少し離れる。

構えをとり、気を練る。

キィーーーーーーン。

いつもの息吹の音が響く。

更に練り込む。

キィーーーーーーン、キィーーーーーーン。

もっと、強く!

キィーーーーーーン、キィーーーーーーン、キィーーーーーーン。

道場に響き渡る息吹の音。

『光様?』

いつもと違う様子に紗耶香が声を出す。

やがて、光が崩れ落ちた。

『光様!』

『光さん~~~。』

紗耶香と楓が駆け寄る。

肩で息をしながら大丈夫と声を返す光。

汗が凄い。

ダメだ、昨日みたいにならない……。

確か昨日は鈴の音の様な音がした。その後、一気に力が沸いたのだ。

なんだったのかな?あれ。

再現してみようと思っていたが、どうやら簡単にはいかない様だ。

『光様、今のは?』

紗耶香が聞いてきた。

光は昨日の妖魔との戦いの最中に起こった事を説明した。

『そんな事が……。』

『えぇ、試して見ようと思ったんだけど、上手くいかなかったわ。』

説明しているうちに、息も整ってきた。

横で心配そうにしている楓に微笑みかける。

楓もパァッと微笑み返してきた。

『では、今度は私にお付き合いして頂けますか?』

紗耶香がそう言って立ち上がる。

手には竹刀を持っている。

気を練る。

キィーーーン、息吹の音が響いた。

初めて見る紗耶香の息吹。

光は立ち上がり、紗耶香の前に進み出る。

『良いわよ、貴女の力見せて貰うわ。』

再び気を練る光。

キィーーーーーーン。

師弟の初の手合わせが始まった。

先に動いたのは紗耶香だ。

一瞬で間合いを詰め、突きの連打を繰り出す。

その一突き一突きを僅かな動きでかわす光。

光が間合いを更に詰める。

『くっ!』

慌てて後ろに飛び退く紗耶香。

だが、光は更に間合いを詰める。

光の左の掌底が紗耶香に迫る。

竹刀の根本でかろうじて受け止める紗耶香。

竹刀を持つ手に痺れが走る。

打たれた衝撃で数歩分間合いが広がる。

光が再び間合いを詰めようとするのが見えた。

咄嗟に打って出る。

袈裟斬りに繰り出した竹刀が光を襲う。

飛び出してきた光は止まれない。

当たる!紗耶香がそう思った瞬間、光が消えた。

戸惑う紗耶香、だが直ぐ様に真後ろを向き竹刀を振るう。

そこには掌底を出そうとしていた光が居た。

驚く光、咄嗟に掌底で竹刀を弾く。

紗耶香の手から竹刀が弾き飛ばされた。

『完敗です、光様……。』

紗耶香が頭を下げる。

『いえ、今のは危なかったわ。良く後ろに居る事に気づいたわね。』

『はっ、先日のかぐやとの一戦を見ておりましたので。』

あぁ、そうか。かぐやの時も後ろに回ったんだった。

『それでも反応出来たのは凄いわよ。自慢の弟子ね。』

にっこり笑う光。

『はっ、はいっ!ありがとうございます。』

紗耶香は感極まっている。

うん、実はまだ何も教えて無いんだけどね。

パチパチパチパチ……、楓が拍手していた。

更に拍手が増える。それも凄く多い。

音のする入り口を見る。

人だかりが出来ていた。

『あ~~っ!いつの間に!』

妙子も今気付いたようだ。

閉めていた筈の入り口は今は完全に開け放たれている。

『ははははは……。』

取り敢えず笑ってみる光。若干乾いた笑いだ。

『キャーーーーッ!』

それでも黄色い歓声が上がっている。

『私に微笑んでくれたわ!』

『いえ、私によ。』

何やら言い争いも聞こえてきた。

『光ちゃん……、その内ファンクラブとか出来るんじゃない?』

妙子は相変わらず楽しそうだ。

『何?そんなものが有るのか?!』

紗耶香が食い付く。

何故食い付くのかな、この子は……。

くいくい、と服を引っ張られる。

楓だった。

『ファンクラブ~~~、有るんですか~~~?』

楓までっ?!

『聞きました?ファンクラブが有るんですって。』

『まぁ、どこで入れるのでしょう?』

『私、直ぐにでも入会するわ。』

いや、無いから!

『相変わらずモテモテだね~~~。』

ニヤニヤ笑う妙子。

ジロリと睨む光。

『誰のせいだと思ってるんですか?』

そっぽを向き、口笛を吹いて誤魔化す妙子。

そんな時に入り口の人混みが二つに割れる。

中から一人の女性が歩み出る。

渡 翔子だ。

『貴女達、何をしてるの?』

光と翔子、初めての遭遇だった。


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