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乙女の園の格闘王  作者: 海空大地
春休みの騒乱
4/10

4話 動き出す事態

四月四日の朝が来た。

光はベッドの中でゆっくりと目を覚ました。

……狭い。

楓と二人で眠っていた筈なのに、今は紗耶香も隣に寝ていた。

楓と一緒に寝ていたら紗耶香が拗ねてしまったのだ。

仕方なく三人で寝たのだが……。

二人の様子を見る。幸せそうに眠っていた。それぞれが光の腕を抱きしめている。

……動けないよ。

困っているとドアを叩く音がした。

ドアが開く。

『沙耶~、光ちゃん~、楓ちゃん知らない?』

妙子だ。居なくなった楓を探しに来たようだ。

目が合う。

ニヤ~、と笑う妙子。

『光ちゃん~、モテモテだね~。あたし何だか寂しいな~。』

『妙子先輩……。』

『ん……、光様?……おはようございます。』

紗耶香が目を覚ました。光の腕は離さない。

『……おはよう、紗耶香。そろそろ起き上がりたいのだけど……。』

『……そうですか?では。』

ようやく開放される光。

『なんだ、妙か。おはよう。』

妙子に気付いた紗耶香が挨拶する。光は開いた手で楓に抱かれてる腕を引き抜いている。

『おはよう、沙耶。なんだ、はないでしょ。』

『そうか?まぁ、気にするな。』

『ん~、まぁ、いいけどね。それより沙耶と光ちゃん随分仲良くなったね~。』

『師弟だからな。当然だ。』

そうかな?と思いながら光はベッドから抜け出す。

『ん~~~、はふ~~~、おはよう~~~、ございます~~~。』

楓も起きたようだ。

『おはよう、楓。そろそろ朝御飯に行きましょうか?』

『はい~~~、そうしましょう~~~。』

身支度を整えるために妙子と楓は部屋へ戻る。

食堂で合流する事にした。



程なくして食堂で同じテーブルに付く四人。

光と紗耶香はフレンチトースト、楓はサンドイッチセットだ。どうやら気に入った様だ。

妙子はカレーライスを食べていた。……大盛りを……。

『そうだ、今日は部活どうする?やる?』

妙子が食べながら話し出す。

『そうだな、私としては少しでも教えを請いたい所だが……。

如何致しますか?』

紗耶香が答え、光に問いかける。

『そうですね……、10時には皆さんに集まって欲しかったし、其れまでで良ければ。』

『オッケー、決まりだね。』

話しが纏まった。そこへ……。

『あら、紗耶香さんではありませんか。お久し振りですわね。』

二人の人物が表れる。

一人はドレスを着ていた。もう一人は後ろに控える様に立っている。

うわ、縦巻きロールだ、初めて見た……。

『かぐや、か。一週間振りだな。』

『そろそろ、決心がつきまして?私はいつでも歓迎しますわよ。』

『まだ、諦めていなかったのか。私にそのつもりは無い。』

『つれませんわね。私、諦めませんわよ。』

二人の会話が続く。

『沙耶~、教えて上げたら?沙耶は身も心も光ちゃんの物だってさ。』

妙子が自分の体を抱きしめる様にして話しに入る。その目はニヤ~、と光を見ている。

『あら、妙子さん、居たのですの?』

『居たよ!最初からずっと!』

かぐやは紗耶香にしか、気付いていなかったようだ。

『そうですの。……って、今何か不穏な事おっしゃらなくて?』

かぐやの顔色が変わった。ちょっと怖い……。

『そうだな、紹介しておこう。』

紗耶香が光を見る。

『光様、楓、此方は【鬼刀院(キトウイン) かぐや】。私達の住むあけぼの寮の寮監です。後ろはかぐやの従者の【春川(ハルカワ) (ノゾミ)】です。』

『よろしくお願いしますわ。』

『……よろしく。』

紗耶香の紹介を受けて、かぐやと望が挨拶する。

望はショートカットで眼鏡を掛けていた。服装は執事を連想させる様な格好だ。

『そして此方が新入生の北条 楓と私の師匠であり、主でもある神尾 光様だ。』

『宜しくお願いします。』

『お願いします~~~。』

頭を下げる、が今さらりと主従関係にされなかったか?

『あ、あ、主ですって?!』

かぐやの体がプルプルと震えている。

『紗耶香さん!貴女はという人は、私の誘いを散々断っておきながら、新入生と主従の契りをかわすなんて!』

かぐやが吠える。

うへ~、と妙子が顔を反らす。楓はびっくりしたのか隣の光の腕に掴まってきた。

『あ、いえ。主従ではなく、師弟に……なんでも無いです。ごめんなさい。』

ギロリとかぐやに睨まれ、説明できずに謝る光。

『ふむ、まぁ落ち着けかぐや。光様は特別なのだ。何せ私では到底勝てないほどの強さなのだからな。』

かぐやの剣幕も気にせず、紗耶香が説明する。

『そんな事、有る訳有りませんわ。紗耶香さん、貴女は私が認めた剣士ですのよ。新入生がその貴女より強いなんて信じられませんわ。』

『そう言われてもな。事実だから仕方が無いだろう。』

変わらず冷静に答える紗耶香。

『かぐや様、紗耶香様は嘘をつかれるような方ではないかと存じます。』

かぐやの後ろに控えていた望が、控え目に口を挟む。

『そんな事分かってますわ!』

キッと光を睨みつける。

『私は認めませんわ!紗耶香さんの主になるのはこの私です!』

そう言って食堂を出ていくかぐや。望は此方に会釈して後に続く。

うう、恐かったよ……。

ホッとしていると妙子が話しかけて来た。

『いや~、大変だったね~。』

『そう思うなら、ニヤケないで下さい。』

妙子はあくまで楽しそうだ。

『申し訳ありません、光様。不愉快な想いをされたのでは有りませんか?』

紗耶香が申し訳無さそうに光を気遣う。

『いえ、不愉快と言うほどでは無いのですが、えっと、かぐやさん?と紗耶香はどういった関係なんですか?』

『あ~、かぐやはね、この山の頂上に有る鬼祭(オニマツリ)神社の一人娘なんだ。なんでもこの辺の山は全部その神社の土地らしいよ。』

『この辺り全部ですか?』

妙子の説明に驚く光。

『はい、そして、その鬼祭神社は昔この辺りで暴れ回った鬼を封じている、と言われています。』

『鬼、ですか~~~?』

楓が興味を示している。

『そう、鬼だ。その鬼を封じたのが、神主の鬼刀院家です。』

『で、万が一鬼の封印が解けた時の為に、代々の神主は武術を修め、何人もの達人クラスの配下を持てって言われてるんだって。』

紗耶香の説明を妙子が受け取る。

『かぐやは私にずっと配下になれと言って来ているのです。』

『あれは確か、沙耶が高校剣道日本一になってからだったよね。』

『ああ、日本一の剣士なら自分の配下に相応しいのだそうだ。』

成る程……何度も配下に誘っていたのに、突然現れた新入生の従者になったって言われたら、それは怒るよね。

『うう、私相当恨まれてますよね?』

『大丈夫です。光様に危害を加えようとするならば、この私が必ず守って見せます。』

ああ、頼もしい、頼もしいけど、原因は貴女ですよ?

光は深い溜め息をついていた。



かぐやは怒っていた、ドレスを着たままズカズカと歩く姿は、とてもお嬢様には見えないが、この寮にかぐやに意見出来る者など居ないので構わずズカズカ歩く。

『なんですの?何なんですの?あの新入生が私より優れているとでも言うのですの?』

自室に入るなり、かぐやが吠える。

言いながらベッドに有った枕を掴み壁に叩き付けていた。

『望、あの者は何者ですの?』

付き従っている望に爪を噛みながら問いかける。

やれやれ、と思いながらも主の問いに答えるためにタブレット端末を手にする望。

寮監で有るかぐやは寮生の情報をある程度見る事が出来るのだ。

望は素早く寮生名簿を検索する。

『有りました。神尾 光……。特に変わった経歴は無いようです。』

『中学時代に何かやっていた訳では有りませんの?』

『部活は何もやっていない様です。』

かぐやの問いに申し訳無さそうに答える望。

『だったら何が特別だと言うのですか!』

何も分からずかぐやは更にイラついている。

『データは何も有りませんが、先日の街で起こった銀行強盗と昨日の侵入者の件は覚えていらっしゃいますか。』

『当然です、昨日寮に帰って来て早々に聞いたばかりじゃ有りませんの。』

かぐやと望は昨日の夜に帰って来ている。

不在時に何か問題が無かったか、寮母さんに聞きに行った時にその話しは聞いている。

寮母さんの話では強盗を捕まえたのは桜花女学院の生徒で、どうやら妙子の様だ。又昨日の侵入者は紗耶香が守衛に引き渡している。

『昨日の紗耶香さんの活躍はともかく、強盗の件は呆れましたわ。全く妙子さんは問題ばかり起こすのですから。』

かぐやは頭が痛いとばかりに頭に手を添える。

『それが、銀行に居合わせた生徒が居たので、本人に確認したと所最初に強盗に向かって行ったのは妙子さんなのですが、捕まえたのは新入生の神尾 光の様です。』

『はぁ?……コホン、どういう事ですの?』

思わずお嬢様らしからぬ言動を誤魔化しながら聞くかぐや。

『はい、妙子さんが一人を捕まえている間に神尾 光が残りの三人を捕まえたそうです。』

『三人を、ですの?』

驚くかぐや。強盗なら武器も所持していただろう。それを三人も捕まえたとなれば、ただ者ではない。

『どうやら学外で何か学んでいたのかも知れませんわね。』

『そうですね。確か先程彼女達は武術部の部室に行くと言っていました。宜しければ、訪ねてみるのも良いかと思われます。』

『そう、行きますわよ、望。』

二人は真相を確かめるべく武術部の部室へと向かう。



光達は食後に武術部が利用している道場へと来ている。

以前は剣道部が利用していたが、数年前に廃部になっており利用者が居ないままだったのを、去年妙子と紗耶香が部室に使っているのだ。

妙子と紗耶香は胴着に着替え、光と楓はTシャツにスパッツで有る。光は後で髪を纏めていた。因みに桜花女学院では体育の時もこの格好だ。

取り敢えず着替えた後、換気のために窓や戸口を開けた所だが。

さて、どうしよう?

紗耶香は教えを請いたい様だが、何を教えれば良いのか光には検討もつかない。

『光ちゃん、どうせならこの前やってた型を最初から見たいな。』

妙子がリクエストしてきた。

楓もコクコクと頷いている。

『型?何の話ですか?』

紗耶香が聞いてきた。

『あぁ、沙耶は見てないんだよね。この間さ、光ちゃん部屋で型やってたんだ。格好良かったよ。』

妙子の発言に楓がコクコクと頷いている。

『光様、是非私にも見せて貰えませんか?』

紗耶香が言ってくる、ちょっと拗ねてる様にも見える。

うん、あれなら体が勝手に動いてくれる。ここなら広いから思い切り出来るし。

『そうですね。ではお見せします。』

光は道場の中央へと向かい、振り替える。

三人は戸口の前に並んで座る。

楓と紗耶香は正座、妙子はあぐらをかいている。

姿勢を正し、すぅ、と息を吸い込む光。

体の中で気が練り込まれていくのが分かる。

やがて、キィィィーーーーンと音が響いた。

『わっ!』

『きゃっ!』

突然聞こえる音に妙子と楓が驚いている。

『泉の息吹……。』

紗耶香が呟く。幼い頃に光一郎が発していた懐かしい音。

光の姿がかっての光一郎と重なって見えた。

光は動く。時には駆ける、時には飛ぶ。

掌を繰り出し、脚を繰り出す。

既に三人の事は頭に無かった。体の命じるままに動いていた。

……十分を過ぎた頃、光が大きく跳ねる。天井に届きそうな高さだ。二回、三回と回転し、道場の中央に音も無くふわりと降り立つ。

ゆっくりと息を吐きながら、立ち上がる光。すると……、

『キャーーーーーーーーァ!!』

突然巻き起こる黄色い喚声。

驚いて声のする方を見る。

三人の座っている後ろに人だかりが出来ていた。二十人は居るようだ。制服の者、何やら部活のユニフォームの者様々だった。

『え?え?え?何?』

戸惑う光。三人も同様だった。紗耶香でさえ後ろに人が居ることに気付かなかった。それほどまでに光に見とれていたのだ。

『あの方はどなたですか?』

『なんてステキな……。』

『お名前は何と仰るのかしら?』

様々な声が挙がっている。

『ストーップ、ストーップ!』

妙子が人だかりに向かって叫ぶ。

『あの子は新入生でうちの新人の神尾 光。それ以上は又今度ね。』

そう言って、皆を追い出している。

『え~~~。』

『妙子さん、横暴~~。』

『ファンクラブ有りますか?』

まだ何か言っている集団を追い出して戸口を閉める妙子。

楓が光にタオルを渡している。その目は何やら潤んでいた。

『ありがと、楓。』

そう言ってタオルを受け取る。凄い汗を掻いていた。

でも、何だか心地よい汗だった。

『お見事です、光様。思わず見とれてしまいました。』

紗耶香が話しかけてきた。楓がまたしてもコクコクと頷いている。

光は二人に笑顔で答える。

『あ~、ビックリした。いつの間にあんなに集まったんだろね。』

妙子が合流する。

『今のが泉流の型?この間のとは違うよね?』

妙子が聞いてくる。

『はい、この間部屋でやっていたのは一般の門下生に教える型です。今のは息吹を体得した者にだけ教える型ですね。』

『へぇ~、じゃ、上級者向けなんだ?』

『そうですね。実際に息吹を体得した者は弟子の中にも二人しか居ませんから。』

でも……。紗耶香を見る。

『蒼太は……紗耶香のお父さんは使えませんか?』

紗耶香に問い掛けた。

『……いえ、父が息吹を体得したとは聞いていません。』

暫く思案した後、紗耶香が答える。

『そうですか、元々実力が有る上に、気についても理解が有ったから使えても可笑しくは無いのですけど……。』

やはり、早いうちに会った方が良いかも知れない。

この後行ってみようかな。でもその前に……。

光は周りを見渡す。誰も居ない事を確認して楓が抱いているサンタ君に話しかけた。

『いいわ、それより此方を片付けましょう。サンタ君、そろそろいいかしら?』

光の言葉を受け、サンタ君が楓の手から飛び出しスタッと着地する。

『あれ~~~、サンタ君~~~?』

『動いた?!』

楓と妙子が驚いている。

『ああ、いいよ。光お姉ちゃん今の凄かったね。』

『あれ~~~?その声は~~~、紅葉君~~~?』

立ち上がり、片腕を上げて話しかけてきたサンタ君に楓が反応する。

『喋った……。』

『そう、紅葉だよ、姉さん。』

更に驚く妙子を置き去りにして続ける紅葉。

『姉さんが心配だったからさ、サンタ君を作ったんだ。見えないかも知れないけど、最新技術が詰まってるんだよ。』

そうして紅葉は話し出す。

自分が楓の弟で有る事。

引っ込み思案な楓が心配だった事。

いざという時の為に寮の見取り図を作ろうとして夜な夜な抜け出していた事。

サンタ君に使っている最新の技術の事。

『ほえ~~~、サンタ君凄いです~~~。』

楓が感心してサンタ君を抱き締める。

いや、確かに凄いけど確かめなきゃいけない事が有る。

『うん、紅葉君の目的とサンタ君の性能は良く分かったわ。』

光が楓からサンタ君を受けとり両手に持つ。

『それで、それだけ高性能なら当然カメラやマイクも付いてるのよね?』

『当たり前だろ?でなきゃこうやって会話出来ないよ。』

光の問いに当然の様に答える紅葉。

『あ、あ、あ~~!もしかしてあたしらの着替え見られてた?』

妙子が気付いて声を上げる。

サンタ君がビクッと動いた。

おしい、妙子さん惜しいです。そこよりも……。

『それよりも、二日の夜って私達三人でお風呂に行ったんだけど、サンタ君も脱衣場まで来てたわよね~?』

光が笑顔で質問する。無論、サンタ君はがっしりと捕まえている。

『あ~~!そうだった~‼もしかして全部見られてた?』

妙子がその時の事を思い出した様だ。真っ赤になっている。

『どうなのかな~?』

光の手に力が籠る。

『見てない!見てないよ!ちゃんとお風呂に行くときは見えない様にしてるよ‼』

慌てて答える紅葉。

『本当に~?』

変わらず笑顔で聞く光。キィィィーーーーン、いつの間にか息吹の音が響いていた。

『光様?!』

『光ちゃん?!』

『光さん~~~?』

三人の声がハモる。

『本当だよ!本当に本当だって!ボクだって恥ずかしくて見れないよ!』

サンタ君が両手をブンブン降りながら答える。

『ふぅ、まぁいいわ。信じます。でも楓、今度からお風呂の時はサンタ君はお留守番よ。』

『はい~~~、分かりました~~~。紅葉君~~~、めっ、ですよ~~~。』

溜め息をついて楓に話しかける。楓は返事をしながらサンタ君をコツンと叩いていた。

『分かったよ、着替えの時も後ろ向かせとくよ。』

うん、まぁ、これで今後は安心かな?

『そういや話変わるけど、昨日、高山っておじさんいたでしょ?』

四人がサンタ君に注目する。

『えぇ、居たけど?』

今頃は警察署か留置所だろう。病院かも知れない。

『あの時の映像何度見返しても、この人黒いモヤが掛かってる様に見えるんだけど?』

!やっぱり。見間違いじゃなかったんだ。

『映像にも映ってるのね。私も見たわ。』

『光様もですか?私も見ました。昼間はもっと少なかったんですが、夕方には全身を覆ってました。』

光の発言に紗耶香が続く。

『えっ、そんなの有った?』

『気付きませんでした~~~。』

妙子と楓は気付かなかった様だ。見える人と見えない人がいるのかな?

『不気味な黒い煙みたいな物が体を覆ってました。凄くイヤな気配を感じました。』

光が思い出しながら皆に説明する。

『あ、映像出せるよ。見る?』

サンタ君が提案する。

『え、映像見れるの?見たい!』

妙子が飛び付いた。

『紅葉君、お願い。』

光に促され、サンタ君が壁に向かう。左目が光だし壁に光と高山の闘いが映し出された。

『あ、本当だ。気持ち悪っ!』

『ほぇ~~~、凄いです~~~。』

妙子と楓が驚きながら見ている。

映像なら見えるんだ?

改めて映像に集中する。映像でも背筋がゾワッとする。

映像は光が泉流奥義で高山を倒した所だ。

奥義が決まった時点で黒いモヤが四散している。

『これはいったい何なのでしょうか?』

紗耶香が問い掛ける。

何だろう?今までに見たことはない。だけど何か引っ掛かる。もしかしたら光一郎は何か知っていたのかも知れない。

『何かは分からないけど、他にも目撃例が有るんだ。』

サンタ君の映像が切り替わる。

携帯電話で撮ったで有ろう映像が幾つか出てきた。

どれも体の一部がモヤで覆われており、暴れまわっている。中には素手で壁に穴を開けたり、電柱をへし折っているものもいる。

『この動画、昨日の夜にダウンロードしたんだけど、今朝もう一度調べてみたら全部消去去れてるんだよね。』

『……何者かがこのモヤの事を隠している、と?』

紅葉の発言に紗耶香が質問する。

『誰が?何のためにさ?』

妙子が食い付く。

『これだけのデータを消して回るんだから、結構大きな権力持ってる所じゃないかな?』

『消去したのは混乱を避ける為に、でしょうね。』

紅葉が答え、光が続く。

『どなたが~~~、消してるのでしょうか~~~?』

『警察、とか?』

楓の疑問に妙子が続く。

『それか、政府って所じゃないかな?此方でもう少し調べてみるよ。』

紅葉が提案してきた。

『そうね。お願いするわ。何か分かったら教えてくれる?』

『ああ、いいよ。』

その時、突然ドアが開く。

『その必要は有りませんわ。』

かぐやが現れた。



少し時間を遡る。

かぐやと望は武術部の部室に向かっている。

紗耶香と光に話を聞く為だ。

強盗や昨日の侵入者の事を聞いても納得がいかない。

例え公式のデータが何もなくても、それなりの武術家であれば鬼刀院家のネットワークに引っ掛からない訳がないのだ。

其ほどまでに鬼刀院家は力を持っている。

事実、光一郎や紗耶香、妙子の情報もかなり詳しく把握している。

にもかかわらず、紗耶香が自身よりも強いと言う光の事が何も分からないのだ。

鬼刀院家の次期当主として、かぐやは使命感に燃えていた。

武術部に着く。

何やら入口に人だかりが出来ていた。

本来ならかぐやが近付くだけで道を開けてくれる生徒達が、誰もかぐやに気付かない。

仕方なく人混みを掻き分ける様に前に進む。

押し退けられた生徒は文句を言おうとして、初めて相手がかぐやだと分かり道を譲る。

もう少しで最前列に届きそうな時に中の様子が見えてきた。

かぐやの動きが止まる。

後ろに着いてきた望が何事かとかぐやの視線を追う。

望の動きもピタリと止まる。

二人の視線の先は光だった。

光は道場の中を文字通り縦横無尽に駆け回っていた。

素早く、力強く、そして美しく。

暫くして、光が高く跳躍して回転しながら着地した。

周りから歓声が上がる。

暫くして、妙子が此方に来て皆を追い出していた。

かぐやも周りの生徒と同じく閉め出される。

普段なら妙子に食って掛かり中に入る所だが、今は動けずにいた。

今のは何?あんな動きは見たことが無い。鬼刀院家の現当主で有る父や、その側近達でも無理かも知れない。

『かぐや様?』

動きを見せないかぐやに望が話しかける。

ハッと我に帰るかぐや。

『望、今のを見ましたか?』

『はい、見事な動きでした。あれならば、紗耶香様よりも強いと言うのも頷けるかと。』

『そう、ですわね。』

ならば何故、鬼刀院家がその情報を掴めていないのですの?

それに、ほんの僅かですが、似ている様な気がしますわ。

鬼刀院家の当主のみに代々伝わる、魑魅魍魎を打ち倒す武術、鬼刀院流対魔術に……。

確かめなければいけませんわね……。

かぐやはドアに手をかける。

キィィィーーーーン、と音が響いた。

とっさに顔を見合わせるかぐやと望。

頷き合って、僅かにドアを開けて中を覗き見る。

『あの娘から聞こえますわね。』

『この音……、泉の息吹ですね。』

『?!これが?では、あの娘は泉流だと言うのですの?』

『おそらく……。ですが我々の情報では泉流に神尾 光と言う名前は有りませんでした。』

『あの娘が……泉流……、泉 光一郎の関係者……。』

中では熊のぬいぐるみが喋りだし、動き回っているが、かぐや達にはどうでもよかった。その興味は光にだけ集中していた。

泉 光一郎の事をかぐやは良く知っていた。

それどころか、本来ならこの春休みに初めて会う予定になっていた。光一郎が生きていれば……。

やがて、中ではぬいぐるみが壁に映像を映し出していた。

『!あれは……。』

『邪気ですね。昨日の侵入者は邪気に憑かれていたのですね。』

『邪気を……祓ってますわね……。』

『はい、間違いなく……。』

驚く事が多すぎて、かぐやは混乱してきた。

ああ、そう言えば、此所にはトラブルメイカーの妙子さんも居るのでしたね。

そんな事を考えていた。

『……もう少し調べてみるよ。』

中から聞こえる声で正気に戻る。

どうやら、邪気について調べる事にしたようですわね。それならば……。

『その必要は有りませんわ。』

そういい放ち、ドアを開け中に入るかぐや。無論、望もそれに続く。



あれは、さっきの鬼刀院 かぐやさん?どうして此所に?

『かぐやか……。何の用だ?』

光が疑問に思っていると、紗耶香がかぐやに声を掛けた。

『そちらの新入生に少しお話しが有っただけですわ。』

『えっ、私……ですか?』

何だろ?紗耶香の件かな?

『それよりさ、ひょっとしたら、覗いてたのかな~?』

妙子が割って入る。ちょっと意地悪そうな顔だ。

『っ!覗いてなんかいませんわ!たまたま話が聞こえてきただけですわ。』

慌て否定している。何となく、怪しい。

『そんな事より、今の映像の事が知りたいのではなくて?教えて差し上げても宜しくてよ?』

『かぐや、何か知っているのか?』

『鬼刀院先輩、よろしければ教えて貰えませんか?』

紗耶香の問いに光が続く。

かぐやの視線が光に向く。

『ええ、宜しくてよ。ただし、貴女が私に勝てれば、ですけど。』

『え?私が鬼刀院先輩に?』

ビシッと光を指差すかぐやに、戸惑う光。

『ふ~ん、いいんじゃない?光ちゃんやっちゃえば?』

妙子が軽いノリで進めてくる。

『妙っ!何を言っている。』

『いいじゃん。どうせ、光ちゃんが勝つに決まってるし。それに、沙耶だって光ちゃんの闘う所見たいんじゃない?』

『むっ……、確かにそれはそうだが……。』

ああ、紗耶香があっさり陥落された……。妙子さんも先輩に聞こえる様にそんな事言わないで下さい……。

……ほら、目が怖い……。

『……分かりました。お手合わせ致しましょう。』

光は早々に諦める事にした。

妙子と紗耶香が言い出したら、どうせ聞かないに決まっているのだ。

こうして、光は生まれて初めて、武術の試合をする事になった。



じつは、ここのシステムを良く理解出来てません。

コメント等無いので、誰も読んでないのかと思ってました。

つい先程アクセス数を見ることが出来て、PVが234ってなってました。読んでくださった方々、本当にありがとうございます。

宜しければ、今後もお付き合い下さい。


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