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乙女の園の格闘王  作者: 海空大地
春休みの騒乱
3/10

それぞれの決意

光は皆に伝える。

三日前に突然、光一郎の記憶が甦った事。

自然に光一郎の武術、泉流格闘術が使える事。

あくまでも自分は神尾 光で有る事。

ゆっくりと話していった。

誰も口を挟まない。真剣に話を聞いている。

光の話が終わった。

暫く沈黙が続く。

『……生まれ変わり、ね。』

妙子が呟いた。

『信じられないと思いますが、そうとしか思えないんです。』

やっぱり信じてもらえないのかな?そう思って下を向く光。

紗耶香が不意に動き出す。今まで下ろしていた長い髪を纏め、ポニーテールにする。その後光の前にしゃがみこみ光に顔を近づける。

『光。私の事が分かりますか?』

そんな事を聞く。

???何を言ってるのだろう?既に名前は聞いている。柳 紗耶香だ。……柳?

紗耶香の顔を見る。小さな女の子の顔がダブって見える。ポニーテールの似合う、元気な女の子だ。確か名前は紗耶香だった。

『!!!紗耶嬢?蒼太の娘の?』

記憶が蘇る。10年程前に一月程共に暮らし修行した。蒼太は光一郎にとって最初の弟子だった。

その時に紗耶香も共に居た。二人の周りを走り回り、時には共に修行に参加していた。

光の答えに紗耶香は涙が溢れてきた。指で拭って皆の方に向き直る。

『私は光が光一郎氏の生まれ変わりだと信じる。父の名前も知っていたし、何より私の事を紗耶嬢と呼んだのは、後にも先にも光一郎氏だけだからな。』

そうはっきりと宣言した。

『私も~~~、信じます~~~。光さんは~~~、嘘なんかつきません~~~。』

そう言って抱きついてくる楓。

『俺も信じるぜ。なるほどね、光一郎さん本人なら、俺がボコボコにされたのにも納得がいくわな。』

沢井も同意してニカッと笑う。

『え?え?みんな信じちゃうんだ?……これで信じなかったら、あたし悪者じゃん?!……了解、あたしも信じるよ。』

両手を挙げて降参とばかりに同意する妙子。

『皆さん……、ありがとうございます。』

光は深々と頭を下げる。嬉しかった。親しい人に信じてもらえる事がこんなに嬉しい事とは知らなかった。

この三日間、人に言えないモヤモヤとした悩みがすっきりとしていた。

『さて、と。旦那、じゃないな。あ~、姉さん、俺はこれで消えさせてもらいますぜ。俺で約に立てる時は遠慮なく言って下せぇ。これ、連絡先ね。』

そう言って、名刺を渡してくる。

請負人 小沢と書いて有った。

『小沢?』

『ん?ああ、こんな稼業だからなねぇ、偽名は何個も有るんでさぁ。高山のおかげで沢田は当分使えねぇからな。小沢って呼んでくれや。』

光の疑問に沢田改め小沢が答えた。

『そうですか、分かりました。あの……、さ、小沢さん。』

『ん?』

『光一郎は貴方の事認めてましたよ。世界が獲れる器だって。』

光の発言に小沢は顔を伏せる。

あの人が……俺の事を……。

『嬉しいねぇ。憧れた人にそんな事言って貰える何てな。』

顔を上げて天井を見るようにして答える。

涙を堪えていた。

小沢は自分の心が満たされていく事を実感する。裏稼業に身を落として、初めての事だった。

光に向き直る。

『お嬢さん、俺は決めやした。お嬢さんの頼みなら何でもやりやしょう。いつでも呼んで下せぇ。』

『え?でも、そんな……。』

小沢の言葉に戸惑う光。

『何、俺がお嬢さんの役に立ちてぇだけなんでさ。どうにも理由がいるってんなら、今回見逃して貰った恩返し、って事でどうですかい?』

更に小沢が提案してきた。

どうやら本気のようだ。

『分かりました。何か有った時は頼らせて貰います。』

『へへっ、待ってますぜ。それじゃぁ、この辺で。』

光の言葉にニカッと笑って答える小沢。そのまま部屋を出ていった。

小沢を見送った後、紗耶香が光に向き直る。光の前に正座する。

『光。貴女にお願いがあります。』

真剣な眼差しで光を見つめる。

改まった様子に視線が集まる。

『お願い、ですか?何でしょうか?』

光の問いに紗耶香は姿勢を正し、両手を付いて頭を下げる。

『私を貴女の弟子にして頂きたいのです。』

『?!弟子?!』

『紗耶?!』

『ほぇ~~~?』

三人が思い思いに声を上げる。気にもせずに紗耶香は続ける。

『昼間の戦いを見てからずっと思っていました。今の話を聞いてその思いは益々強くなりました。以前、光一郎氏にお願いした時は、まだ幼いからと断られましたが、今度こそ貴女の弟子にして下さい。』

頭を下げたまま一気に捲し立てた。

光の頭に光一郎の記憶が蘇る。

確かに何度も弟子にして、と頼まれやんわりと断っていた。あの時の泣き出しそうな顔が目に浮かぶ。

『あ~~~、こりゃダメだ。光ちゃん、こうなった紗耶香は頑固だよ~。諦めた方がいいんじゃない?』

妙子の言葉が決め手になった。

確かに紗耶香は先程から微動だにしない。恐らくは了承するまでずっとこのままのつもりなのだろう。

『……分かりました。ただ、私も光一郎の記憶の全てを思い出している訳では有りません。それでも良ければ。』

ガバッと顔を上げる紗耶香。その表情は歓喜に満ちていた。

『ありがとうございます!この柳紗耶香、光様の一番弟子として名に恥じぬ様に精進致します!』

宣言する紗耶香。

『『光様?!』』

妙子と光の声がハモる。

『弟子が敬愛する師匠を様付けで呼ぶのが何か?』

さも当然と言った様に答える紗耶香。

『イヤイヤイヤ。普通は下級生に様は付けないよ?』

『「特別な」下級生なら問題は有るまい。』

妙子の突っ込みにも悠然と答える紗耶香。

なるぼど、頑固だ……。

光は溜め息と共に返答する。

『……好きに呼んで下さい。』

紗耶香は満面の笑みで頷いていた。

『あ、いい忘れてたけど、光ちゃんと楓ちゃん武術部に入部決まったから。』

妙子が思い出したように紗耶香に告げる。

『おお、タエにしては気がきくな。ならば、早速明日からでも稽古をつけて貰えるな。』

『タエにしてはって、酷いな。でもあたしも稽古つけてほしいな。』

話がどんどん進んでいく。光が口を挟む。

『あの、まだ入学もしてないんですけど……。』

『でもさぁ、そうなると先生はどうする?』

無視された!!

『ふむ、確かに黙ったままと言うわけにもいかないな。』

紗耶香まで!!

膝を抱える光。楓が頭を撫でてくる。

『光様、武術部の顧問の先生をご存じですか?』

紗耶香が光に聞いてくる。

『うう、何も知りませんけど?』

少しいじけながら答える光。

『実はね、あたしらの部の顧問の先生ってさ、泉流の人なんだよね。』

妙子が告げる。驚く光。記憶をたどる。

そう言えば、高校の教師をやっている弟子が居た。光一郎の一番弟子とも言える人物で、今は教師の傍ら光一郎の道場に住み込み、師範代もやっている。

名前は確か……。

『もしかして、【(ワタリ) 翔子(ショウコ)】……?』

光の問いに頷き合う妙子と紗耶香。

『やはり、ご存知でしたか。』

『ま、道場の事が有るから、殆ど部活には顔出さないんだけどね。』

『ですが、先生は光一郎氏の死にかなりのショックを受けておられました。ですから既に光一郎氏が生まれ変わっている事を知れば、少しは救われるなではないかと。』

『問題は信じてもらえるか、だよね。』

紗耶香と妙子が会話を続ける。

光はふと思い出した事を口にする。

『確か……格闘技世界大会で優勝して二代目の格闘王になったんですよね。』

『はい、その帰国途中で光一郎氏の死を聞かれたそうです。』

『そう……、分かりました。では、手合わせを申し込みましょう。』

光は暫く思案して提案する。

『手合わせ?先生と光ちゃんが?相手は格闘王だよ?』

『ふふ、私だって格闘王ですよ?忘れたんですか?』

妙子の問いに優しく笑いながら答える光。

その姿は今まで見せた事のない、自信に満ちた姿だった。

その変化に気づいたのは楓だった。

楓はこの三日間ずっと光を見てきたのだ。

光さん、変わった。

優しい光さん、友達になってくれた。いつも優しい笑顔で話しかけてくれた。のろまな私の事を馬鹿にしないで側にいてくれた。

強盗に人質にされそうになった時は庇ってくれた。

直ぐに大好きな存在になっていた。

そんな光さんが実は凄く強くてビックリした。

優しくて強くて綺麗でまるで女神様の様に思える。

そんな光さんだけど、少しだけ控えめな所が有った。特に先輩に対してはそうだった。でも、今は積極的に前に進んでいる。

自信に溢れている様に見える。

光さんは前に進んでいるんだ……。

置いて行かれたくない、ずっと一緒に居たい。

私も頑張らなきゃ!

人知れず、楓は決意していた。

『確かに、光様の強さを体感すれば、信じてもらえるかもしれません。』

楓が決意している間にも話しは進む。

紗耶香が光の案に同意していた。

『そうだね、たぶん春休みのうちに一度は顔出してくれると思うんだけどね。』

『では、その時に申し込みましょう。話しはその後で。』

光が話を纏めた。

『分かりました。先生の件はそうしましょう。ですが、もう一件よろしいでしょうか?』

『もう一件?』

『はい、実は私の父の事なのですが。先生と同様に酷く落ち込んでいます。先生と同様に対応して頂けるとありがたいのですが……。』

師匠に頼み事をするのに恐縮する紗耶香。

ああ、蒼太の事だ。そう言えばもう何年も会っていない。

二十歳近く年下の光一郎を認め、弟子入りし最大限の敬意を示してくれていた。彼が落ち込んでいるのなら、力になりたい。

『分かりました。蒼太にも会いに行きましょう。』

光の答えにホッとする紗耶香。

『そうなると、もう一人会いたい人がいるけど……。』

『もう一人?どなたですか?』

光の呟きに紗耶香が問い掛ける。

『【(イズミ) (アズサ)】、光一郎の娘です。』

光はそう言って梓の事を思い出す。

親子仲は非常に良かった。いつも笑顔を絶やさない、優しい娘だ。武術は基本的な事しか教えていないが、光一郎の居ない時に翔子に習っていたようだ。もしかしたら、それなりに強くなっているのかも知れない。

光一郎の亡くなった朝も、エイプリルフールの嘘に引っ掛からないように忠告してくれていた。……自分がしっかり引っ掛けた後で……。

きっと一番落ち込んでいるをじゃないかな?

慰めてやりたい、だがどうやって?

光はその思いを皆に打ち明ける。

『娘さんか~。』

妙子が頭を抱えている。良い案は浮かばない様だ。

『梓さんは~~~、格闘技を~~~、やってないんですか~~~?』

隣に座っている楓が光の顔を覗き込みながら聞いてきた。

『ええ、本格的にはやってないわ。少なくても光一郎と手合わせはしてないわね。』

そうですか~~~、と残念そうな楓。

そうなのだ。翔子や蒼太の様に光一郎と手合わせの経験が有れば、光と手合わせする事で何かしら感じてくれるかも知れない。

だが、梓はそうではなかった。

『そうですね、何か親子間だけの秘密等は無いのですか?』

紗耶香が聞いてくる。

『有れば良いのですが、特に思い出せません……。』

そうなのだ。武術に関しては体が勝手に動く。人の名前や顔でその人物の記憶もある程度は蘇る。そう、ある程度、なのだ。

今のところ親子間の秘密等は全く思い出せなかった。

『だったらさ、先生が信じてくれたら、相談してみない?』

妙子が提案してくる。

『そうだな、先生なら我々より光一郎親子に近い。何か名案が有るかも知れないな。』

紗耶香も同意した。

先送りするだけの様にも思ったが、今は特に良い案も出ない。

手立てもなく押し掛けて、混乱させる訳にもいかない。

それに今は他に気になる事もある。

『そうですね、梓の事はもう少し待ちましょう。』

光の言葉に皆が頷く。

話が纏まった所で、楓が大きな欠伸をする。

無理もない、既に0時を回っている。

『今日はそろそろ休みませんか? 』

『そうだね。あたしもそろそろ眠いや。』

『いろいろ有ったからな。ゆっくり休むとしよう。』

『うん、そうするよ。ほら、楓、部屋に戻るよ。それじゃね、お休み。』

『ああ、お休み。』

『お休みなさい。』

『おやすみ~~~、なさい~~~。』

妙子が楓の手を引っ張りながら連れていく。楓は反対の手でサンタ君を引き摺っていた。

二人を見送った後、紗耶香が光に話し掛ける。

『光様、汗も掛かれたようですし、お風呂に入られた方が宜しいのでは?』

『そうですね、少し時間も潰したいし、入りましょう。』

二人は部屋を出ていった。

あけぼの寮のお風呂はかなり大きい。三十人は楽に入れる。

二人だけならゆっくり出来るだろう。

出来るハズだったが……。

いやもう大変である。

兎に角、紗耶香が光の世話をしようとするのだ。

服を脱ぐのも手伝おうとするし、体も洗うと言って譲らない。

弟子で有れば当然の事です、と言ってきかない。

もはや、弟子と言うより家臣か従者である。

少なくても光一郎はこんな事してもらった事はない。

今もお風呂上がりに、パジャマ姿の光の髪を甲斐甲斐しく乾かしてくれている。

………うう、全身洗われた……。

恥ずかしくて堪らない、紗耶香は満足そうだった。

『綺麗な髪ですね。』

ドライヤーを使いながら、紗耶香が話し掛ける。

『あ、ありがとうございます。でも、私より紗耶香先輩の方が綺麗な髪ですよ?』

鏡越しに目が合う。

うう、恥ずかしい。

『私など、ただ伸ばしているだけですから。光様こそ柔らかくてとても綺麗な髪です。光様にお似合いです。』

そう言って笑顔見せる紗耶香。

そういう紗耶香先輩こそ本当に綺麗な人なんだけど……。

『ところで光様、私の事はどうか、紗耶香、とお呼び下さい。敬語も不要です。』

そんな事を言ってきた。

『え、でも先輩ですし……。』

戸惑う光。再び目が合う、やっぱり恥ずかしい。

『いいえ、下級生で有る前に大切な師匠なのですから。師匠が弟子に敬語なのも、変な話でしょう?』

確かに一理有る。それに……折れないよね、この人。

『分かりました。いえ、分かったわ。今後とも宜しくね。』

そう言って、紗耶香に笑いかける。

『は、この紗耶香、光様の下で精進に励みます。』

紗耶香が光前に膝を付き宣言する。

何も下着姿でそんなに畏まらなくても良いのだが……。



部屋へ戻って来た。紗耶香はTシャツに短パン姿だ。

ベッドに座り寛ぐ光。紗耶香も同じように向かいに有るベッドに座って光を見ている。どうやら光より先に眠るつもりは無いようだ。

大した忠信振りである。……困ったものだ……。

光のそんな考えも知らずに、紗耶香は見とれていた。

ああ、なんて美しい方なのだろう。美しさと愛らしさが同居している。それなのに、いざ闘いとなると圧倒的な強さだった。

光一郎の強さと光の美しさが合わさり、天女が舞う様な闘い方だった。私は何と幸せ者なのか。この光の下で生きて行けるのだから。

強くならなければ!光の役に立てるように、光に頼られる様に!

もっと、もっと強くならなければ。

紗耶香は心に誓っていた。


三十分程たっただろうか。光は静かに時を待つ。紗耶香も光の正面に向かい合わせで姿勢を正している。

……もっとも、この三十分の間にもお茶を用意しようとしたり、マッサージしましょうか?と聞いてきたりしていたが……。

やんわりと断っていた。

カチャ、と小さな音がした。耳を澄ましていたからこそ聞こえたのだ。

光は静かにドアの前に移動する。

『光様?』

紗耶香が何事かと聞いてくるが、光は人差し指を口に充てて声を出さないように指示を出す。

紗耶香が無言で光の側に来る。

光はドアノブを回した状態で外の気配を探っている。

今だ!

ドアを開けた。

ドアの真正面に人影が有る。紗耶香は目を凝らして人影を見る。

サンタ君だった。

『やっぱりね。』

光がサンタ君に話し掛けながら近づく。サンタ君は動かない。

首に巻いてあるリボンに指を通してサンタ君を持ち上げる。

『説明して貰えるかな?も、み、じ、君。』

ジタバタジタバタ。

サンタ君が暴れだした。が、宙ぶらりんにされて逃げられない。

『動いた?!』

紗耶香が驚いている。

ジタバタジタバタ、サンタ君はまだ暴れている。

『説明してくれないなら、有る事無い事楓に言っちゃうけど良いのかな~?』

光がニヤリと笑う。

あ、我ながら悪そうな顔かも。

そう思いながらサンタ君の反応を待つ光。

紗耶香は見なかった事にしたようだ。

ジタバタジタバタ……ピタッ。

『分かったよ。説明するから離してくれ。』

『喋った?!』

喋り出したサンタ君に驚く紗耶香。

『そう、宜しくね。』

光はサンタ君を抱えて部屋に戻る。紗耶香は何が起こっているのか、理解出来ていない。

ベッドの横の机の上にサンタ君を載せ、光のベッドに並んで座る光と紗耶香。

『やれやれ、こんなに早くバレるとは思わなかったよ。』

肩を竦めるサンタ君。かなり人間に近い動きが出来る様だ。

『光様、これは、いったい……?』

訳が分からず紗耶香が聞いてくる。

『ああ、この子はロボットよ。』

『ロボット!これが……。』

『正解だよ。良く分かったね。』

光の発言をサンタ君が認める。

『楓が言ってたわ。よくいなくなるって。それにプレゼントしてくれた弟の名前、それを聞いてもしかしたらって思ったの。』

『?光様、良ければ詳しく教えて頂けますか?』

そう言えば、紗耶香は楓の弟の名前を聞いてなかったっけ?

『この子の名前は北条 紅葉。楓の弟で去年12才でロボット工学の博士号を取った神童よ。 』

紗耶香は驚きで声もでない。

『良く知ってるね。光お姉ちゃん。』

『だって、去年あれだけ騒がれてたもの。天才だ、神童だってね。』

『よしてよ。ボクなんか姉さんに比べたら、全然大した事無いんだから。』

?!

驚く光と紗耶香。

『楓が……?』

光の口から疑問が漏れる。

『なんだ、知らなかったんだ?姉さんって、凄く頭良いんだよ。

紅葉は当然の事の様に言う。サンタ君が胸を張っている。誇らしげだ。

『そう……、なのか?』

紗耶香は楓の事を思い出す。

殆んど話しはしていない。四人で話をしている時もあまり発言せずに聞き手に回っている。

たまに発言したときも、のんびりとした様子だった。

言っては悪いが、其ほど頭が良いようには見えない。

『ボクに勉強教えてくれたの姉さんだしね。テストだって、満点以外見た事無いよ。』

!!

更に驚く二人。

『満点だけなの?』

『そうだよ。当然、毎年学年首席だよ。』

光の問いに更に誇らしげに答える紅葉。

サンタ君が胸を張りすぎて、後ろに倒れる。

あ、机から落ちた。器用に机の足をよじ登る。登頂完了、再び胸を張る。

『本当はボクと大学に行く事も出来たんだけど、姉さんが嫌がってね。』

『ふむ、何故だ?』

紗耶香が疑問に思う。飛び級を断る理由がわからない。

『大人の人ばかりの所は怖いって。』

紅葉が答える。心なしか声に元気が無くなったようだ。

ああ、そうなんだ。

楓は言っていた。良くノロマだと言われると。

気付けば皆から無視される、と。

同級生からそんな扱いを受けていれば、もっと大きな大学生に囲まれるのは不安なのだろう。

今だって、知らない人だらけの環境で不安なのかも知れない。

もっと一緒に居た方が良いのかも知れない。

せめてこの学院に居る間は、そんな想いをしなくても良い様に。

大事な初めての友達なんだから。

それにしても……。

『紅葉君はお姉ちゃんの事、大好きなのね。』

『!!!ち、違うよ!そんな事言って無いよ。ボクは只、姉さんが心配だったから……。』

慌てて否定する紅葉。サンタ君が凄い勢いで手を振っている。

微笑ましい。

『そう?まぁ、大体の事は分かったわ。後は明日、皆と一緒に聞きましょう。』

『……やっぱり、姉さんにも言わなきゃダメ?』

サンタ君がしょんぼりしている。

『当然でしょう?それに、楓も知っていたら普通に会話も出来るわよ。』

『……そうだね。分かったよ。それじゃ、明日の朝10時位でいいかな?』

『ええ、良いわよ。その頃に皆集まっておくわね。』

明日、詳しい事を聞く約束をしている時に、

コンコン。ドアをノックする音が聞こえた。

ドアが開く。

『光さん~~~、起きてますか~~~?』

僅かに開いたどあの隙間から、楓が小さな声で聞いて来た。

『楓?起きてるわよ。どうぞ。』

楓が部屋に入ってくる。

『失礼します~~~。あ~~~、サンタ君~~~、此所に居たんですか~~~?』

机の上のサンタ君に気付いた。サンタ君はいつものポーズに戻っている。

『サンタ君を探してたの?さっき廊下で見つけたの。今から連れて行こうかと思ってたんだけど。』

『そうだったんですか~~~、ありがとうございます~~~。』

ペコリと頭を下げる楓。

先程の事を思い出す光。

『ねぇ、楓。良かったら今日は此処で一緒に寝ない?』

『ほぇ~~~、良いんですか~~~?』

ピクリと紗耶香が反応したようだが、気にしない事にする。

『ええ、楓さえ良ければ。』

『はい~~~、お願いします~~~。』

そう言って、光のベッドに潜り込む。

光も隣に横になる。

『紗耶香、楓、おやすみなさい。』

『おやすみなさい~~~。』

『……おやすみなさい。』

ようやく、長い一日が終わりを告げる。


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