3・仁義なき尋問
「ええと。もっと自分のことを話してみてくれんか」
「しつこいな、お前も。俺は戸野部優人。『ザ・ジャンプ』のツッコミと、ネタ作り担当。白鳥とは、漫才の番組で共演してから仲良くなって、よく飲みに行くようになったな。この間行った店ではつい飲み過ぎてしまって、ずいぶんと迷惑をかけたな」
「うんうん。で、そっちは?」
「疑い深いねえ、白鳥君は。まあ、ここは何か俺らしいことを言った方がいいのかな? えーっとお……うーん……もう、ないんだけど。俺がボケ担当ってことは十回くらい話したし。俺、話のネタとか多くないし」
「間違いない。こっちが戸野部でそっちが神崎や」
白鳥は眉間にしわを作りつつも、納得するようにうなずいた。
あれからかれこれ三十分。俺達は、白鳥から尋常ならざる質問攻めをされていた。ただでさえ怪我をして弱ってるっていうのに、こんなことで体力を消耗したくなかったのだが、苦労して答え続けただけに一応事態を飲み込んでいただけたらしい。
「にしても、心の入れ替わりが現実にあるなんてなあ。しかも、知り合いが入れ替わってるところを目にするなんて。世の中面白いことだらけやな」
「実際入れ替わった俺達は、全然面白くないけどな」
「見た目神崎でも、戸野部のツッコミは健在やなあ。あの、ツッコミ能力皆無の神崎にスパーッと言われとるみたいで、ちょっと不思議な気分や」
何かこいつ、俺達のことを見て楽しんでないか? 少し疑わしくなってきたのだが。
「でも、真面目な話、やっぱ医者にきちんと説明した方がええんと違うか? 治してもらえるかもわからんで」
「いや、それは……」
俺はすぐさま弁解しようとしたが、先に口を開いたのは神崎の方だった。
「無理だと思うけど。白鳥君だって、俺とトノちゃんのことをめちゃめちゃ取調べしてやっと半信半疑くらいでしょ? 赤の他人が聞いたところで、信じられるわけないよ。良くて要観察って感じで、最悪精神科に放り込まれて催眠療法とかになっちゃうよ。『あなた方は、頭を打った衝撃で自分が相方になってしまったと思い込んでいるのです』なーんて言われてね」
「ううん、言われてみればそうやな」
流石は神崎。俺よりいい大学を出ているだけに、きちんと筋が通ってる。滑らないコメントとかは壊滅的に生産できないくせに、こういう話だけは上手い。
「でも、それやったらどうするんや? お前ら怪我はたいしたことないやろ。売れっ子のお前らのことや。退院するなり、またアホほど仕事させられるで」
「あ……」
そうだ。そのことを考えていなかった。
俺達の事務所は、白鳥が所属する超大手とは違いかなりの弱小。今、売れ始めている俺達が復帰できそうだったら、オファーがくるなりすぐさま仕事を入れるはず。つまり、それまでに入れ替わり状態から脱却できなかったら。
「お前ら、このままやったらお互いの人格を演じるはめになるんやで。俺にあっという間に怪しまれるくらいや。心配でしゃあないんやけど」
「う……」
白鳥の言葉が、いちいち的を射ているので心に刺さって仕方がない。
「うん。俺も心配。だって俺達、全然演技とかできないし。それに、性格も真逆だしねえ」
神崎よ。そんなにまったりと冷静に考えている場合か。
しかし、それにしてもどうして俺達は入れ替わったりなんてしたのだろう。階段から一緒に落ちるだけで、こんなSFチックなことが巻き起こるとは考えにくいし。
何か、大事なことを忘れているような。収録の前に、俺と神崎は何かをしてたような……。
「どうした、神ざ……いや、戸野部」
「あのさ。俺と神崎、コントの収録が始まる前に」
「お、アカンアカン。そろそろ仕事や。じゃあ、俺行くわ。退院するまでに、戻れることを祈っとるからな」
「あっ」
肝心なことを聞き出す前に、白鳥は病室から去ってしまった。よく思い出せないが、とても大事なことのような気がするのに。
「何してたんだったかな、俺は」
「ねえねえ、トノちゃん」
「ん?」
のんきな声のした方を向くと、神崎が俺の顔で色々な表情を作って遊んでいた。喜怒哀楽らしきものではあるが、不自然にもほどがある。
「ねえ、どれが一番トノちゃんっぽいと思う? トノちゃんってば結構なむっつりスケベだから、そんな雰囲気をきちんと出さなきゃなあと思って研究し始めたんだけど」
「……」
こんな状態で相手に殺意を抱いた場合、自分の姿をした相手を殴るべきなのか。それとも、自分で自分の頬を殴るべきなのか。先駆者がいるのであれば、ぜひとも教えを乞いたい所存である。




