1・え、これ、どっきりじゃないんですか?
どんな理不尽なことであっても、身に降りかかった物事には必ず理由がある。そんな言葉を、耳にすることがたびたびある。
きっとあの時、俺の身に降りかかった出来事にも意味があったのだろう。例えそれが、誰の計らいなのかは、知るよしもないことであったとしても。
悲劇なのか、喜劇なのか。それすらもわからないことであったとしても。
「う……」
気がつくと、俺は病院のベッドの中にいた。頭に容赦なく走る激しい痛みが、現実に呼び戻されたことを教えてくれた。
(俺、一体……)
俺――戸野部優人は、見てくれは小柄で、地味で、パッとしないという三重苦を抱えたお笑い芸人。『ザ・ジャンプ』というコンビでツッコミを担当し、十年ほど活動してきた。最近はありがたいことに、多方面から仕事いただいている。
……それはともかくとして、何故俺は病院なんかにいるんだ。
「おお、気がつかれましたか」
影がぬっと差したかと思うと、目の前に見知らぬ男性が。白衣を身にまとっていることから、医者であることを察することができた。よく見るとその横には、看護師もついている。
「ちょっと失礼します」
医者はそう言うと、俺の目に向かってペンライトをいきなり当ててきた。まぶしくてかなわなかったが、どうも身体の自由がきかない。光を避けるようにして、目を細めることくらいしかできなかった。
「ふむ、問題はないようですな。神崎さん」
神崎? それは、俺の相方の名字だ。もしかしてこの人、お笑いをよく知らなくて俺と神崎のことを混同しているのだろうか。ある漫才の大会で好成績を収めて以来、かなり知名度が上がったと自分では思っていたのだが、やはり世間というのは厳しいというか何というか……ん?
「は……?」
何か今、視界に変な物が映ったような。
俺の横のベッドに、何か、とてつもなく見覚えのある顔。地味で、いまいちパッとしない無個性な横顔が見えた気がしたのだが。
「うーん?」
もぞもぞと布が擦れる音が耳に入ったかと思うと、これまた嫌というほど聞き覚えのある声がした。そして。
「いたたた……あれ? ここどこ? めっちゃ頭痛い……ふぁっ⁉」
「なっ⁉」
俺の横のベッドの中にいた人物と目が合うなり、自分でも信じられないような声を漏らしてしまった。
多分、誰でもこんなリアクションをとらざるを得ないだろう。だって、俺の横のベッドで寝ていたそいつは、紛れもなく俺自身だったのだから。
「ど、どうなってるんだ、これは。お、お前誰なんだよ」
「え? 何で俺が目の前にいるわけ? ええええっ!」
「お、お二人ともっ、落ち着いて下さい!」
慌てふためく患者二人を、医者と看護師が力ずくで取り押さえる。
有無を言わさず腕に注射を打たれると、俺の意識は遠のいていった。




