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日常  作者: 太郎
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先輩

 

「先輩! 大好きです」


 部室の前で仁王立ちで待つ先輩に向かって言うと、先輩は眼鏡の奥の瞳を柔らかく緩ませてから表情とは合わない台詞を吐いた。


「そんな言葉で僕を騙されると思ってるの? はい、今日遅刻した理由を言って」


 鬼のような笑顔が私を追い詰める。

 やっぱりダメだった。告白をすれば先輩を怯ませて怒られないかななんて考えていたのに、と剥れたらデコピンを食らった。

 女子に手加減しないなんて、なんて教育を受けたんだ。


「ふ、ふぁい。……電車が運休だったんです」

 追い詰められながら苦し紛れに嘘を言うが、先輩には通じない。

「嘘つき。電車は運休してない」

「ふぁ。ごめんなさい。……本当は寝坊したんです」

 それすらも嘘。だけど、先輩はようやく信じてくれたみたいで仁王立ちを止めて部室の扉を開けた。

「ふぅん。じゃあ、入って。部活始めるから」

「……はぁい」

 重い足を部室の中へと運ぶ。本当は行きたくないのに行かなくちゃいけない定めだからと、自身を奮わして何とか動かす。



 だって私は先輩が大嫌いだから。

 嫌いなんだけど先輩は私の大好きな先輩の双子の弟で、瓜二つだから命令に逆らえない。だって、先輩と同じ顔で悲しまれたら誰だって入るよ!

結果、先輩と二人だけの部活に入らされることになった。何故かは分からない。

 部活に入ったことで先輩の接点が増えて嬉しいけど……こんな鬼先輩と一緒に過ごすのが苦痛で仕方がない。

 今日だって寝坊したのではなく行きたくないから休もうとしたんだけど、先輩からのメールでやっぱり来ることになった。


『来ないんなら、来ないで良いけど分かってるよね?』


 メールを見た瞬間に眠気とか、うだうだした気持ちが吹き飛ばされた。

 あの人なら何を仕出かすか分からない。もし、愛しい先輩に要らぬこと吹き込んだりして嫌われたりでもしたら、と考えて家を出た。

 お陰様で冷や汗ダクダクだ。


 大体、何なのこの部活。天文部なんて誰が入ると思うの? 入らなかった結果の部員二人でしょ?

 先輩なんて早く卒業して欲しい。でも、それだと好きな先輩も卒業しちゃうから嫌だ。複雑な乙女心を持ってしまったわ。


「何で夏休みなのに先輩と一緒にいなくちゃいけないのー」

「聞こえてるから」


 心の声が出ていたみたいで先輩が優しく笑った。

 ぐわー、その顔大嫌い。愛しい先輩が私に見せる表情ににているから、大好きな先輩が親友のミカと付き合っている事実を思い出してしまう。


「だ、だって。……先輩だって夏休みくらい彼女と過ごしたくないですか?」

「彼女なんていないし。それに、僕は君とこうやっている方が好きなんだけど」

 先輩が一瞬目を反らした。頬が染まってる。

「えっと、それはどういう意味でしょうか。彼女がいないから私なんかでも女であれば良いってことですか?」


 先輩は私に近づいてきたから思わず身を反らす。そんな先輩そっくりの顔で近づかないで欲しい。

 条件反射で頬が火照ってしまうので。


「君って本当にバカだよね」

「先輩は本当に意味が分からないです」

「まだ分からなくて良いよ。僕が教えてあげるから」

「先輩のその上から発言好きじゃないです」

「今日はやけに正直だね。でもそんな君も」


 先輩はそこまで言ったところで口を押さえて私から離れた。先輩に火照った頬をバレてしまわないように、私も後ろを見る。


「私は、先輩のことは嫌いですけど、先輩のことは大好きですから」


 つまりは兄は好きで貴方は嫌いってことですよ。付け足そうしたけどそれは止めた。なんとなく、言わない方が良い気がした。


「ふふっ、知ってるよ」


 私の本心を知ってか知らずか微笑みを浮かべる、大嫌いな先輩の柔らかい声が響いた。



 そんな大嫌いな先輩との日常。




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