設定
「リカコちゃん。今日の放課後空いてる? 偶々遊園地のチケットが手にはいったんだよね」
学生服を着崩す彼は、リカコに詰め寄った。明らかなる故意の上でのデートの誘いに気付かずリカコはいつもの柔らかい笑みで返す。
「ありがとー、山本くん。でも、あたしなんかじゃつまらないから、他の人誘いなよお」
その言葉に内心喜びを隠しきれない男子が山本くんの肩を掴んだ。意地悪な笑みでリカコは渡さないぞと耳打ちしてから、わざとらしく言う。
「じゃあ、山本。俺と行こうぜ! 代わりに、リカコは俺と海に行こうな!」
「嫌、意味分からねーよ。突然海とか。でもって、リカコと一緒に海行くのは俺だから。お前は黙ってろ!」
「えへへー?」
二人が自分を奪い合っているとは思わずとぼけた表情のリカコに、私は思わずため息をついた。よくもまあ気付かずにいれるものよ。
ああ、紹介が遅れた。私はそんなモテ女子リカコを遠巻きに観察するだけのモブ、マミだ。
まるで王道乙女ゲームの様な展開を繰り広げているリカコの悩みを聞いたり、男達の微妙な調整を行ったり、地味な作業をこなしている。
リカコは至って普通で特別優れた点がある訳でもない高校生で、客観的には私と変わらないカーストだけれども、イケメンに言い寄られている。
不思議ではあるが、妬み嫉みはないし、羨ましいと思った事もない。これが普通。これがこの世界の掟、そう思えてくる。
何故かと自分に問えば、設定だから。という答えが浮かんだ。意味は分からない。自然と脳内に記載されている、そんな感じ。
「朝っぱらから元気だな」と、幼馴染のリクは呟く。
「いつもの事じゃん。彼らは年中発情期なんでしょ」
興味がないという素振りでリクは教科書を取り出した。子供の頃から知っているが、最近余計にガリ勉が板についてきた。
「リクはリカコの所に行かないの? 行ってみれば元気になれるんじゃない?」
リクは私を睨んでため息をついた。アホか、と口だけが動く。真面目に振ったつもりなんだけどな。
リクもリカコに言い寄る男の一人にしなくちゃいけない。リカコとの仲を取り持たなきゃいけない。何故か分からないけど、ふとそんな感情が沸いてくることがある。
それに従っただけなのに。
「僕はマミと一緒にいた方が落ち着くんだよ」
「んー……幼馴染だからかな」
正直私もリクと何気ない話して、笑って、遊ぶ。そんな子供みたいな一時を楽しんでいる部分はある。
幼馴染か、と呟くリクを他所に、リカコを見つめる。
イケメンに言い寄られている割にはクラスの女子から嫌われているって事もない、不思議な彼女。周りとは違う空気を感じる。雰囲気というか、話し方というか。
たまに見せる、私の心を読んでいるのかと思うような発言は少し気味が悪い。そこが彼女の人を惹き付ける才能なのか。
ふと、リカコと目が合った。一瞬目を丸くして、次第に頬を緩ませる。そして、イケメンAとBを置いて私の席までやってきた。
「マミちゃんって優しいよねえ」
「えっ、何で?」
突然の発言に、本気で驚いてしまった。
「だって、いつもお仕事してるし、周りの人を助けてるし、偉いよね。ねえ、リク君もそう思わない?」
リカコは私の隣の席のリクを見た。良かった、順調だと思う反面お腹の辺りを生ぬるい感情が蠢いた。
「いや、コイツ結構ワガママで頑固で阿呆で優しさの欠片もないけど」
「……うるさいなあ」
「あはは。良いな、二人とも仲良くって。マミちゃん、私とも仲良くしてね? リク君も」
リカコが握手を求めてリクに手を伸ばした瞬間、私の胸は黒い感情で満たされた。
「ダメ」
「えっ?」
「ん、いや。何でもない。気にしないで」
何を言っているんだ、私は。リカコとリクをくっつけなければいけない。そう思った筈なのに、邪魔してるじゃないか。私は応援しなければ。
そう。私はただのモブなんだから。
目を伏せる直前に、一瞬だけど、視界に眉間にシワを寄せるリカコがいた。気のせい。気のせいだ。
そんな、モブ設定の私の日常。




