婚活
「ヤバイヤバイヤバイ!! 今度の婚活パーティ近所でやるって! 参加しないと!」
ああ、また五月蝿いのがやって来やがった。
大声を発して俺にA4ポスターを振り回しながら覆い被さってきたのは、一つ年上の義理の姉であった。
義理というのは、彼女が父親が再婚した女の連れ子であるからである。
血はまったく繋がっていなく、親同士が再婚するまでは幼馴染みとして幼少から連れ添ってきたから距離感を誤っている。
嫌じゃないが、もう良い年した大人なんだから自粛すべきだと内心思いながらも、いつもなあなあになる。
「何だよ。どうせダメだろ」
「ダメ元でも行ってみなきゃ何も始まらないでしょ!」
「大体何でそんな結婚したいんだよ。まだ二十歳なったばっかりだろ?」
呆れて聞けば、お決まりの返事が返ってくる。
「私ね、女子校出身なの! 男性慣れしてないの! つまり行き遅れ確定! だから今から頑張らなくちゃいけないの!」
残念、残念すぎる。
正直彼女は整った顔をしているし、少しズレてる点を見逃せば性格も良い。
俺の友人に彼女の写真を見せれば、皆が皆鼻息荒くして絶賛するレベルの可愛さだ。
付き合いたい、逢いたいだなんて言い出した奴もいたっけ?
写真を見せたのはあの一度だけだ。もう、二度と見せる気はない。
シスコンとかじゃなく、なんか、気にくわないから。
「じゃあ、俺は男じゃないのか? 普通に話せてるだろ」
「あんたは例外なの」
キッパリと、俺を見据えて言う。
「へえ」
その顔は好きだ。真面目な表情で、真剣に物事を考えている感じが堪らなく好きだ。
けれど、そんな時は決まって俺の望まない事を言うのだ。
「だって、ちっちゃい頃からずっと遊んできたし、何より弟じゃない」
弟、ねえ。
別に俺はあんたを姉扱いした事はないし、ましてや弟扱いして欲しいとも思わないんだよ。
あんたは知らないだろうけど。
トゲトゲと暗い気持ちに蓋をして、皮肉めいた笑顔で彼女の無垢な言葉に対抗する。
「そうやって身近な選択肢を潰していくから貴女は結婚出来ないんだよ」
「身近な選択肢? 何の事?」
鈍感とか、フィクションの中だけにして。
現実でされるともう、イライラしてくるんだよな。特にそんな艶めいた視線を向けられると更に。
「気付かなくて良い。どうせ分かった所であんたはどうも出来ないんだから」
「あっ、私の事あんたって言ったー。酷いんだ。お姉ちゃんって呼びなさいよ」
「やだね。つーか、一回も呼んだ事ないだろ?」
「……うん。確かにそうだね」
腕組み、頭を傾げて笑った。あー、この顔も好きだな。なんて考えながら彼女の全ての表情が好きだということに気がついた。
アホか、俺。
恋する乙女ごっこなら他でやれよ。
「で、で、で! 今度の婚活パーティーの条件に大人の礼儀を弁えた女性って書いてあったの! どうすれば良い?」
「どうもこうも、自分らしく行けば上手くいくだろ」
「自分らしくって言われても……初めての婚活パーティーでいつものテンションで行ったら散々な結果になったの覚えてる?」
「覚えてるよ。俺もいたし」
強制的に連れてかれたからな。
大体彼女は分かってないだろうけど、始めから男と親密な関係で会話している女に誰も手を出しゃしないよ。
あの時の彼女は緊張していたから解す為にも、肩を叩いたりした。
初対面(他の連中はそう思ってた筈だ)数分にして、肩を叩く関係になった二人に周囲は俺らに関わらなかった。
最初は乗り気ではなかったが俺の存在で全てがダメになったのだから、結果オーライとはこの事だ。
「もう二の舞は嫌なの。今度こそ、結婚するの!」
「じゃあ、俺がプロデュースしてやるよ」
それはもう、男が寄り付かない様なスタイルに仕立ててあげますよ。
最後に俺が横に立ってりゃ完璧だな。
他の男と結婚だなんて、絶対にさせないからな。
「本当!? ありがとー。やっぱり、頼りになるのは弟ね」
「うっせ」
がばっと何も考えずに抱き付いてくる戸籍上の姉を軽くあしらいながら、頭を掻いた。
照れ隠しである。
しかしまあ、阿呆みたいに鈍感な姉は分からず「どんな服が男受けするんだろ」だなんて言ってやがる。
人の気持ちも知らないで、よく言うよ。
このう。
「じゃー、姉さんを俺の神業で驚く位の美人に仕立ててあげますか」
「わーい。わーい。って、もう美人だしっ!」
「よく言うわい」
ビシッとデコピンを食らわせてやった。くそう、痛がる顔も可愛いぞ。
「やれやれ」
いつになったら気付くのかね。この、鈍感義姉は。
もう俺に協力を求めた以上は、答えが一択だっつーのに。
くっそ、こうなったら外堀を埋めてハッとした時には、ゴールインエンドにしてやる。
そんな、絶賛婚活中の姉と俺の日常。




