初恋
「十三年と五ヶ月二十日……か」
もう、あれからこんなにも日が過ぎたのか、とカレンダーに印を書きながら考える。
あの日彼女と会った日から数え始めて、僕はもう十八になった。
彼女も同じく十八歳だ。
同じ年齢、同じ誕生日なのだ。運命を感じるだろう? というか、彼女と僕は結ばれる運命なのだよ。
さてさて、今日も運命の相手のチェックを致しましょうか。
ヴィン。テレビを起動させれば、テレビのアナウンサーが、貼り付いた笑顔を振り撒きながら星座ごとのラッキーカラーを告げる。
「あ、今日の彼女のラッキーカラーは緑色か。なら、いつでも貸せる様に緑色アイテムを持ってこう」
緑の傘に、緑の消しゴムに、緑のペン。貸すんじゃなくてあげるんでも良いけど、彼女は喜ぶかな?
僕は赤だった。
単純な色だ。彼女と僕が揃ったら毒々しい事、甚だしいではないか。
と、思いつつも占い通りに赤いペンを筆箱に入れる僕は、占い狂信仰者だ。
「おはよう」
「んっ、おっはよー」
教室に入れば、皆と元気に挨拶する彼女が目に入った。今日も変わらず可愛い。
まさか高校三年生になってようやく彼女と同じクラスになれるだなんて思ってもいなかった。光栄だ。
態々、彼女の為に二個もランク上げして同じ高校に進学した甲斐があった。
しかし僕は気軽に彼女に話し掛けれる程優れたコミュニケーション能力を持ち合わせていないので、泣く泣く静かに席につく。
ああ、長い長い初恋はいつまで経っても報われそうにない。
「あ、山口くん。おはよ」
思考停止。緊急事態発生。緊急事態発生。速やかに、声帯始動せよ。
初恋の彼女が挨拶をしてくださった。さて、僕はどう対応する?
一、笑顔で「おはよう!」
二、笑顔で「おはよう、今日も可愛いね」
三、笑顔で「今日のパンツ何色じゃああああ!!!!!!!!!!!」
ムリムリムリムリ、ダメだよ。 ちょっと待て。何事も普通が大事だよ。普通に普通に普通に!!!
「お、は……よ、う」
「そう言えば、ミキちゃん? 私ね、昨日ね。アレ見たんだけどー」
返事出来なかったぁあああああ!!
つ、つまり彼女からすれば僕は無視した事になる。いや、無視してないからね。必死に返事考えてただけだから!
きっと僕の弁解は届いてないだろう。ミキだかミカだか知らないが、彼女の友人と楽しげに話している。
彼女の、神をも唸らせる程の素敵な笑みは僕に向けられていないが、彼女が笑顔というだけで幸せだ。
彼女が幸せなら僕も幸せ。確かにそうだ。だが、彼女が幸せになる一因に僕が入っていれば、尚幸せなのだ。
これは我儘か? きっと、叶う事はないだろう。
机から本を取り出して、前回まで読んだ所を開いた。先々週から、栞の位置は変わってない。
何故か。本を読むフリして、彼女を盗み見ているからだ。
彼女は、まだご友人と話している。時折、「やだー」なんて大口開けて笑って、友人を叩いたりする。
大口開けても美人だ。いやはや、彼女は精霊か天使じゃないのか?
彼女が話しているだけだというのに、彼女の周囲は清潔で澄みきった空気が漂っている。
しかも、数名の男子が他の奴と会話してるのにも関わらず、「あー、首いてー」なんて誤魔化しながら彼女を見ているのを知っている。
誰よりも彼女を見ている僕だからこそ、分かる。
分かった所で、僕もアイツ等と同じただのクラスメートだから、何も出来ない。
ただ彼女を見守るだけ。行動出来る奴が羨ましい。鷹津の様に――
「よっ! 山本さん、元気ー?」
「おはよ、鷹津くん。今日も元気だよー」
噂をすればナントヤラ。颯爽と教室に入ると、皆に挨拶しつつ然り気無く愛しい彼女の肩を叩いた。
ミカちゃんとやらが黄色い歓声をあげて、挨拶されてもないのに鷹津に「元気!!!」と返事している。
ミカちゃんさん、何だか僕と同じ雰囲気を感じるよ。
「じゃあ、今日も部活終わり、いつもんところ来てね」
「こ、ここでそんな事言わない約束でしょっ?」
彼女は頬を赤らめ、頭を振った。
カモフラージュでも本を読んでる場合じゃない位に可愛い。愛しい。
けれど、その表情をさせるのが鷹津という事に心底腹が立つ。
その気持ちは僕を含めた密かな山本さん親衛隊にも宿っていて、皆が鷹津に殺意の念を送る。
僕も送った。
すると、鷹津と目が合った。ニヤニヤ、人を小馬鹿にする様に笑っている。
ああ憎い。
「よっ。山口。元気か?」
「お前のお陰で朝から元気で死にたいよ」
昼休み、鷹津がニヤニヤしながら近付いてきた。
しかし、無下には出来ない。顔の整った人気のある奴だからという理由もあるが、第一に従兄弟だからである。
幼い頃、鷹津が目障りで無視したら母にチクられ散々怒鳴られた。叱られるのが怖いのではないが、怒られるのは懲り懲りだ。
「だろうな。俺に感謝しろ」
「鷹津、いつか刺されるぞ。僕は知らないからな」
「はーあ。良い話を持ってきてやろうと思ったんだが、止めた」
「何だ。勿体振るな」
「仕方がないな。……なーんて嘘だよ。ばーか。本当は男子達に嫌われるのは山口なんだからな。俺が皆の嫌悪を受けてるんだから感謝しろよ」
「意味分からないよ」
子供の頃からそうだ。鷹津は意味の分からない事を言う。
そうか。現実世界を充実している奴だから、話が理解できないのか? このう。
「分かったら、山口、ショックで死ぬと思うぜ」
「はあ」
「ま、本人の口から言わねーとな」
核心を濁して、鷹津は置き土産に意地の悪い笑顔を僕に与えてから立ち去った。
コイツが幼馴染みかつ従兄弟じゃなかったら、完璧無視していたが、仕方がなく僕も笑みを返した。
不馴れで頬が引きつる。痛い痛い。
まさか、彼女が僕と鷹津のやり取りの一部始終を見て一喜一憂してただなんて、僕は知るよしもない。
そんな、初恋を拗らせすぎた僕の日常。
実は主人公の好きな女の子も主人公が好きでぷちストーカー化。なんて、裏設定は文章中で盛り込まれないとただのゴミですね。




