兄妹
「お兄ちゃぁん。私の足揉んでぇー」
はぁ。遠くから妹の声が聞こえる。
彼女は運動系の部活に入っているから、足が疲れるのは分かるけどわざわざ僕に揉ませる意味が分からないんだけど、彼女の頼みなら仕方がない。
「はーい」
自分の部屋から出て彼女の部屋に向かうと、足をぱたぱたさせる音が聞こえてきた。
今日は、ヤバイな……今日の彼女は何か怒られたのだろう。苛々が貯まっているからこういう時の彼女の足を揉むのは嫌なんだよ。とぼやきながらも彼女の元へ。
――ばしっ。
扉を開けた瞬間、彼女が読んでいたであろう雑誌が顔にぶつかり落ちた。ううん、痛い。
「……遅い」
ベッドの上でいつもよりも激しく睨みを効かせてくる彼女に、別に投げなくても良いんじゃないの?と一言申したかったけど僕には出来なかった。
「ごめんね」
「お兄ちゃんのくせに私を待たせるなんて100年早いわよ」
「じゃあ、一生僕は待たせちゃダメなんだね」
「そんなの当たり前じゃない」
至極当然な顔で彼女は言うけど、それは普通の兄妹では普通なことじゃないんだよ。
「ほら、そこにいないで早く私の足揉んでよ」
「はいはい」
「はいは一回って何回言えば分かるの? この愚兄が」
「はい。足だして」
「ん」
「ぐっ」
予想外のことが起こった。彼女の足が僕の頭の上に乗っかったのだ。勿論、彼女の故意で。
ああ、彼女が意地悪な顔でにやにやと笑っている。彼女はスカートを履いているうえにベッドの上にいるから中は見えているんだけどね。
別に望んでもいないからここで僕を興奮させないで(妹とか関係なしに思春期なんで辛いんですよ)欲しいんだけど、と彼女に文句言いたい。
「あらぁ、私の足が長すぎてお兄ちゃんの頭の上に足が乗っちゃったぁ。ごめんなさぁい」
「今日は部活で何があったの?」
「……お兄ちゃんは、やっぱり私のことが好きなんでしょ。じゃなかったらそんなに私のこと分かるはずない」
まあ、妹として彼女のことは好きだけど。それに妹の態度の変化がありすぎて、機嫌が良い日と悪い日の違いはすぐに分かるよ。
恐らく僕じゃなくても分かると思う。
「僕はお兄ちゃんだからね」
ふふっと笑うと彼女は不快そうに顔を歪めた。
「キモい、笑うな」
速攻で攻撃してきたから、彼女の怒りが最高だってことを理解した。
「ごめんね」
「謝る暇あるなら足揉んでよ」
「はぁい」
今度は彼女の言う通りちゃんと一回にしてあげた。
彼女の足を僕の頭からどかして、僕の膝の上に置いた。今の季節は冬なために彼女は黒タイツを着用しているから、物凄く揉みにくい。
それにタイツって蒸れるから彼女特有の汗の臭いがするから好きじゃないんだよ。なのに揉ませる妹は鬼にしか思えない。
これで妹が究極な不細工だったら僕もこんなに素直に言うことを聞いていないんだろうなぁ、と今更ながら思う。
妹は僕と同じDNAが流れているのか不思議に思うほど美しい顔立ちで、こんな仕打ちをされてもその美貌のせいで少しは気持ちが和らいでしまうのだ。
全くもって僕の感情の問題なんだよね。
「ねぇねぇ、妹にこんなことされてあんたはどんな気持ちなの?」
足を揉んでいる僕の上で彼女は楽しそうに聞いてきた。何で楽しそうなのかは分からないけど、毎回こうやって聞いてくるのだ。
答えはいつも同じ。
「勿論、嬉しいよ」
心の底から嘘だけど。僕はそんな性癖は持ち合わせていないし、嬉しいと思ったこともない…が、こう返事をしないと彼女は怒るのだ。
「ふぅん。変態」
にやにやと嬉しそうな笑顔を浮かべて、何がそんなに彼女を喜ばせるのか分からないよ。お兄ちゃんは妹の将来が心配だ。
「だね」
同意すると彼女はなお上機嫌になった。
そんな意味の分からない妹との日常。
イラストは某紳士様に描いていただきました。クリックすると元のサイズのイラストが見れます。
ああ、ありがたや……