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日常  作者: 太郎
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遊戯

 

「意味は『遊び戯れること。遊び』だってさ」


 彼女は辞書を掲げながら言った。

「そのまんまの意味だねぇ」

 転がる彼女の横まで僕も転がって移動した。そして、その返事に「そうだねぇ」と口調を真似して言ってみた。


「でさぁ、どうして『遊戯』の意味を調べるって話になったんだっけ?」

 彼女の細すぎる腕に耐えきれない重さの辞書をぺいっと放り投げて、彼女は首を傾げる。

 んーむ、それは僕にも分からない難問だ。だって、今まで、何も会話なんてしてなかったよね? だから貴女が突発的に調べだしたんだと思うけど。

「さぁ?」

「だよねー。何でだろうねー」

 それは自分自身に聞いて下さい。

「あっ、そうだー、思い出した!」


 横になって枕に顔を埋めていた彼女は突然顔をあげて、叫んだ。

 少し驚いて心臓が口に出そうになったとか、格好悪いことは彼女には告げずに平然と聞く。


「ど、ぅしたんだい?」

「どうしたの? は、君に聞きたい言葉だけど。じゃ、なくって。思い出したことを言うつもりだったの」

「ほう?」

 あくまでも冷静に聞き返す。

「私はね、君と『遊戯』がしたかったの!」

 えっへんと胸を張る彼女。しかし、残念ながら寝そべっているせいでそれはエビ反りにしか見えない。

「『遊戯』を? どうして? そもそも遊び戯れるってどうやって?」

「んー。詳しいことはよく分からないのだ。取り敢えずこれを読めば分かるから、はい」


 面倒くさそうにゴロゴロと転がって彼女は本棚の前まで移動して、また本を取ったら転がって帰ってきた。

 最初の頃は彼女のこの転がるという移動手段に驚いたものだが、慣れるとどうってこともなくなった。

 そして、渡された本を手に取り表紙を見ると…


「『監禁○遊戯』? タイトルからして危ないんだけど」

「むむっ。私のバイブルをバカにするでない」

 R指定のピンク本をバイブルにする人をバカにしない人の方がバカになってしまうのだが、とか彼女の頭がこんがらがる様なことは飲み込んで取り敢えず読むことにした。


 絵は可愛い。内容は可愛い。正直面白い。だが、一つ以上に気になることがあるのだが。

「ねえ、貴女はこれと同じ様な『遊戯』をしたいの?」

「うん!」


 盛大な頷きと、笑顔が返ってきた。いや、そうじゃなくて内容分かってそれを言っているのかい?

 この本と同じことっていったら結構アダルトだよ? ピーや放送禁止用語やモザイクが飛び交うことになるよ? それでも良いの?

 てか、これは彼女なりに遠回しに誘っていることになるの? それとも、何も分からずに楽しそうだからやってみない? って誘ってるの?


「ぐはっ」

 考えすぎて疲れた。

「君、攻撃されてもいないのにどうしたの?」

「どうしたのは貴女への台詞だよ」

「んむむっ。君は頭が固いなー。もっと柔軟にいかないと、柔軟に」

「では、どういうつもりで言ったの?」

「堅苦しいぞう出てきちゃうよ。取り敢えず、手ぇ出して」

 堅苦しいぞうって誰だよ。とか考えながらも両手を前に出すと――ガチャリ。先程の漫画で見たような光景が繰り返された。


「何、これ?」

「んー。君がうだうだ五月蝿いからね。つい」

「動機を聞いてるんじゃなくて、僕はこの両手を縛り付ける金属の物体について聞いてるんだけど」

「あれ? 君は『手錠』すら知らないの?」

「知ってるよ。馬鹿にしないでいただきたい。ただ貴女の部屋にあるべきものじゃないから、不思議に思っただけで手錠という物体は知ってるよ」

「あー、良かった。私の彼氏が手錠のことも知らないお馬鹿さんにならなくって」

「僕は平然と彼氏に手錠を掛ける様な彼女を持って良いとは思わないけどね」


 ちゃらん、僕が動く度に響く金属の擦れ合う音。


「で、漫画の様なことをしたいの?」

 彼女に聞くと彼女は最高の笑顔を見せてくれた。

 可愛いよ、可愛いけどこの状況下で見せる様な笑顔じゃないよね。まあ、可愛いから良いけど!


「じゃー、しますか」

 漫画の中では女性の方が男性に手錠をかけられて監禁されていたけど、まあ、逆も良いんじゃないか。

 あーんなことや、こーんなことをされる訳ですがね。



 そんなバカップルじみた僕と彼女の日常。


 (断じてバカップルとは認めないが)



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