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わたしの夢

作者: 広瀬六

わたしの夢は、単純明確に言うと物書きだ。

物書きと言っても、ただ自分の好きなものやセンスのあふれるものを書いて、たくさん印税もらってご飯を食べていられるような物書きにはなりたくない。

その理由は、人に忘れ去られるような人間になりたくないからだ。

たとえば、

子供の頃に見たアニメがわたしたちの世代から母親、父親の世代の記憶に残るように、

 色とりどりの絵本が、孫の世代にも読み継がれているように、

 子供と大人が楽しめるゲームが世代を超えてあるように、

 誰が聴いても胸がきゅんと詰まる恋の歌が街中で流れるように。

 そんなの無理に決まってるじゃん、ってご覧なっている方々は思うかもしれない。

 

そんなの頭では理解しているけれど、それでも心が理解できない。

 無理といっても叶えたいんだ。

 これからそう思うようになったきっかけになったお話を、ひとつさせていただきたいと思う。


 あたしがそう考え出したときは、真っ赤なランドセルを背負い、校門の坂道を全力で駆け上がっていた小学生の時だった。

 

 今よりも小さかった体に、痣をたくさん作って、泣きながら帰っていた。


わたしは、多くのクラスメイトから俗に言う「いじめ」を受けていた。


そんな時に、振り返ると、わたしと手をつないでくれる大事な大事な、友達がいた。

 グランドを駆ける入道雲。

 緋色の空を覆う夕焼け。

 お祭りのやぐらの間から見た星空。

 失恋に涙を詰まらせるあの子の声

 教室じゅうに響く楽しい声。


 終わりが無い日々だとだと思った。

このままずっとわたしは、子供のままいつづけられると思った。

 別れが近づく秋頃、わたしの心には小さな不安が生まれていた。


 「もし、このまま仲間と離れてしまって、またひとりぼっちになってしまったらどうしよう。」


 最初は胸の置くにぽつんと置かれた感情だったのに、日を重ねるごとにその不安は少しずつ、少しずつ大きくなっていた。

 

 別れ。それは人生において必ず無くてはいけないもの。

当たり前の事なのに臆病なわたしはそれが怖くて怖くてしかたなかった。

 寝床に入る前に、どうかどうか今日が終わりませんようにと、毎晩声を押し殺し泣いた。


クラスメイトにまた囲まれて、

 また痣ができるほど

 蹴られ、

 殴られ、

 叩かれ、

 水をかけられ、

 そんな毎日が続くんじゃないかと、考えただけで胸が苦しくなった。

 生きることに血迷った。

またこれから、地獄のような日々とひとりで戦うようになるのか。

またひとりで、図書館の椅子に座るようになってしまうのか。

また誰とも話さず、机の上にぷっつ伏し泣くようになってしまうのか。

 

そんなの、あんまりだよ。

そんなになるんなら、もう生きる意味なんて無いんじゃないかな。

 なんにも、楽しいことなんて無いんじゃないかな。


 仲間には吐き出せない痛みが、わたしの心を駆け巡っていき、

 もうこの鼓動さえ止めてしまおうと思った。

 「生きること」から逃げてしまおうと思った。


その時、

 やさしい人が、わたしに手を差し伸べてくれた。

 その人は、物語や言葉を紡ぐ人だった。

 その人は、とっても弱い人だった。

 その人は、そのくせ、とっても強い人だった。

 曲がった背筋に似合わない、強い強い、折れない芯を持った人だった。

面影はまだまだ遠かった、でも今でも鮮明にその日のことをはっきりと覚えている。

社会の荒波に汚され、大人に近づこうとしている今でも、

どんな写真よりもしっかり、はっきり、くっきりと覚えている


 真っ赤なランドセルを背負っていた、あの日のことを。


 その人は、無数の言葉で、わたしの震えている背中をそっと包みこんだ。

 そして、声にならない声で、言った。



「大丈夫だよ、離れてしまっても、みんながついてるでしょ?

生きるって、とっても孤独で、さみしいこと。

それでも、それを乗り越えれば見える景色は違うはずだよ」

 

その人も、孤独と戦っていた。

心を痛めるようなさみしさや悲しみと戦っていた。

小うるさい社会の波に流されながら、

腐った世の中から抗いながら、

ただただまだ見ぬ誰かのために、必死に生きている人だった。



 その人と出会ってから、あたしの心に、もう迷いの欠片さえもなくなった。

うん、別れなんてほんの一瞬だ。

みんな別々の道に進むとしても、きっとあたしを見ていてくれる

いつも泣いていた自分を振り払いたい。


だから、一歩、踏み出さないと。

 さみしさをふりはらい、残りの何ヶ月間、仲間たちと

なにひとつ悔いを残さないように、


 たくさん笑って、

 たくさん泣いて、

 たくさん怒って、

 たくさん遊んで、

 毎日廊下に笑い声が響いて、先生に怒られるぐらい

 笑って、笑って、笑って、過ごした。


 そして真新しい制服を着て、校門の下の桜のつぼみがそっと芽吹く頃、

わたしにひとつ、目標ができた。

 何も無い、ただの抜け殻のようにからっぽだったあたしに、

「絶対叶えたい」

という、強い強い、望みが生まれた。

 わたしの夢は物書きだ。物書きといっても、ただの物書きではない。

自分のセンスとか才能だとかなんだかを繰り出して、お金をもうけて一生食っていけるような人にはなりたくない。


 誰かの心によりそって、

 誰かのさみしさを分け合って、

誰かの感情に投げかけて、

誰かの生きる力になって

誰かの背中をそっと押すように。

誰かの行くべき道を照らして。


そして、

白い海辺のわた鳥が、

遠い遠い海の向こうに飛んでいくように

わたしの物語や言葉が、

世界中の人たちの、心に届くように、

幸せな気持ちになれるおとぎ話が、

大人も子供も関係なく、

読み継がれているように。

 

心の底で色あせない「宝物」のような物語を

腐った現実に迷える

こんなにも多くの人たちに手渡せるような、

そんな魔法使いのような、物書きになりたい。

そんなこと、神様しか、できないかもしれないけど、

絵空事を呟いているようにも見えるかもしれないけど。

 そんな人、星の数ほどいるかもしれないけど、

わたしは人より色々つらい経験をしてきた分だけ、

乗り越えてきたものも多いし、その分だけ自分が輝けるチャンスになると信じている。

 これからも苦悩や葛藤が行く手を阻むかもしれないけど、

また乗り越えていけたら、また新しい世界が見えてくるかもしれない。


 結局叶わずじまいでも、わたしは絶対に後悔しない。

だって、この夢のおかげでここまで生きてこれたから。


 

時は巡って流れて、あの日から五年ほどの月日がたったが、わたしはあの日、あの時の自分の背中より大きいランドセルを背負ったまま、

小学校の校門に向かうわしと何も変わってないのかもしれない。

 悪い風に言ったら、体だけどんどん大人になっていって、心は何も成長できてないのかもしれない。

 

 こうやって、現実見れてないところとか、

 おっちょこちょいなところとかね。


だけど十六歳の今、見えるもの感じるもの、すべてが未来の自分につながっているように思えてきた。

 まだ人生の半分も生きていないけれど、

 つらいこと、

 悲しいこと、

 孤独なこと、

 いやなこと、

 裏切られたこと、

 過ちを犯してしまったこと、

語り尽くせないほど、息をするのも苦になる時もあった。

みんなのいる教室で、ひとりでぽつんと座る時もあった。

刃物を手首に当ててしまった時もあった。

夜の冷えた空気の中、ひとり息を押し殺して泣いた時もあった。


 胸の奥が擦り切れ、このまま消えてしまいたいと思った時もあった。

 それでも、

あの頃の仲間たちのこと、

その人のこと、

夢のこと、

そして新しく出来た仲間たちのことを考えると、

何度も壊れても、その分立ち上がることができた。


そう心から思える十六歳の今、こうやって画面の向こう側の

皆さんと接することができることがとっても幸せに思えます。


わたしのことをよく思わない人もいるかもしれない。

けれど、あたしはあなたの心に手を差し伸べられるように、

何度も何度も、がんばりたいんです。

だから、横目でもいいので、見守っていただけたら幸いです。

どんなことがあっても、また時間が経てば立ち上がるので。


 過去の泣いてばかりの弱虫な、自分がいるから

 今のあたしがいるように、

いい出会いも、悪い出会いも、

自分の糧にしていきたいと、強く強く、思います。


 そして、こんな文章を何年か後に読み返して、

「ああ。恥ずかしかったなあ、痛かったなあ」

 って、思って赤面してしまうような、

いまより心も身体も一回り大きくなった自分に出会いたいです。


 そして、何年、何十年か後に読み返して、

「そんな魔法使いのような人になれたのかな」

 って、微笑んで画面を見つめられるような、

そんな素敵な「自分自身」という物語に出会いたいです。








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