2 月は1つで十分です。
目の前で倒れたその人が、血まみれであることに気が付くのに、そう時間はかからなかった。
「きゅ、救急車ーっ・・・アカン!圏外や!」
痛みを訴える体にムチを打ち、駆け寄る。服を脱がせ、傷を確認する。
血まみれの格好から、かなりの怪我を覚悟していたのだが、確認してみると、傷は左腕の切り傷だけだった。・・・傷は深く出血量はかなりのものだったが。
とりあえず、着ていたカーディガンを脱ぎ、左腕にきつく結びつけ、止血を試みる。それから、脱がせた上着をなるべく血がついていないところが表面になるように丸め、その人の頭の下に置く。
手当ての仕方なんて知らない。合っているのかもわからない。けれど、何もしないのは嫌だった。
「・・・死にませんように。」
少しの間、目を瞑って祈った。
その後、限界を訴える体を引き摺って近くにあった湖でハンカチを濡らす。その人のところに戻って、丁寧に血を拭いていく。髪まで丁寧に。
はじめて見る銀色の髪は、月に照らされてとても綺麗で、血で黒ずんでるのはもったいないと思ったのだ。
「・・・今日は運がえんか悪いんかよくわからん日やなー。」
2回も死にかけたと思えば運が悪いのかもしれないが、その2回とも助かったので、運が良かったとも言える気がする。でもーー
「2度ある事は3度あるってゆーからなー・・・」
あたしは、男の人(だという事が判明した)の腰にある剣に視線を落とした。
「・・・血まみれで剣ぶらさげてるって、ただの危ない人やん。」
この人が良い人なのか悪い人なのか、わからない。この人が起きたら殺されるかもしれない。
でも。
この人がどんなつもりで狼を追っ払ってくれたのかはわからないが、あたしが助かったのは確かだ。
「助けてもらった命やしなー、この人に殺されたら殺されたでしゃーないかー・・・」
いや、仕方ないことはない。ないのだが。
1日に2回も殺されかけると、感覚が鈍ってくるのかもしれない。
夜空を見上げる。
「・・・月が2つあるとか、ギャグかよ。」
きっとここは、今まであたしが住んでた世界とは違う。そう認めざるをえなかった。
だからあたしは、右も左も分からない、きっと知ってる人もいないこの世界で、誰かに縋りたかった。助けた本当の理由は、そうなのかもしれない。
「・・・最低か、あたし。」
弱くて、無力で、誰かに縋ろうとしている。
情けなさに視線を落とした。
「ーーおい。」
ふと聞こえた声に視線を上げる。周りを見渡すと、少し離れたところに、剣を持った男が3人、こちらを見ていた。
「・・・はい?」
「その男の仲間か?・・・まあ、いい。その男から離れろ。そしたら命だけは助けてやるよ。」
男達はそう言って、ニヤニヤしながら歩いてくる。
命だけは、ね。それ以外は助からん訳ね。・・・逃げる?この人を置いて?んなアホな。どっちみち、あたしの体はもう限界や。ちょっとも動かん。・・・なら、出来ることは1つだけや。
無意識に、倒れているその人の腕を握った。
「・・・嫌や。あんたらがどっか行ったら?」
とりあえず、口で反抗。睨みのオプション付で。・・・しょーもないけど、これが今のあたしに出来る精一杯。
「・・・ごめんなぁ、守ってあげれんで。」
その人に小さく謝罪した。
助けてもらったのに、助けられなくてごめんなさい。
握っていた手に力を込めた瞬間、その腕が動いた気がした。
「ーーえ?」
紫色の瞳が、こちらを見ていた。
上半身を起こしたその人に、起き上がって大丈夫なん?とか、目の色綺麗やなーとか、言いたいことはたくさんあったけど、とりあえず。
「・・・目ぇ覚めて、良かったぁ・・・」
すいませんけど、もう限界っす。倒れてもいいですかーーー?
そして、あたしは意識を手放した。