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 第8話   はじまりを告げた記憶

 その夜は、それでお開きとなり、各自使う部屋を決め、そのまま就寝ということに。

 朝、皆が置き次第また居間へと集まって話を聞こうということに。



 僕が起きて居間に足を踏み入れると、そこにはまだ誰もいなかった。

 余りうろうろするのもあれかな?と思いここで待っていようかそれともそんなことは気にするなと言われているのだから色々見ておこうかさてどうしようと考えていると、何処からか物音が聞こえてきた。

何処から?何の音?と気になりふらふらと歩いていると、家の外、少し開けた場所にマンジおじさんがいるのが見えた。


「おはようございます、マンジおじさん。何してるんですか?」


「おう、坊主。起きるのはえぇな。マンジお兄さんは朝の鍛錬ってやつだ」


 することも無いので少し見てていいですか?と聞いてみると、問題ないという返事を貰ったので、僕はその辺の草の上に座り込むと、其の言葉に甘えさせて貰って皆が起きるまでここに居ようと決めた。

 




 不意に視界に影が差し、振り向いてみるとマルスさんが立っていた。


「おはよう、ヤト。ふたりとも早いな」


 僕も挨拶を返し、マンジおじさんの方へ視線を戻すと、朝の鍛錬というのはもう終わりなのか、此方へと近づいてくる。


「おはようさん。マルスの旦那。揃ったのかい?」


「おはよう、マンジ殿。もういいのか?」


「ん?あぁ、あれはただの時間つぶしだ。気にしないでもいい。それとその呼び方もなんだな。マンジでいいぜ?そっちのほうが慣れてっからな」


「そうか。ならこちらもマルス、と。軽くなら食べるものもあるが、どうする?先に食べておくか?」


「そうさなぁ。どう考えても軽い話し合いじゃ終わんねぇだろうし。あるなら先に何か食っておくか」


 そうして三人で歩きつつ話しながら食堂へと向かうと、少し送れてエリーセさんもやってきた。





「さて、此方へと来た経緯は大体聞いているが。もう少し詳しく聞きたい」


 再び居間へと戻ると、マルスさんは表情を改めて口を開いた。


「まずは、そうだな。エリーセ。そちらの、世界、というのか。そこにある魔法という力には、誰かを何処かへと送るような類の物は無いのか?」


 マルスさんがエリーセさんへと疑問を述べた。

 エリーセ、と名を呼び捨てにした理由は、彼女がそれで言いと言ったのと、そうしたほうが僕にも判り易く会話もし易いだろうという理由。それに頷いた二人は今後そうすると告げ、ではこちらもということに。


「聞いたことは、ないわね。私も全てを知るわけではないけど、それでもそこまでのものとなると。さすがに人の域を超えた力であろうとしか」


「そうか。なら、マンジの世界ではどうだ?」


「うーん。俺んとこも同じだと思うぜ?妖力ってのがあるのは知ってるが、それだとて火を出す風を起こす、まぁ出来てもそんくらいだって話だし」


「…それですら驚愕ものだがな。となると、そこには手掛かりは無しか」


「うん?坊主はどうなんだ?」


「僕?」


「おう。ん?坊主はもしかしてここの世界の奴なのか?」


 其の言葉に僕も首を傾げる。

 確かに僕はこんな場所は見たことも無いし聞いたことも無いけれど、それは只あの場所から出たことが無いだけで。あそこから外に出ていたらどんな場所だったのかというのがわからない。

 そうである以上はもしかしたら別の世界とやらに住んでいたのかもしれない。

 でもどうなんだろう、とうんうん唸りながらもそれを口にしてみた。


「成程な。それじゃわかんねえか」


「隔絶した場所に、外の情報もなしだとね」


 そんなエリーセさんとマンジおじさんの頷きと共に零れた答えに、マルスさんだけが首を横に振っていた。


「ヤトはこの世界の人間だろう。昨日いっただろう?手掛かりとなるかもしれないものがあると。其の名は今では秘匿されていることなんだが。何故かそれをヤトの口から聞いたからな」


 それで視線が集まるのを感じる。それでも同時に頭に乗るせられた何時もの暖かさに、少しほっとしつつもどうしたらいいのだろうとマルスさんを見上げる。


「ヤト、俺と出会ったとき、あの時は途中になったが、あの話を聞かせて欲しい。覚えている限りでいい。出来るだけ詳しく。

 それと、マンジにエリーセ。これから話すことはここだけの話、ということにしてほしい。昔それで国が滅んだ歴史があるからな」


 其の言葉に続けて、マルスさんが力強く頷いた。首をめぐらせて見ると、エリーセさんもマンジおじさんも固い表情ながらにしっかり頷いていた。

 それをみて少しからだを硬くした僕だけど、それでもあの時のことを必死に思い出そうと努力した。


「えっと。どこから話せばいいのかな…その、覚えてる最初から話します」


 そうして僕は、記憶に残されたさの緑に囲まれた場所に一人、籠を背負い手に水瓶を持って歩き出す場面、そこから先に起きた出来事を話はじめた。








「ようこそ、珍しいお客さん」


 其の声に、僕も言葉を返す。

 はじめまして。

 此処は何処ですか?


「ロストへ至る場所。名前をいうならそんなところね。今では私の家みたいなものかしら」


 そうだったんですか。突然お邪魔してごめんなさい。

 でも、どうして僕はここに居るんですか?


「あなたが『あそこ』を出たいと願ったから。本当ならここに来る必要もなかったのだけど…あそこにはもう、あなたしかいなくなっちゃったのよね」


 はい…。ナナちゃんも、マルク兄ぃも、マゴ爺も、オジおばさんも…。

 気がついたら、あそこに残ってたのは僕だけになっちゃいました…。


「一人で、辛かったでしょうね。今まで良く頑張ったわ」


 そう、なんでしょうか。よくわかりません。

 …僕は、あそこを出たいと願ったんでしょうか?

 あそこを出ても、僕はこれからどうすればいいのかわかりません。

 何を頼りに、何を求めて生きていけばいいのかも。


「そうね。辛いかもしれないでしょうけど、聞きなさい。あなたに残された時間はおよそ五年。それを過ぎると、あなたはもう存在できなくなる。但し、それは何もしなければそうなるというだけ」


 五年?ですか。それだけ生きていれるなら、十分な気もするけど。


「…いいえ、あなたはまだ若いでしょう?今からそんな事を考えてはだめよ。

 あなたは、あそこから出たことがない。なら外を、世界を色々見て歩きなさい。

 沢山の景色を、沢山の風景を。

 沢山の人を、沢山の表情を。

 沢山の生活を、沢山の営みを。

 あなたは何も知らない。何もしていない。それなのに後五年で終わりを迎えるというのに、それを受け入れよう等と考えてはだめ」


 …なら僕は、どうしたらいいのですか?


「世界を巡り、『ロスト』と言う言葉を追いなさい。そして、今度はきちんと、あそこの扉を開いて此処を訪れなさい。そしたら私が、あなたのそんな運命に逆らうために全力を尽くすと約束するわ」


 僕に、出来るでしょうか?


「何もしなければ何も出来ないわ。出来るかどうかは私にはわからない。でも、それをしようという気にならなければ、私は何も手伝えない」


 …外の世界って、どんなところですか?


「とても広いわ。色々な景色があり、さまざまな動物が居て、沢山の植物が生きている。

 笑顔の似合う人も居れば、泣いてばかりの人もいる。歌を愛する人もいれば、下ばかり向いて歩く人もいる」


 楽しみなような、怖いような。


「ふふふ、それでいいのよ。最初から全て出来る人はいない。色々見て、聞いて、感じて、思い通りに行くときもあれば、何度やっても失敗する、なんてこともある。

 何もしなければ、何も始まらない。

 まずは、はじめることからはじめないと」


 はじめる、ことから、はじめる


「そう、あなたがここにいるのは、はじめるため。ここを出てからが始まり。

 さて、君はそろそろ行かないといけない」


 はい


「『ロスト』という言葉を覚えておきなさい。それがあそこの扉を開くための鍵よ」


 はい


「それを求める旅には困難が付き纏う。だけど、諦めたらだめ。決して折れず、立ち向かって、必ずここへ辿り着くこと」


 はい


「……それじゃぁ、体には気をつけるのよ?頑張ってね」


 はい。ありがとうございました。


「いってらっしゃい。『ヤト』」


 はい!いってきます


 


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