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騎士団のパン職人

騎士団のパン職人6

掲載日:2026/10/18

騎士団の朝はま早い。

朝食の準備に取り掛かるレティシアは更に早い。明け方から起きて、騎士団宿舎の隣にある女子寮にて身支度をして朝食の準備-パンを焼き始めるのだ。


「おはよう」

騎士団厨房をまとめるダークさんは騎士団の敷地内にある家族用の施設にお住まい。


ダークさんは騎士の皆様が朝練の後にがっつり食べる料理の仕込みに入る。

今朝は具沢山スープ(豆沢山!最近のダークさんの流行りはレンズ豆)と大きな焼きソーセージ、スクランブルエッグ、焼き野菜とパンのメニュー。補佐にマルサさん。

後は配膳や片付け、芋の皮むき(お芋大事!笑)や野菜の下処理をする見習いのトムとチャムさん。

この5人で騎士団の食堂は回ってる。



この騎士団でパンを焼き始めてから1年が過ぎようとしている。

私は子爵家の次女だけども、貧乏子爵家の生まれ。貧乏子だくさんなんて言葉どおり。長男、長女、私、三女、次男、四女と2歳差ずつ。なんというか計画性が違う方に向いている我が両親。


今朝のパンは街で流行っているという柔らかい白いミルクパン。


ミルクたっぷりにバターも使う。昨日の夜の仕込みには緊張した。

こんなにミルク使って失敗したらどうしよう!って。普段はバケットやブール、カンパーニュやライ麦パンなどのシンプルな材料のパンばかり焼いていた。


予算とにらめっこして、バターたっぷりデニッシュやクロワッサンも作ってたけども!

こんなにミルクを使うふわふわな柔らかいパン!緊張しかない。


ガス抜きして切り分け、キレイに丸めていく。今のところ、順調!

二次発発酵した生地をみてやっとひと息つけた。失敗したら大量のパンケーキかジャガイモのガレットを焼くつもりだったけど、大丈夫みたい。


お昼の分を取り分けながら、街では中に詰め物された「クリームパン」「ジャムパン」が人気だと聞いたことを思い出す。おやつにはいいけど、がたいのいい騎士団員さんの昼食には合わないよなぁ。


甘い物同志の団員さんたちのおやつにするために挑戦してみようかな。


クリームパンはカスタードクリームが中に入っていると聞いた。今、コンロ周りはダークさんとマルタさんが朝食の準備をして忙しくしてるから邪魔できない。


よし!前に作ったジャムの残りを使おう。

ミルクパンの残りを使い、中にジャムを入れて焼いた。

形も変えて、わかるように。間違えて朝食に出てしまったら、ちょっとした罰ゲーム

?ラッキー?人によるかな。


焼き上がったミルクパンを冷ましてカゴに盛り、私の朝食の仕事は終了。


残りの時間は朝ごはんの賄いを食べ、昼食の仕込みもお手伝いする。トムが相変わらずジャガイモの皮を厚くむいていたり、玉ねぎのみじん切りの手つきが怪しい。隣で見せるようにジャガイモの皮を薄く素早くむいていった。


「レティシアは、俺と同い年くらいなのにどこで修行したんだよ!」

トムがうるさい。

我が家では子爵家とはいえ、子どもも貴重な働き手だったからね。

兄は剣の体力づくりのためにという名目の薪割り。

姉は将来どこかの貴族家に嫁ぎ、女主人としての采配のためという名目の侍女見習い。主に掃除。

私は自分から厨房に乗り込んでいった。弟妹も自分の出来ることからコツコツと家の手伝いをしていた。

兄から学んだ読み書きや勉強は厳しく、弟妹達と半泣きだった。


明日は兄の学園の卒業式。猛勉強し、王城の文官登用試験に主席合格した兄。

なかなか休みが合わず会う機会は少なかったけども、同じ学園に通う姉には時々会い、様子も聞けた。

兄を慕う令嬢からの贈り物の飴やチョコレートの横流しも姉と分け合った。


手作りっぽいものは、その場で皆さんとお茶しながらいただきましょうかというと、令嬢は真っ青な顔していなくなると笑ってたよ、兄様。と、姉も笑ってた。

なにそれ、学園怖い。


卒業式に合わせて両親も王都にやってくる。貧乏すぎて王都にタウンハウスさえ持てない我が家。


宿とかどうするのかと聞いたところ、姉から、我が第五騎士団の団長さんの屋敷に招待されて一週間ほど滞在するっていうから、レティシアも会っていきなさいと聞かされた。


「お父様、お母様!」

「レティシア、久しぶり。元気そうだな。困ったことはなかったか?」

「レティシアがいないから、パンが美味しくないと子どもたちがうるさいわよ?」


にこにこと団長さんの屋敷で寛ぎ、お茶を飲みながらのんびりと両親が言う。1年ぶりなのに、なんだか久しぶりな気がしない。

団長さんも、奥様もにこにことしている。うちの両親、寛ぎ過ぎじゃない?自分家みたいよ?


「お兄様とお姉様はまだ寮ですか?」

「そうね、昨日までこちらで一緒にお世話になったわ」

姉は奥様の着せ替え人形にされ、逃げ出したらしい。ご愁傷様。

姉からは、そろそろ良いご縁の話が聞けるかと思ったのになぁ。


兄は卒業式の後、団長さんの屋敷にて滞在させていただき、王城での文官の寮に入る手続きをするという。

そうなったら兄とも会える時が増えるかな?お互い下っ端同士だから、無理かなぁ。


両親もあと何日かは王都にいるという。

お土産は?と聞いたところ、団長さんご夫妻、うちの両親が顔を見合わせて

「アンソニーが王都中の菓子屋の飴やチョコレート、焼き菓子を大量に持ってきたぞ」

あ〜、はい。わかりました。令嬢からの貢物ですね。


「レティシア、本当にこのままパンを焼いていくの?」母が言う。

「レティシアが働かなくてもなんとかなるんだがなぁ」父もいう。

その、なんとかが怖いです、お父様。また騙されたりしないでください。


「レティシアのパンは美味いぞ」

「あ、街のパン屋さんの真似してジャムパン持ってきました」

と執事さんに渡す。人数分ないから、なんとかしてもらおう。


小分けされたジャムパンをつまんだ奥様は「あら、本当。美味しいわ」

「美味いって言っただろう?サンドイッチにこないだ、にんじん入れやがったんだぞ、レティシアは」

「まあまあ!もちろん召し上がったのね?あなた」

「ゴホン!まあな」

そう、団長さんも苦手なにんじんをなんとか食べれるように工夫してる。まあ、ダークさんのスープにたっぷり入ってるんだけどね。


両親に別れを告げ、団長さんの屋敷をお暇し、騎士団の厨房に帰ったら、チャムさんが怖い顔して仁王立ちしていた。

どうしたんだろう、今日お休みだったよね。


「レティシア!私にジャムパンはないの!?」

あはは、チャムさん、それで怒ってるのか、可愛いなぁ。


「ちゃんと残してありますよ。コンロが空いたらカスタードクリームも作ってクリームパンも作ってみようかと思ってます」

「わあ!ありがとう!」

チャムさんは嬉しそうにジャムパンを頬張る。


「カスタードクリームなら作っといたぞ」ダークさんがボールを持ってきた。

「団員さんの甘党族が楽しみにしてるよ」マルタさんも笑う。

「俺、ずっと玉ねぎみじん切りだった」と、トム。

「ミルクパンを作るレティシアに玉ねぎの匂いの手にはできないでしょう?」

ちゃんと手を洗ってますよ、マルタさん。


夕食の支度の前にクリームパン、ジャムパンを焼き、甘党族の団員さんへと、メモと共に配膳口に置く。チャムさんとトムもクリームパンに夢中で食べている。

ダークさんは「うん、俺のカスタード、イケるな!」とご家族にも持ち帰るそうだ。


さ、夕食のカンパーニュの仕込みしようっと。みんな、美味しく食べてくれますように。

甘党族の騎士の方々

「うわ、クリームパン!」

「え、俺のジャムパン!」

「どっちも食べたい!」

「メモがあるぞ。何なに?『お野菜を残さず食べるとまた甘いパンが食べられます。連帯責任のため、悪しからず』」

「...まずは団長のにんじん嫌いから制覇していこう」

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