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「お前を殺す」と、暗殺者がやってきた

作者: 井上さん
掲載日:2026/09/13

名前を借りました



フィクションです

「お前を殺す」




 私ノアには婚約者バッファ第1王子がいる。


でも、バッファ王子は、男爵令嬢クーロンが好きらしい。


学園で、いつも2人でいて、堂々とイチャイチャしている。


 王子としての教育をサボり、クーロンと遊び回っていた。


側近候補達は、何も言わない。


それで、側近が務まるのだろうか?




 とにかく、クーロンが好きなら、私とは婚約解消して、堂々と婚約すれば良いのに、しないのだ。


 わざわざ人前で婚約破棄して、私にダメージを与えようというのか?


 私が婚約者でいたいと駄々をこねて、2人の真実の愛(笑)の邪魔をしているとでも思わせて、同情されたいのか?






 だから、暗殺者が差し向けられても驚かない。




私はその時、爽やかな風が吹き抜ける庭の東屋で本を読んでいた。


「クーロンに頼まれましたか?バッファ王子ですか?」


 バッファ王子は、政略結婚が嫌らしい。初対面から嫌われていた。


私がどう、というより、政略結婚の相手が嫌なのだ。


「令嬢だ」


 暗殺者が答えた。


「そうですか」


「驚かないのか?」


「予想はしてました」


 暗殺者は、しばらく考えていたが


「覚悟は良いか?」


「すみません、この本を読んでからにしてください」


「まぁ良いだろう」




 しばらくして暗殺者が声を掛けてきた。


「読んだか?」


「まだです」




 夕方。また暗殺者が声を掛けてきた。


「読んだか?」


「もう少しです」


「また明日来る」


 暗殺者は帰っていった。

明日で良いのか?




 次の日、約束通り(?)暗殺者がやってきた。 


「読んだか?」


「…すみません…続編が出ると書いてあるので、読みたいのですが…許されますか?」


 申し訳無さそうに、暗殺者に言ってみた。


「…仕方ない、読め」


 暗殺者は、続編を読むことを認めてくれた。良かった。


ちょうど、主人公が崖から落ちた所で終わったのだ。そんな終わり方無くない?


「ありがとうございます!」




 次の日。図書館で、続編を探して読んでいた。


「読んだか?」


 図書館だからか、声を小さくして聞いてきた。マナーの良い人である。


「まだです」


「その本、そんなに面白いのか?」


「貸しましょうか?読んでみてください」


「分かった」


 私は、暗殺者と一緒に邸に帰って、昨日読んでいた本を暗殺者に貸した。




 次の日。暗殺者がいきなり


「続編を早く寄越せ」


 と真顔で言った。今日は雨なので、部屋で読書している。


「読むの早いですね」


「寝ずに読んだ」


 一気読みしたのか。


「分かります。でも寝てください」


「…善処する」


「しないやつでは?」


「良いから続編寄越せ」


「あの…残念なお知らせです…」


「どうした?」


「また続編があるそうです」


「…」


 暗殺者は、またか、という顔をした。


「読んでも良いですか?」


「気になるんだろう?」


 主人公を庇ったヒーローが、悪役に攫われたのだ。

え?何で???


「気になります」


「読め」


「ありがとうございます!」


「それより続編」


 私が読んだのは図書館の本だから、暗殺者には貸せない。


「書店で買ってきましょうか?」


「昨日のは、図書館の本か?」


「そうです」


「じゃあ、借りてくる」


 律儀に図書館で借りて読んだらしい。




 次の日。


「読んだか?」


「残念なお知らせです」


「読め」


 暗殺者は、内容を聞かずに言った。


「まだ何も言ってない!」


 思わず突っ込みを入れた。


「読め」


「ありがとうございます」


「何巻あるんだ?」


「分かりません」


 続き物とは思わなかったのに。


主人公に、いつの間にか婚約者ができていた所で終わった。

どんな展開なのよ!?




 次の日、暗殺者が言った。


「調べたら、20巻あったぞ」


 図書館に並んでいる同じ作者の本、シリーズ物だったのか。でも、20冊は無かった気がする。

 誰かが借りてるのか、全巻揃ってないだけか?


「そんなに!?」


「そんなにだ」


 暗殺者が頷いた。

そんなに暗殺を待ってもらうのは申し訳ない。


「諦めます」


「ダメだ」


 即答だった。


「え!?」


「お前には、場所を移ってもらう」


「え!?」


「世間的には死んだことにする」


「…!?」




 私は、図書館に行ったきり、行方不明になった。ことにされた。




どこかは分からないが、山の中の、暗殺者の家に匿われて、本の続きを読む。

書店から、全巻買ってきたらしい。


そんなに面白かったのかな?






 緩やかに王都を流れる川から、私の死体が発見された。


橋の上には、私の靴が片方落ちていたらしい。


顔は、川に落ちた時にぶつけたのか、潰れていた。


 着ているドレスも私の物だし、アクセサリーも私の物だし、背格好も髪色も同じだから、本人に間違いないだろう、とのことで、私の葬儀が行われた。


 と、暗殺者から聞いた。


どうやら、両親と話をしたらしい。

私の部屋にある本を数冊持ってきた。


私のお気に入りの本だった。両親が、暗殺者に預けてくれたらしい。有り難い。


何度も読んだ、大切な本。私は、本を抱きしめた。






 しばらくして、クーロンとバッファ王子は婚約した。


王子の婚約者が川で死体で発見された。

そして、すぐに別の令嬢と婚約。


誰も、おかしいと思わないのか?



 婚約者だった私が邪魔だったから、私を殺すように依頼したと、すぐに分かりそうなものなのに。



 別に良いけどね。

婚約者らしいことなんて、何もしていないし。


政略結婚だからって、一方的に嫌ってくる男なんて、要らないもの。






 暗殺者に襲われていた先代国王を、通り掛かりに命を救った私の祖父に恩義を感じ、姉妹か娘を嫁にする、と、先代国王は約束した。


祖父には姉妹も娘もいなかったから、孫を、ということになった。


 現国王は、話を何度も聞いていて、恩義を忘れていなかったから、孫娘である私を、息子である王子と婚約させた。




 一方、頭空っぽ勉強嫌いのバッファ王子は、何度も話を聞いても恩義なんて気にならないし、政略結婚というだけで忌み嫌う、短慮な男だった。



国王は、王子とクーロンを結婚させた後、離宮に幽閉した。



 国王には、他に王子がいる。まともで真面目で勤勉な王子に後を継がせるに決まっている。






「大変だ!」


 暗殺者…ナンドという名前らしい…の邸は、王都から離れた、国境に近い山の中にあった。


 誰も来ない小さな邸の、私の為に用意された可愛らしい部屋。


今日も読書していたら、ナンドが帰ってきて叫んだ。


「どうしました?」


 私は首を傾げた。


「新刊が出た!」


「まぁ!」


 ヒーローに、生き別れの弟がいたのが分かった所で終わっていた。

どんな展開になるのか?




 2人で本について話すのは楽しかった。


ナンドは、暗殺者を引退して、大量に書籍を買い込み、2人で読書生活を満喫している。



 新刊を、どちらが先に読むかで譲り合った。


私は今、好きな読書をして、穏やかに幸せに暮らしている。


読んでいただきありがとうございます

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